リードを付けるアルウさん
クララが嫁であるとの主張をしてきた翌日。
困惑する俺は昼前に冒険者ギルドのパーティ用テーブルで桜ト血の騎士隊を待つことになった。
「アルバス、女の子に会いにいくんだ……」
「なんだか語弊がある言い方だな」
アルウがむぅっと不機嫌さんになるので、仕方なくお手手を繫いで冒険者ギルドに連れて来た。
「これ紐。アルバスが、勝手に女の子のところ行かないように……」
アルウと俺の手首は丈夫な紐で結ばれている。
はじめ黙々と俺たちの手首を紐で繫いでいくアルウを見て「これはアルウが迷子にならないためなんだなぁ」と、感心していたのだけどね……。
「俺用のリードなのか……」
「うん、女の子いっぱい……もうこの世界は危険……」
アルウは至極真面目な表情で言った。
「ご機嫌よう、アルバス様。おはやいのですね」
しばらく後、サクラ・ベルク率いる桜ト血の騎士隊がロフトにあがってきた。
テーブルにつく。なお六人掛けの大きなテーブルであるわけだが、3人ずつかける横長の椅子しか置いていない。ゆえにサクラ嬢が流れるように俺の隣に腰を下ろしたのは別におかしなことではないのだ。
「むう……」
不満げなアルウ。
ぴたっと身体をくっつけてくる。
「むむ!」
それに気づいたサクラ嬢。
ひょいっと肩がぶつかる距離まで来るとこてんっと頭を肩に乗せて来た。
なんだろう、良い匂いがする。これは学生時代、可愛い女の子は無条件で良い匂いをまとっていた謎の現象に似ているものか……? 本当にいい匂いだ。
しかして、なんだろうか、周囲の視線が痛くとげとげしい気がする。
特にロフトの下方、美姫の集団たる桜ト血の騎士隊に視線をうばわれてしまう男たちから、強烈な殺意を向けられているような気がする。いまロフトのしたへ降りたらきっとそこにはアルバス・アーキントンの命はない。頭ではなく心で理解した。
「あら、アルウちゃん、リード付けていらっしゃるのですか?」
サクラ嬢が紐に気づいた。
気まずい。ごまかすか。
「これはアルウの為だ」
「違う……アルバスが、女の子に……無差別に──」
「話をはやくはじめようじゃないか。クレドリス・オーディ」
紫髪のスラっと背の高いクレドリスをバっと見やり助けを求める。
「こほん。お嬢様がやや混乱気味ですが、はじめましょう。昨日の話の続きからですね」
言ってクレドリスはやや強引に俺アルバス・アーキントンと彼女たち桜ト血の騎士隊の過去を話してくれた。
端的に言うと、彼女たちは俺の教え子であったらしく、さらには俺たちはある一時、旅を共にしていたらしかった。
その関係性はおよそ4年間にわたる。結構な時間である。
「アルバス様は城主ヘンリエッタさまが連れて来られた剣術指南の先生でした。我らがまだ血の騎士、その訓練生として北方の冷たき血の城で鍛錬に励んでいた時、我々はあなたから剣を教わりました」
俺の過去は剣の先生。
それも貴族仕えというのだからなかなかの者だ。
どうりで剣が達者なわけだ。
「あれは私が14の春ことでした。もうずいぶん昔のことのようですね、アルバス様♪」
サクラ嬢は遠い過去を懐かしみながらしなだれかかってくる。
でも、この子、嘘つきなんだよなぁ。あの猫耳が言ってたし。
クララを見やる。じーっとこちらを赤い眼差しが見てきており、なんだか不機嫌になっているらしい。俺のとなりのアルウさんは同じようにしなだれかかるというか、不器用にぎゅーっと抱き着いてくる。さらにおでこをデシデシっと俺の肘関節に叩きつける。ヘドバンで破壊しようとしてるのかな。こわい。
「それが7年前の話です。のちに我々は血の騎士なり、そして冒険者として旅にでました。アルバス様は剣術指南の任をおり、我々について来てくださいました」
「なんで俺はついていったんだ」
「理由は明かしてくださいませんでしたが、どうやら『巨人の霊峰』へ向かわれていたようです。道中が同じでしたので、ついでと我々と旅を共にしたようでして」
巨人の霊峰……そこが俺の目指していた場所か。
そこに行けばなにかわかるのだろうか。
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