お散歩と第参の嫁
静かになった客間へジュパンニとグドが入ってくる。
「すごい連中と知り合いじゃないか、殺人鬼。お前何者なんじゃ?」
「アルバスさん、あんな美人なお嫁さんいたんですね」
いろいと興味津々に質問されたが俺が答えられることはなにもなかった。
というか俺が質問したいくらいだ。何者なんだ、あいつらは。
「まあいい。明日になればわかることだ。アルウ、そろそろどいてくるか?」
「うーん……」
「そうだ、散歩に行くか? さっき行きたいって言ってたろう?」
「うん……行く」
うまいことアルウに動いてもらう。
手をしっかりと繫いで俺たちは宿屋をでた。
露店が数多く並ぶ通りへやってきた。
かねてよりアルウにはいろいろ食べさせたいと思っていたのだ。
「アルバス、あれ食べたい……」
「たらふく食べさせてやる。金持ち貴族に売り払う時にはそれなりの教養を身に着けておくときっと高く売れる。美味い物と不味い物を知っておくのは立派な大人になった時に品格としてあらわれるものだ。だから、今日はたくさん食べさせてやる。お前が嫌だと言っても、ここにある温かくて美味しい物をどんどん買って与えてやる。恐ろしいか?」
「…………うん、恐ろしいと、思う」
「そうだろう。だが俺はやめない。泣いても喰わせつづけてやる」
アルウは嬉しそうにご飯を食べてる。
肉の串焼き。香辛料がかかったお高い料理だがこれも教養には必要だ。
げそ焼き。グランホーの終地から1日のところにある湖産の食材。教養。
ヤキソバ。焼きそばによく似た食べ物。これも教養。ヨシ。
「さあ、熱いうちに食べよう」
ヤキソバを受け取ってアルウに渡してあげようとする。
見やるとアルウが近くにいない。
慌てて周囲へ視線を走らせる。ヤキソバ露店に並ぶ客が恐がって霧散したが知ったこっちゃない。
「アルウ!! どこにいった!!」
必死になって駆けだすと、露店通りのさきにフードを被ったちいさい子を発見。
その近くにはでっぷり太った憲兵が2人いる。
「なんだその耳は? どこの奴隷だ?」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる男ども。
汚職憲兵にからまれたのだと瞬時に判断。
俺はダッシュでフードを被ったちいさい子を引き寄せ、憲兵どもを睨みつける。
「これはうちのだ。死にたくなきゃ失せろ」
「ひえぇえええ!? な、なんだこいつぁああ!?」
「こ、ここ、こいつ、噂の殺人鬼じゃ……っ!」
「お、お前、なんて顔してやがる、その顔は、影で殺めているに違いない!」
憲兵は勇敢なのか蛮勇なのか、俺の腕をばしっと掴んできた。
「な、生意気な野郎だ! いいぜ、この際、しょっぴいてやる!」
「たい、逮捕ですか、先輩……!? や、やばいですよ、こんなやつ!」
俺は拳を鳴らし「ちょっとそっちの路地裏で話をしようか」と、憲兵たちの首根っこを掴む。
「ひやぁあああ! ごめんなさい!!!」
「冗談ですっ! 冗談ですってば!!」
憲兵を離す。
男どもは腰を抜かし、足元をもつれさせながら、走って去っていった。
「大丈夫か、アルウ」
「……あの、アルバス様」
「ん?」
フードをのぞきこむ。
アルウじゃない。
黒い髪に真っ赤な瞳。ひょこひゅこ動くのはネコの耳。
あれ、この女の子……確か桜ト血の騎士隊の……。
「クララだったか?」
「覚えているようで嬉しいです」
「ずいぶん面倒なのに絡まれていたが……」
「猫族と人間族のハーフは珍しいので、よくああして難癖をつけられるんです」
「大変だな。だからフードを?」
「はい。あとは隊のなかで工作活動がメインというのもありますが」
「なるほど」
工作活動か。
錬金術師との話だったが……どんな仕事なのだろう。
ふと疑問に思っていると、クララが俺の手を握って来た。
ちいさい手だが、マメができては破れたのか、表面は硬く戦士の手をしている。
って、なんで俺は手を握られてるんだ。
「アルバス様、サクラ様がお嫁さんと言うのは嘘です」
「え? そうなのか? 俺、お嫁さんいなかったのか……」
「ですが安心を。実は私こそアルバス様の本当のお嫁さんなんです」
目を丸くして驚愕を隠せない。
な、なんだって……っ!! 俺に第二のお嫁さん候補者が!?
「……アルバス」
あ。アルウがてってってっとやってきた。
「……どうして走って行っちゃうの」
「い、いや、アルウがいなくなったと思って……」
「ずっとそばにいた……」
ヤキソバ屋の盛況ぷりのせいでできた長蛇の列に隠れて見失っていたらしい。
大声を出して場に混乱をもたらし、すぐに走りだしたというのがアルウの証言だ。
どう考えても俺の行動がちょっと頭おかしい人だ。
新しきお嫁さんの出現と、アルウの冷たい眼差し。
ちょっと俺の精神を休憩させて欲しい。
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