「大好きだ。さあ死んでくれ」


 宿屋にやってきた憲兵2人。

 おおきな身体を鎧に押しこめ張りつめさせるほど屈強だ。

 どうにもただの憲兵と言う感じはしない。

 

「こい、アルバス・アーキントン」

「お前を拘束する」


「おい、殺人鬼どうするんじゃ」


 グドが心配そうな顔を向けて来る。

 

「あとを頼む。すこし行ってくる」

「あ、ああ、それはいいんじゃが」


 憲兵たちとともに夜の暗い通りを歩く。

 両手首はきつく縄で縛られてしまった。


「窃盗の罪咎ってなんのことだ」

「しらばっくれるな。貴様は領主さまの奴隷を盗んだのだろうが」

「奴隷……」


 あの日のことを思いだす。

 アルウに出会ったあの日。

 やせ細り、汚れきり、ゴミのように捨てられたアルウの姿。

 

「領主が捨てた奴隷を俺が拾って飼っているだけだ。なんの問題がある」

「言い訳をするな! 貴様は勝手に領主さまの財を盗んだ罪人だ!」


 話にならなそうな雰囲気が凄かった。

 見覚えのある道をたどっていき、集団墓地へとやってきた。

 

「おい、なんで墓なんかに」

「いいから黙ってついてこい!」


 そのままカタコンベまでやってくる。

 すこし前に来たばかりの闇の儀式が行われた場所だ。

 憲兵は腰の剣を抜き、夜の闇に鈍く刃をきらめかした。


「なにしてんだ、あんたたち。俺を温かくて、柔らかくて、お腹いっぱいご飯がでてくる牢屋に連れて行ってくれるんじゃないのか」


「はっはっは、愉快な野郎だ」

「冗談を言える胆力だけは認めてやる」


「そうか。俺を殺すのか」


「言わなくてもわかるだろうが。この盗人っめ」

「お前を殺したあとであの奴隷のエルフは領主さまのもとへ戻る。あの宿屋にいた娘もなかなかに良かった。お前と仲も良さそうだったし、あいつもいただくとしよう」


「ずいぶん欲張りなんだな。そんなことがまかり通るのか」


「へへ、領主さまの強権を甘く見るなよ。あのお方が声をあげれば、領地にいるどんな娘も全部あのお方のものだ」

「辺境の村には可愛い娘がいるもんだから、そういうことはよくあるのさ。攫って来て、あとで村に金を落とせば、村人たちは勝手に納得する。というかせざるを得ないんだがな」

「へへ、村娘が町娘に変わったところで誰も文句を言えやしないさ。この世は勝つ方についてれば甘い汁すすれるってことさ。お前は敵を間違えたんだよ」

 

「ああ、本当に愛らしいやつらだな、お前たちは」


「「あ?」」


「楽しくなっちまう。まったくまったく。こんなどうしようもないクズがいるからぶっ殺した時に最高に気持ちがいいんだ。悪党ならどんだけ殴っても怒らない。だから──」


 腕に力をこめて縄を引き千切る。ちゃちな拘束は解除された。

 

「大好きだ。さあ死んでくれ」


「っ! 噂どおりの怪力だ!」

「舐めるな。俺たちは剣聖流の有段者。領主さまに選ばれし剣だぞ!」


 屈強な男たちは抜剣し構える。


 俺は親指の腹を犬歯でかみきり、その血を地面に垂らした。

 符号はなった。

 『死霊の魔法』が作用する。


 大地に黒い液体がわきだし、泡立つ黒泥から腐敗の戦士が姿をあらわす。

 腐りかけた黒いマントに身をつつんだソレは身の丈もある戦斧を持ち、暗黒の重厚な鎧に身をつつみ、ヘルムからは紅く灯った瞳がやどる骸骨の顔をのぞかせていた。


「ひぇ!?」

「こ、こいつは……ば、ばかな……ッ!」


「コラプション・ウォリア。逃がすなよ」


 腐敗の戦士はおおきく戦斧をふりあげる。

 憲兵は剣を寝かせてガードをしようとするが、刃ごと叩きおれ、脳天から股下へかけて両断されてしまった。血と臓物を巻き散らし息絶える仲間を見て、憲兵は金切り声をあげて、狂ったように逃げだす。


 瞬間、黒い風が吹いた。

 まわりこんだ暗黒の戦士は斧を叩きつける。

 鎧を着た憲兵は砕け散り、赤いシミとなってカタコンベの土を汚した。

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