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「今日だけだよ」


 じゅくだって、学校と同じでねこをつれていってはいけない。


「うれしいんだねえ」


 タマは今、ぼくのパーカーの右ポケットの中だ。


「こんにちは」


 ぼくの行っているじゅくは、NPOが運営している無料のところで、水曜日は小学校高学年の日だ。

 中学受験を目指している子も来ているけれど、ぼくは今のところ中学は家から近い公立の予定。

 いつもは全部で五人いるんだけど、今日は四人だな。


「ねえねえ。帰りみんなでコロッケ食おうよ。今日、一個五十円だって」

「ええ。夕ご飯前に怒られるかも」

「ぼくは行く」

「持って帰ればいいじゃない」

「そうかあ」


 なぜか学年で一番頭がいいって言われてるオオモリくんがいるんだな。そしていつも買い食いの言い出しっぺだ。


「じゃあ、最初は国語ね」


 昼間は大学院生のサノ先生が、今日のドリルのページをホワイトボードに書いた。


「あ。

 じゃあ、みんな、このページ、答え合わせの時間までやってみよう」


 そこで先生、電話がきて事務室へ行った。


「はい。

 ……お母様ですか? お世話になっております」


 大人の電話は、決まったことを話すなあ。


「お届けの電話番号?」


 サノ先生、声が通るんだよなあ。


「いえ。それはお伝えいたしかねます」


 時々、電話で困ったことを言われているんだろうなあ、というのが聞こえてくるんだけど、ぼくらはドリルを解くだけだ。


「漢字は、おもしろいねえ」

「あ、タマ」


 小さいタマが顔を出した。


「あとで、タマもやってみたい」

「帰ったらそうしよう」


 あっ。

 ポケットが軽くなった。じゅくの中を散歩するつもりなんだろうな。


(〈航( )〉。かっこの中に、なんて書こう)


 航海。航空。航路。

 正解がひとつじゃないぞ。

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