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「算数、いまいちなんだよなあ。また家でもやらないとなあ」


 じゅくが終わって、ぼくらは商店街のお肉屋さん前にいる。コロッケがひとつずつ出てくるのを待っている。


「算数苦手かあ?」


 お肉屋のおじさんにからかわれる。


「コロッケ四個で、いくらかねえ?」

「そりゃわかるよ。五十円が四個で二百円」

「残念。

 おじさんがおまけしたから、みんな四十円で、あわせて百六十円でした」

「えっ。でもありがとう」

「気を付けて帰りなよ」


 さようなら。


 イズミさんとサトウさんは、商店街の近くに家があるから、すぐに別れた。


「また明日」 


 ぼくとオオモリくんだけが少しいっしょに歩く。


「七時でもううす暗いなあ」

「そうだねえ」

「ところでさあ、」


 さあ。オオモリくんのいつものがはじまった。


「今日、先生、やばそうな電話受けてたな」


 オオモリくんの地獄耳じごくみみだ。


「おれたちも、なかなか大変だよな。知らないふりするの」

「まあね」


 タマがポケットの中でもぞもぞしはじめた。気になるんだろう。


「こんばんは」


 そのとき、ぼくたちに声をかけてきたおばさんがいた。

 これから買い物に行くのか、お仕事帰りなのか、よくわからないかんじだった。


「あそこのじゅくの子? わたし、ミヤタユキヒコのおばなんだけど、いつもお世話になってます」

「はい。こちらこそ」

「ユキヒコくん、今日は塾、休みでしたね」

「あら、そうなの。さいきん、調子よくないのかしら?」


 ぼくとオオモリくんはきん張していた。


「用事あるんじゃないですかね。ぼくら、クラスがちがうから、そのへんよくわからなくてすみません」


 ぼくはきん張しているだけなのに、オオモリくんはこんな時も大人の人と話せてすごい。


 そこに。


「やあやあ、ごめんね、むかえがおそくなって」


 間のびしたようなおじさんの声がした。



 ねこ背でにこにこしている、ぼくのが現れた。


「まあ。いつもお世話になっております」


 するとユキヒコくんのおばさんは、さっと身を引いて、


「すみません、お引きとめしてしまって。失礼します」


 いなくなってしまった。


「さあ。かえろうよ」


 が、ぼくとオオモリくんの肩をぽん、とたたく。

 なんとなく、ふんわりやわらかい。


「ねえ」


 オオモリくんが、小さい声で言った。



 があわてて、ぼくらは笑った。

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