嫁(自称)vs 嫁(自称)



 サクラ・ベルクが実は俺の元嫁であると言い出した。

 まさか、まさか……そんな、俺に嫁がいたなんて。

 前世、彼女がいないまま死んだ俺が結婚していたなんて。


「お嬢様、いったいなにをおっしゃっているのですか……!」

「クレーは黙っていてください。いいですか、みんな何も言わずに、これはチャンスなのです」

「いや、だからって無理やりすぎでは……」

「わたしは……アルバスのお嫁さん、なる」


 隣のアルウが立ちあがり、むっとして俺を見上げて来る。

 ぴょんっと俺の膝のうえに乗り、ぎゅーっと抱き着いてきた。

 

「ええい、やめろ、この奴隷エルフめ!」


 桜ト血の騎士隊がざわめきだす。


「っ、アルバス様が奴隷の主に……」

「以前のアルバス様なら絶対に奴隷なんて買わなかった……」

「もしや記憶を失って本当に悪人になったんじゃ……」

「アルバス様はもともとなんで人を殺してないのかわからないほど凶悪な人相の持ち主。奴隷を買って、醜い欲望を日夜ぶつけているくらいがちょうどいい見た目なのは確か……」


「そんな不安定な場所に乗るんじゃない。転げ落ちたら頭をうって痛い思いをしてしまうぞ。ええい、手のかかるやつめ、しっかり抱きとめておいてやる」

「アルバス、ぎゅー……」


 本当にアルウは手がかかる。まったく。本当にまったく。


「なんだ昔のままですね……」

「ただのツンデレでした。なにひとつ変わってないです」

「本当に紛らわしい」

「優しさが殺人鬼の顔してるだけだよね」


 む? なんだか桜ト血の騎士隊面々に呆れられている気がする。

 どうしてそんな顔されなければいかんのだ。


「とりあえず、私が嫁ということでいいですね? ね? アルバス様、それじゃあとりあえず再会──」

「お嬢様ちょっとこちらへ。冷静になってください」

「な、なにをするのですか、クレー! 離してください! 隊長命令なのですっ!」

「聞けません」


 言ってクレドリスはサクラこと俺の元嫁(自称)を掴んで連れて行く。

 桜ト血の騎士隊面々もそれに続いて部屋をでていく。


「すみません、アルバス様。また明日出直します。今日はお嬢様が錯乱していらっしゃるようですので」

「は、はぁ……そういうことなら構わないが」


 でも、この人たち俺の過去の事知ってるんだよね。

 まあでもいっか。明日出直してくれるって言ってるし。


「アルバスはわたしの……わたしのだもん……」

「むっなんだかあのエルフちゃん私に挑戦的なような……私がお嫁さんですよ!」

「あんなちいさい子になにをムキになってるんですか、お嬢様、さっもう行きますよ」


 桜ト血の騎士隊は嵐のように去っていった。

 サクラ・ベルク。あんな可憐な女性が嫁だったとは。


「アルバス……嬉しそう……」

「ん? いや、別に」

「うそだ、すごく嬉しそう……」


 アルウはフードを深くかぶりぎゅーっと力いっぱい抱き着いてきた。

 俺を離したくない……ってことかな。

 

「ふん、軟弱なことだな。好きなだけそうしてろ」

「うん……」


 その後、1時間くらい動けなかった。

 子猫に膝に乗られた時と同じ感覚であった。

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