再会、桜ト血の騎士隊
桜髪の不審者を引き剥がそうとする。
とりあえず落ち着け。と。しかしてとんでもない怪力だ。
「よくぞご無事で……よくぞ! よくぞ!」
「ええい、離れろ、離れろ!」
「嫌です、離れません、くんくんくんくん」
なんだと、どういうつもりだ?
なんなんだ、この女は。というかめっちゃくんくんしてくる。
「そんな、これは本物のアルバス様の匂い! まさか、そんな、やっぱり……!」
桜髪の女の後方、玄関前に3人ほど同じような可憐なドレスコーデに身を包んだ女性がいる。皆が目を丸くし驚愕していた。こっちが驚きたいのだが。何者だ貴様ら。
「溶岩渓谷での戦いでてっきりお亡くなりになられたのかと思っていたのに、まさか生きてるだなんて。どうして秘密にされていたのですか!」
謎の言動を繰り返す女の話に耳をかたむけると、どうにも俺のことを知ってる風の口調でさっきから疑問を投げてきていた。
俺としては女にまったく見覚えがない。
しかし、あるいはこの女は俺の記憶が失われる前を知っている需要人物なのかもしれない。次第にそう思うようになった。
と言う訳で、いったん「どうどう」と落ち着いてもらい、騒ぎにオロオロするジュパンニにお茶を入れてもらい、腰をすえて話をすることに。
宿屋の奥の使われてない一室を借りて、謎の女集団と面と向かって話あうことになった。
ソファは4人全員座れるほど大きくないので、リーダーとサブリーダーっぽい2人が座る。あとのふたりはその後方で壁に背を預けたり、ベッドに腰かけたりしていた。
俺の隣にはアルウがちょこんっと座っておりフードの隙間から外敵の様子を用心深くうかがっている。狩りをする猫のごとき可愛さだ。
「アルバス様、その、どこからたずねたらよいのか……」
桜髪の女は沈痛そうな面持ちで口を開く。
ちなみに先ほど俺は「お前たちなど知らない」とはっきりと告げた。
記憶が失われていることは向こうも周知している。
「本当になにも覚えていないんですか?」
「申し訳なく思うが、なにひとつ覚えてない。君たちの顔を見ても……」
4人の姿、顔立ち、それぞれの特徴を吟味してもなにか思い出すということはなかった。
「やはりピンと来ない」
「そう、ですか……」
「すまない」
ふと、俺はなぜか彼女たちに敬語をつかっていないことに気づく。
俺は無用なトラブルを避けるため、わりと最初は敬語を心がけているのだが、それが自然と彼女たちにはため口でいいような気がしてしまう。
しかも、この4人は俺の顔を見ても恐怖におののいたりしないし……。
知り合いだった可能性が感情論レベルで高まってきた。
「まずは、お前たちは何者なんだ」
訊くと紫髪に背のスラっと高くしっかりした体格の女性が口を開く。
厳格な表情をしており、キリっと凛とした雰囲気からしっかり者であることがうかがえる。たまに施工管理の現場でこんな感じの仕事できる女性がいたのを思い出す。
サブリーダー的ポジションなのか、桜髪の女の隣に座している。
「我々は冒険者パーティ『桜ト血の騎士隊』です。名前だけなら聞いたことがあるかもしれません」
「受付嬢に聞いた気がするな。北方貴族の騎士団がなんとかって……」
「その通り、我々は血の貴族アーティハイム家のもと力を授かりこうして使命についています。こちらはアーティハイム家分家ベルク家次女サクラ・ベルク様です」
桜髪をハーフアップにした女は口元に手をあて、難しそうな顔をしている。
なにかに集中しているらしくこちらを見ない。
「私はクレドリス・オーディ。サクラ様を幼少よりお守りする付き人です。弓を持った彼女はトーニャといいます」
三角帽子をかぶった白髪の少女はぺこっと頭をさげてくる。
猛禽類のごとき黄色い瞳だ。
見ているだけでゾクゾクっしてくる。苦手かも。
「そっちはクララです。錬金術のスペシャリストです」
布を深くかぶり、フードで顔を隠している。
クララと呼ばれた少女はフードをめくり、ぺこっと頭をさげてくる。
落ち着いた黒髪の間から真っ赤な瞳がのぞいている。
と思えば、頭になにやら黒い耳のようなものが生えていることに気づく。
「あの……それは、なんだ?」
「?」
いや、「?」じゃなくて……。
「猫……」
アルウが興味をあらわした。
目をキラキラさせている、
それを受けてクララはビクッとする。
「私は猫族の血を引いてて、たしかにこれは猫族の耳ですけど、お願いですから触るのだけは勘弁してほしいです」
すっごい早口でそういうとフードをまた深くかぶって空気のように静かになった。
「……猫、もふもふしたい」
残念だったな、アルウ。
ひと通りメンバーの紹介を終えたが、やはり思い出すことはなにもない。
「なにがあったか教えてくれるか。俺もなくした記憶を思い出したいんだ」
「わかりました、お話ししましょう。旅のことを」
仕事できるお姉さんことクレドリス・オーディは話をはじめようとする。
「記憶が、完全に、ないのですよね……」
「?」
ふと、サクラ嬢がボソっとつぶやく。
これまで顎に手を添えて難しい顔してたのに。
意を決したようにうなづくとこちらをまっすぐに見て来た。
「私は実はアルバス様の嫁なのですが。そのことも忘れてしまわれたのですか?」
「はぁ……ん? はあ?!」
「お嬢様……!?」
「隊長、いったいなにを……!」
キリっとした表情でサクラは見つめて来る。
まじかよ。
俺、嫁いたのかい。
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