北風の剣者 vs 魔法使い
「アルウ……」
両手をいっぱいに広げ、アルウはウィンダールをカッと見上げる。
「やめてください!」
「なにをしているのですか」
扉を突き破って、サクラにクレドリス、クララにトーニャ、さらにはグドにジュパンニも一斉に飛び込んできた。って狭いよ。どんだけ盗み聞きしてんだ。
「これはこれは、ずいぶんな野次馬であるな」
ウィンダールは剣を収める。
俺は柄にかけた手を離さない。
「アルバスを、いじめないで……行くから」
「アルウ、無理しなくていい。この程度なら軽く殺せる」
ちょっとだけ刃を抜く。
「殺人鬼っ、相手はあのウィンダールじゃぞ……っ! 斬ったらただじゃすまん!」
グドが蒼白になって言ってくる。
彼はかつて騎士団に所属し『鬼のボランニ』と一部界隈では畏れられていたらしい。だからこそウィンダールの威光を誰よりも良く理解しているのだろう。
「ウィンダールは人間王国『四剣客』のひとりじゃ。剣の腕で敵うやつなどおらん!」
「お父さん黙ってて! アルバスさんが決めることだよ!」
「ええい、わからん娘じゃな、お前は! 殺人鬼は血の気が多いから絶対斬ってしまうだろうが!」
「静かにしてください!」
騒がしくなったところで、ウィンダールは肩をすくめ「日を改めようと」言って腰をあげてしまった。
去り際チラっとこちらを見て来る。
目配せだ。外へ来いと言っている。
上等だ。
俺はあとについていき、いっしょに外へ。
当然宿屋のみんなも気づいているので、あとについてくる。
そのまま俺たちは表通りにでて向かい合った。
「その勇気を称えよう。大事なものを守るために剣を握る。実に美しいと思うのだ」
ウィンダールは品の良いちょび髭を指で弾き、剣を抜いた。
黄金に輝く宝石が柄頭と鍔にはめられた美しい直剣である。
「だが、私もまた王国を守らねばならない」
「知るか」
俺はフガルを抜き、ゆるく構える。
野次馬がわらわらと集まって来た。
「ウィンダールだ! ウィンダールが剣を抜いてるぞ!」
「相手は殺人鬼じゃねえか!」
「おい、お前たちなにがあったんだよ!?」
「ばっきゃろう! 昨日の続きに決まってんだろうが!」
「中隊長、これはなんのお騒ぎですか!」
「殺人鬼を殺すんですね!? 加勢します!」
「アルバス……っ、わたしは、わたしは」
「アルウ静かにしてろ。なにも言わなくていい。俺が守ってやる」
「アルバス、違うの、わたしは」
俺はアルウの声などシャットアウトして感覚を研ぎ澄ます。
我が体に染みついた剣の術理よ。導いてくれ、勝利へ。
「いくぞ──」
ウィンダールは短く息を吐き捨てた。
豪風をまとって一気に踏み込んでくる。
まるで山が飛び込んできたみたいだ。
とてつもない威圧感。圧倒的なオーラ。
だが──なんでだろう。思ったより全然──
俺はウィンダールの大一太刀を剣を横にして受ける。
そのまま刃上を滑らせて、地面へと案内し、相手の刃先をさげさせる。
「ッ!(この男、上手いッ!)」
下がった刃先をうえから思い切り踏みつけると、刃は地面深く沈んだ。
『怪腕の魔法』で強化した万力スタンプだ。石畳みはひび割れ、野次馬たちはよろめいた。ウィンダールをして驚愕に目を見開いていた。
俺はウィンダールの春の小麦のごとき金色の髪を鷲掴みにして、その顔面に膝蹴りをお見舞いした。もちろん怪腕で強化した本気の膝蹴りだ。
頭蓋骨を砕いて、一発でぶっ殺してやるつもり打った。
結果、ウィンダールは宙を舞い、10mほど打ち上げられて、地面に勢いよく落下した。
膝蹴りの衝撃で、剣は手から離れている。
「ぐはっ! がほっ、がほっ!」
「う、嘘だろ……っ」
「中隊長っ!!」
「殺人鬼を仕留めろ! 中隊長に近づけさせるな!」
「ウィンダールが負けた! ウィンダールが負けた!」
「俺たちの殺人鬼の勝ちだ!!」
「すげえ、ありえねえ、『北風の剣者』ウィンダールに勝ったッ!」
「てか、いまの蹴りどうなってんだ……殺人鬼の倍もあるウィンダールがあんな高く──」
場が混乱していくなか、俺は剣を思い切り振った。
旋風が巻き起こり、野次馬たちがシーンっと静かになる。
「邪魔だ。どいてろ。死にてえのか」
「あっ……」
「す、すみません……」
俺はウィンダールに近寄り、剣先を向ける。
「はぁ、はぁはぁ……」
こいつを殺せば俺は……だが構うものか。
「アルバスっ!」
「っ」
アルウが俺の服をひっぱっていた。
その瞳には雫が浮いている。
「やめて……どうして、話を聞いてくれないの……っ! 話を聞いてくれない、アルバスなんてだいきらいっ!」
言われた瞬間、俺の頭はスンっと醒めた。
冷や水をかけられたかのような衝撃に思わずフガルを取り落としていた。
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