4

 つぎの日は朝から晴れて、今日は仕事がお休みのお母さんは、洗たくがいそがしいとタマにこぼしていた。

 と、思っていたのに。


「あ、タマ」


 教室についてランドセルをあけると、中に小さくなったタマがいた。


「どうしたの」


 学校にねこをつれてきてはいけない。


「国語だよ」


 わかった。

 タマは、『注文の多い料理店』の授業を聞きたいのだ。ゆうべ、教科書を熱心に読んでいると思ったら。


「机の中にいるよ」


 ぼくは、机の中を片付けた。そして、タマの居心地がいいように、体育着のふくろにお母さんが入れてくれていた小さいタオルをしいた。


「おはよう」


 ハヤサカさんが、うちのクラスに用事があったみたい。放送クラブのことらしい。

 彼女は話すようすがなんだか落ち着いていて、かみも長くて、背も高くて、大人っぽいとみんなから思われている。

 足元は。

 上ばきは、ちゃんと左右とも緑だった。昨日の間ちがえに気づいたのかな。


 そしてついでにぼくは気がついた。

 ぼくのとなりの席の、放送クラブのヤマガタくん、来客用のスリッパをはいている。


「上ばきは?」

「おはよう」


 そこで先生が教室に入ってきたので、話はそこでとぎれてしまった。


「!」


 ひざの上に手をそろえて座っていると、机の中からなにかがつついてくる。

 あ、タマか。


「国語は二時間目だねえ?」


 そうだね。


「ちょっと、散歩してこよう」


 見つかったら困るよ。

 声をかける間もなく、タマは机からひょい、と飛び降りると、さっ、と見えなくなった。


 化けねこの動きは速いな。


 そして、一時間目の理科が終わり、休み時間のチャイムが鳴った。

 タマのことが心配になって、だれよりも早くろう下へ出てみると、


「あれ」


 黄色い上ばきの片方が、教室前のろう下に。


「あれ!」


 それを見つけた誰かが声をあげた。

 ヤマガタくんだ。


「ここにあったの?」


 ぼくはうなずいた。


「たしかにこれ、おれのだわ」


 そこに先生が来て、


「用務員のおじさんが置いてくれたんじゃない?」

「ああ、そうか。

 でも、よく取ってくれたなあ。お礼言わなきゃ」


 何が起こっているのか、ぼくはよくわからなかった。先生とヤマガタくん、いっしょに行ってしまったし。


 そうだ、タマは?


 そのさわぎのあいだに、ぼくの机の中に戻っていたみたい。


「まだかな、まだかな」


 よほど国語が楽しみみたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る