魔法使いと腐敗の戦士
「ひぃいいい!?」
「ルハザード様おさがりを。お前たちなにをしている、その者を殺せ!」
叫ぶルドルフ、動き出す憲兵。
剣を抜くアルバス。憲兵の首がぽんぽんぽんっと3つ一瞬で宙を舞った。
ルドルフはアルバスへ斬りかかろうとする。
目の前を黒い影が強烈に叩く。
腐敗の戦士とルドルフ。
見合い「うォおおお!!!」とルドルフは大上段から斬り降ろす。
戦斧がたくみに剣を受け止め、弾き、斬りかえした。
まるで嵐を纏っているかのような一撃だ。
ルドルフは身をそらして回避しようとする。だが、間に合わない。
戦斧はルドルフの左腕をいとも容易く斬り飛ばした。
「ぐゥう! ば、ばかな……剣聖流三段のこの俺が……っ!」
ルドルフは膝をつき、最後にコラプション・ウォリアを見上げる。
「これほどの怪物を使役できる魔術師がいるなんて聞いたことがない……あの男は、いったい……──」
すぐのち、ルドルフは黒い鉄槌に叩き潰された。
「ひええ!? る、るる、ルドルフ!? 私のルドルフが……っ!」
憲兵のバラバラ遺体が散らばるエントランス。アルバスは血をぐっしょり吸った赤い絨毯を踏みしめて、ルハザードのもとへ来る。
ルハザードはおののき逃げ出した。
逃げた先で、物陰で震えて息を殺していたメイドを発見した。
「こっちへこい貴様!」
「や、やめてください……!」
アルバスが追い付く頃、ルハザードは少女の首に短剣をつきつけて人質としていた。
「近づいたらこの娘を殺すぞ!!」
「俺がそんな知らない娘の命なぞ気にするとでも」
アルバスはまるで構う様子もない。
窓から差し込む月光に魔法剣フガル・アルバスが鈍く輝く。
「や、やだよ……っ、死にたくない……っ!」
「死ね。お前なぞ、俺にはどうでもいい」
アルバスは冷たくメイドに言い放つ。
滂沱のごとく涙をながし命乞いするメイド。
「な、なんて冷酷な男なんだ……!」
ルハザードはメイドでは人質としての価値が無いと考え、いっそ殺してしまおうと短剣を突き刺そうとした。
アルバスは眉根をぴくッとさせ不機嫌な顔になる。
「短剣よ、こっちへ──」
『勅命の魔法』により、ルハザードの短剣はアルバスの手元へ引き寄せられる。
そのさまを見て、ルハザードも、メイドも目を大きく見開いた。
「お、おまえ……っ、いま……! いま!」
腐敗の戦士はルハザードの顔面をがしっと掴み、メイドから引き剥がすと勢いのままに壁に叩きつけた。真っ赤な大輪がグシャっと咲き誇った。
ぴくぴくッと痙攣している。
まだ息はあるようだ。
「いい感じだ。力加減うまいな、お前」
アルバスは感心した風にコラプション・ウォリアの肩をこづく。
「あ、あ、あなたは、一体……。いまのは、まさか、魔法ですか……?」
「……そうだ。だが何も聞くな。名も聞くな」
アルバスはメイドのまえで膝を折る。
「俺は正体をだれにも知られたくない。口外するな。……そして村に帰るといい」
「……っ、ありがとう、ござい、ます……ありがとう、ございます」
メイドは涙を流しながら繰り返していた。
すぐに立ち上がり、深くお辞儀をすると、屋敷に住み込みで働かされている仲間たちのもとへ向かい、そして夜のうちに不当に連行された少女たちは屋敷から解放された。ひと月もせず、少女たちは村へ帰れるだろうと思われた。
「お前はこっちだ」
アルバスは死にかけでピクピクと痙攣するルハザードを引きずり、玄関エントラスに放り捨てた。
フガル・アルバスで自分の手の平をすこし斬り、その血をルハザードに浴びせる。
直後、苦悶の悲鳴が響き渡った。
「ア、ガ、ぎゃ、ぁあああッ!!!!?」
『死霊の魔導書』はアルバスにふたつの魔法を与えた。
ひとつはアンデットを召喚し使役する『死霊の魔法』。
もうひとつは血を腐敗の呪血とする『腐血の魔法』である。
「腐り祈れ。なるべく早く死ねるように」
アルバスは背を向け、フガルを鞘に納めると颯爽と屋敷をでていった。
その背後では「ぁあああッ! 殺してぐれッ! 殺ぜぇぇええッ!!」という悲鳴が残響していた。
殺戮後の帰り道のことだった。
「おや、こんな夜更けに殺人鬼に出くわしてしまうとは」
言って、山のような巨体を誇る騎士──『北風の剣者』ウィンダールは快活に笑った。
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