飯を喰らうがいい


 その朝。

 俺はジュパンニといっしょにキッチンで朝食をつくっていた。


「ねえねえアルバスさん、いきなりあんな美人さんたちを泊めさせてなにをしているんですか?」

「いや、泊めさせてないが。俺が強要してるみたいな言い方やめろ」

「いかがわしいことをしようとしているなら勘弁してくださいよ。そんなえっちなことうちの宿屋は許しません!」


 童貞だから安心して欲しい。

 いきなり乱交はじめないから本当に安心して欲しい。


「ジュパンニ、卵」


 目玉焼きを20人前くらいつくっておく。

 グド、ジュパンニ、俺、アルウ、サクラ、クレドリス、クララ、トーニャ。

 俺は目玉焼きは2つ食べたい派だ。冒険者であり、もっと体動かしてそうな桜ト血の騎士隊はたくさん食べるかもしれない。ということで多めに焼いた。

 

 薄味のスープをぐつぐつ煮込でいる横で、野菜の端切れを煮込んでつくったソフリットもぐつぐつさせておき、野ブタの骨と削ぎ肉からつくった異世界料理研究家の実力をふんだんに利用したコンソメに、たまねぎと、乾燥肉の切れ端を入れてファミレスの飲み放題スープの味を再現する。


 ひと口飲む。


「悪くない」

「おいしいです! 流石はアルバスさん、女の子の胃袋をつかむ方法を心得ていますね!」

「下心ありありみたいな言い方やめろ。第一俺はあいつらに迷惑してるんだ」

「そうなんですか?」

「ああ。勝手に嫁を名乗るし、いつの間にか隣の部屋の住人になっているし」

「でもそれって皆さん本当にアルバスさんのことが好きと言うことでは」

「その感情が俺には迷惑なのさ」


 冷徹無比のクールガイには人情など不要。

 人間との温かい関係など付け入られる隙を生み出すだけだ。

 

「でも、昨日は一緒に行動していたんですよね?」

「ふん、わからんか、ジュパンニ。俺はやつらを利用していたのだ。やつらは俺を古い知人と認めるや否や、1日の労働を無償で提供した。1日金をもらわずに労働だぞ? 考えても見ろ。俺はそうやってやつらの親切心を恐ろしき策略と人でなしと罵られる人格でいいように使ったんだ」


 真にクールな者は他人に後ろ指をさされようが、効率だけを重視視し、損得勘定だけで動くのだ。


「感謝しているから今日は朝4時に起きてこうして4時間も厨房にたってお料理の準備してるんですね! お料理で感謝を返したいから!」

「そんなわけないだろう。俺がそんな生ぬるい人間に見えるか」

「見えます!」


 やれやれ。都合の良い解釈をしやがって。

 

「よし、こんなところだろう。ジュパンニよ、俺に続け」

「はーい♪」


 トレイに料理を乗せてきゃつらの部屋へと赴く。

 すでに起床し、さきほど階段を降りて来た時に「飯を用意しているか、部屋に戻ってろ」と言ってあるので、皆、お腹を空かせて部屋で待っていることだろう。


 クレドリスとサクラの部屋をトントンっとノックして開くと、メンバー4人全員が机を囲んでなにやら会議をしていた。クエストの話だろうか。


「わあ、すごく美味しそうなのです」

「これは……っ、相当な手間だったでしょうに」

「気にするな。片手間にお前たちの口に合いそうなものを適当に、10%くらいの力で雑につくっただけだ」


 ジュパンニは料理を配膳していく。


「本日の朝食メニューは焼き立て白パンに、煮込みハンバーグ、野ブタのピリ辛焼き、野ブタの生ハム、野ブタの燻製肉、コンソメ風スープ、しゃきしゃきサラダ、デザートにパタパタフルーツです」

「アルバス様……いつにも増して気合がはいっていますね」


 クレドリスが苦笑いを向けて来る。


「ふざけたことを抜かすな。適当に片手間につくったと言っているだろう。お前たち無理やり俺を好意的な人物に仕立てあげようとするな。虫唾が走る」


「はわわ~虐待です~朝からこんなおいしい料理たくさん食べれません~!」


 サクラが煮込みハンバーグをぱくぱくしながら泣き顔をする。

 それにはっと気が付いた様子のクレドリス。


「なんて量のご飯を朝から……! よくもこんな酷いことを……!」


 キリっとした顔でクレドリスは言った。

 それに続いてクララとトーニャ。


「朝食からたくさん食べさせて眠たくさせ、無理やりにでもお昼寝させる……っ、恐ろしい所業です!」

「美味しいご飯で餌付けして、幸せに軟禁する……虐待」


 ふっふっふ、そうかそうか、皆、苦しんでいるようだな。

 そう、俺は恐ろしき快楽犯。

 相手が奴隷エルフじゃなくても、決して優しさの欠片も見せることはない冷徹なる合理主義者なのだ。


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