変な噂ばかり増えよる


 桜ト血の騎士隊たちに飯を渡したので、次はアルウのもとへ配膳する。

 

「さあ、熱いから気を付けて食べるんだ」

「うん。アルバス、心配性」

「心配性だと?」

「あ……全然心配性じゃない……」

「ふん、そうだろう。間違ったことを言うなよ。俺の気分を害すれば、夕飯は……ちょっと少なくなるぞ」

「うん、気を付ける……」


 本日は一日宿屋にいるつもりだ。

 野ブタの乾燥肉もたくさんあるし、シルクの貯蓄も余裕がある。

 

 午前、俺とアルウはお勉強タイムをおくる。

 アルウは人間語を、俺は猟犬のコンクルーヴェンが遺した『死霊の魔導書』を読み解くのだ。

 

「アルバス、わたし剣を使えるようになりたい……」


 勉強の終わり際にこんなことを言いだした。


「剣だと? ダメだダメだ。そんな危ない物絶対に許さんぞ」

「みんな剣持ってる……私も剣使いたい……戦えるようになりたい」

「どうして戦えるようになりたいんだ」

「クレドリスとトーニャ……かっこよかった……」


 昨日の話だろうか。

 グランホーの森林では2回ほど襲撃にあった。

 1回目は大きな野ブタ、2回目はゴブリンたちであった。

 どちらもクレドリスとトーニャが剣で軽くいなして撃退した。

 なおサクラとクララは俺の紐を掴んで離さなかったので一回も剣を抜いてない。


 その姿にアルウは憧れたのだろう。


「考えておこう。だが、まずは人間語をしっかり覚えてからだ。それにまだアルウは体が弱い。もっとたくさん食べて元気をつけないとだめだ」

「……うん、わかった」


 午後は散歩にでかけた。

 外の世界を恐れない事はよいことだ。

 彼女は生来好奇心旺盛な活発な性格なのかもしれない。

 抑圧され、環境が酷かったので、人間の世界をまともに見て感じる機会がなかっただけで、本来は多くの者に興味を持ち、行動する。そういう子なのかも。


「殺人鬼がまたエルフを連れてあるいてら」

「血も涙もないやつのことだ。きっと身の毛もよだつような目に遭ってんだろうな」

「フードで顔を隠しているのは全身にある虐待の痕を隠すためらしいぜ」

「流石はグランホーの終地一番の大悪党だぜ。余念がねえ」


 俺のような男が若い少女を連れて歩けば、たちまち噂は広まった。


「はわわ、殺人鬼さん、もしかして今度はそのちいさな女の子をつかって悪逆の限りをつくすつもりじゃ……!」

「この女が俺をよく知る受付嬢だ。ポンコツでビビりだが、まあ、話がわかる」

「こんにちは、アルバスがお世話になってます……」

 

 ギルドの前を通り掛かった時、たまたまいつもの受付嬢にあったので紹介しておいた。アンデット騒動のあと、なんだかんだ会ってなかった。


「あっ、そうだ、実はギルドから褒賞がでるとの噂がありますよ」

「褒賞? 俺にか?」

「邪悪な魔術師を倒したお礼の品が贈られるとおもいます。時間はかかるかもしれませんが、楽しみに待っててください。ちょくちょくギルドには顔をだすようにするといいかもです」

「不安にならずとも顔はだす。そろそろ冒険者等級もあげたいしな」


 現在俺はEランク。

 Dランクになったら討伐クエストを受けられるようになる。

 豚肉採集ではない。ちゃんとしたモンスター討伐だ。

 報酬もよくなるだろう。

 

「そういえば、広場のほうで殺人鬼さんの事が噂になってましたよ」

「聞いたよ。俺がこいつの身体に虐待の痕をつくってるとかって話だろう」


 アルウの頭にぽふんっとフードのうえから手を置く。


「いえ、それが、なんでもグランホーの終地に人間騎士団の中隊が来ているらしくて」

「人間騎士団の中隊?」

「ええ。そこの隊長さんが大変な豪傑なようでして、アンデット騒ぎで目覚ましい戦いをした殺人鬼さんに興味をもたれたとかで皆に『そいつを連れて着たら1,000シルクやる!』と、言い放ったそうです」

「なんだ処刑されるのか、俺は」

「腕試しではないでしょうか。英雄と呼ばれる方は強い者がいると聞けば力をぶつけあって試してみるのが常でしょう?」

「そういうものか」

「そういうものですよ、殺人鬼さん」


 受付嬢は言って、俺の手首をバシっと握った。


「ん? なんだよ」

「? 殺人鬼さんを捕まえたので1,000シルク貰いに行こうと思いまして」

「お前が俺を売るのかよ」

「えへへ、だってただで1,000シルクですよ? そりゃあ連れて行きますよ」

「半分寄越せ。それでイーブンだ」

「むぅ、流石は殺人鬼さん、がめついですね」

「どっちがだ」


 というわけで、500シルクを払ってもらう事を条件に俺は受付嬢に連行されることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る