「おかえり」


 この日は雨で、水が苦手なタマは遠巻きにぼくを出むかえた。

 吹きかけた雨でぼくは、少しぬれていたからね。


「タオル、ありがとう」


 玄関に、タオルがたたんで置いてあった。


「すごい雨だねえ」

「寒くなったし。タマは大丈夫だった?」

「ずっと、おうちにいたから、平気だよ」


 昨日、『あした天気になあれ』をしなかったからこんな雨になっちゃったんだよ、とタマは言って、


「学校、どうだった?」


 化けねこになってから、タマは学校のようすを聞きたがるようになった。

 もともと学校には興味があったのに、ねこの時は話せないから、ぼくが気づかなかっただけかもしれない。


「なんだろうなあ」


 変わったことは、特にないかな。雨がすごかったことで、なんだか忘れてしまったかも。


「そうだ、気になったんだ」


 ぼくは、急に思い出した。


「上ばきだよ」


 図書室に寄った帰りに見かけたとなりのクラスのハヤサカさん、体育館に行くみたいだったけど、上ばきが左右ちがっていたのだ。


「右が緑で、左が黄色だった」

「間ちがえたのかな?」


 音楽室のとなりが放送室でそこは土足禁止だから、そこに行く用事があれば、そういうこともたまにある。


「ハヤサカさん、放送クラブだからね。帰りの放送当番だったっけ?」


 誰かが片方間ちがえると、間ちがわれた誰かも間ちがったほうの上ばきがのこるから、上ばきを間ちがえたのは、ハヤサカさんかもしれないし、ハヤサカさんじゃないかもしれない。

 そう、放送クラブの副クラブ長なので、目立つ人なんだ、ハヤサカさん。今年の四月に転校してきたばかりなのにぼくでも知ってる。


「でも、ハヤサカさん、上ばきの間ちがえなんてしなさそうだなあ。

 まあ、明日になれば、どっちかわかるよ」

「そうだねえ」


 タマは電子レンジで牛乳を温めてくれた。


「あちちちち」


 化けねこには熱いらしい。

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