ルーツを求めて

 

 ひと通りの話し合いを終えた感想として、記憶を失う前の状態に興味が湧いてきていた。なぜ俺は巨人の霊峰を目指していたのか。そこにたどり着いて目的は果たしたのか。どうしてグランホーの終地で目覚めたのか。


 3年という時間に意味はあったのか。

 その答えを得る手段はいまのところ見当たらない。


「助かった。俺もいろいろと自分のことを思い出せた」

「アルバス様のお役にたてたのならば幸いなのです」


 相変わらずひっついてくるサクラ嬢。

 起伏のない胸の慎ましさを思えば子供が背伸びしていると言えなくもない。


「して、アルバス様はどのように過ごすおつもりです?」

「どのように、か。旅はしようとは前々から思ってたが」


 せっかく異世界転生なる珍妙な体験をしているのだ。

 領主の家で本を読み漁り、いろいろと情報を仕入れているため、この世界に存在する多種多様な種族やら、国やらに少なからずの興味はある。


 新しく湧いた興味としてはやはり巨人の霊峰と血の城塞だろうか。

 かつての旅の軌跡を追いかければ何かが見えてくるかもしれない。

 俺が仕えていたという血の貴族も有力だ。俺を知っているだろうし。


「アルバス様がどこから来たのか、ですか? ……思えばあんまりそういうことを話したがらない人だったように思います。振り返ってみれば、私たちに秘密事をしていたのでしょう」


 俺に関しては存外にたいしたことは知らないようだった。

 ともすれば、やはり血の貴族とやらに会う必要があるだろう。


 とはいえ、なによりも大事なのはアルウを危険な目に遭わせない事だ。

 そのためなら俺の過去など正直わりとどうでもいい。


「アルバス様が眠っていたと言う廃墟というものも気になる対象です」


 ふと、ここまで口を閉ざしていた工作者クララが提案した。

 言われてみれば、今一度あの廃墟を調べてもいいかもしれない。

 一応、覚醒直後の数日は住んでいたし、俺なりに調べてはいる。

 その成果として『歪みの時計』だって見つけたのだし。


 距離もたいしたことない。

 いつもの野ブタ狩りと変わらない。

 それくらいの労力なら惜しむ必要はない。


 そんなこんなで翌日、俺たちは廃墟へ赴くことになった。

 桜ト血の騎士隊は忙しいと思っていたのだが、クエストの予定をキャンセルし、俺に付き合ってくれた。


「私も……行きたい」

「アルウはだめだ。危険な目に遭ってほしくない」

「行きたい……」


 ええい、本当に聞き訳のないやつめ。


「俺から離れちゃだめだぞ」

「っ、うん……!」


 とうことで、アルウも同行することに。

 相変わらずリードで俺の手首とアルウの手首は繋がっている。


 グランホーの終地の外門にて桜ト血の騎士隊と待ち合わせする。

 おっ、来た来た。

 馬のような八本足のモンスターもいっしょだ。

 大きなリュックを背負っている。荷物持ちかな。


「この子はアルバス2号なのです」

「お嬢様がアルバス様を失った悲しみからつけた名前です」

「そ、そうか」

「以前の旅から我々のパーティで荷物を運び続ける正式メンバーなのです。ほら、よく見ると凶悪な顔つきがよく似ていると思いませんか?」


 クレドリスに説明される。

 アルバス2号を見やる。鼻を近づけて来てくんくんされる。次にぺろぺろ顔を舐め回される。


「どうやらアルバス様のことを覚えていたようですね」

「そ、そうか。よしよし、ありがとな、2号」

「よいしょ」

「ん? えっと、クララ? なにをしてるんだ……」


 深くフードを被った猫族のハーフにして嫁を自称する娘っこが、俺の左腕の手首と自分の手首を紐で縛り始めた。


「私はアルバス様の嫁です。なのでアルウちゃんに対抗します」


 それを見てあの桜髪の嫁が反応しないはずもない。


「あー! こらクララ! いつの間にそんな噓八百な設定を!」

「隊長に言われたくないです。いいですか、アルバス様、騙されてはいけません。隊長はアルバス様の嫁を偽る嘘つきピンクです」

「むむっ! クララだってお嫁さんじゃないのです! かくなる上は!」


 サクラ嬢はポケットから紐をとりだし、俺の腰に巻き付けるとその紐の先端と、自分の手首とを結びつけてしまった。これで俺は両手首と腰を紐で縛られ、だれかしらにその端っこを握られていることになる。ねえ、なにこれ。


「くっ、流石は隊長、昨日のアルウちゃんを見てすでに準備をしていたと」

「ふっふっふ、泥棒にゃんこの浅知恵はお見通しなのです」


「クレドリス、俺はどうすればいいと思う」

「アルバス様、今日はクララまですこし調子がおかしいですが、このまま行くことにします。安心してください、グランホー終地周辺のモンスターならば、我々にとってはおおきな脅威にはなりませんので」

「そういう問題だろうか……違うと思うんだが……」


 クレドリスに諦められてしまった。

 仕方なく美少女3人の御縄について出発する。

 なんか新しい性癖の扉が開きそうである。

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