死霊の軍勢
グドが言うには怪しげあの男が夕食をつくるふたりを襲ったらしい。
ジュパンニは殴られ、アルウは攫われた。
助けようとしたグドはスケルトン・ドッグなるアンデットモンスターに押し倒されが、抵抗し、いましがた剣で叩き殺したところだと言う。
「わしがあと10年若ければこんなことには」
「死にそうか? 治癒霊薬はいるか?」
「余計な心配をするんじゃない。わしは大丈夫だ。たいした傷じゃない。それよりもおぬしやつを追ったほうがいいんじゃないか」
「わかった、そうする。帰って来てくたばってても恨むなよ」
「だれにものを言っておるんじゃ。わしはこれでも『鬼のボランニ』とうたわれた男じゃぞ。……場所は、わかるのか?」
「ああ。ちょうどいま騒がしい場所を知ってる」
ギルドで聞いた集団墓地でアンデットが大量発生しているとか言う話。
グドを襲ったのはスケルトン・ドッグを使役する魔術師。
タイミングがよすぎる。無関係とは思えない。
「わしの剣だ。もっていけ」
古めかしいがよく手入れされた良質の騎士剣。
刃渡り90cm、度重なる研磨で刃が薄くなっているが、まだ使える。
「もらっておいてやる、じじい」
「馬鹿め、終わったら返すんじゃよ」
ありがたく拝借し、宿屋をあとにし、集団墓地へやってきた。
集団墓地はアンデットの発生を危惧して、そのまわりを背の高い壁で囲うのが異世界での常らしく、グランホーの終地の集団墓地もまた有事に備えて同様の堅壁に囲われていた。
集団墓地正門へやってくると、そのまわりに冒険者たちが横たわっていた。
「やばすぎる……何匹いるんだ、これ……」
「どうなってんだよ……」
「こんな軍団、俺たちにどうしろと……っ」
「なにしてんだ。中にアンデッドがいるんだろう、戦えよ」
「「「殺人鬼!」」」
冒険者たちがガバっと起き上がり、こちらを見て来る。
「やばいことが起きてる、この先にとんでもない数のモンスターがいる」
「いま交代ごうたいで墓地正門を守ってるところだが、とにかく数がやばい」
正門の向こうから冒険者たちの戦う音が聞こえてくる。
刃のぶつかり合う音に男たちの雄たけび、時折悲鳴と粉砕音。
いざ墓地のなかへ入ると、なるほど、視界いっぱいのスケルトンの群れがいるではないか。
冒険者はメイスを力いっぱいに振り回し、スケルトンを砕こうとする。
スケルトンは手にする錆びた剣でメイスを受け止め、両者は鍔ぜり合う。
スケルトンと聞くと、正直雑魚な気がしてならないが、見たところ一般的な冒険者たちはかなり討伐に苦労している。
「スケルトンって意外につよいのか」
「意外? いやいやいや、スケルトンは魔法の怪物だぜ? 肉も血もねえのに生前と同じ膂力をもってる。身体が軽い分、速くて、パワーもある。ギルドが”戦闘能力15”に指定してる危険なモンスターだろが」
聞くところによると、ギルドが各々モンスターに設定する討伐難易度を示す戦闘能力指数において、スケルトンは、ゴブリンやオークとは比較にならない危険なモンスターだと言う。ゴブリンは”戦闘能力5”、”オークで戦闘能力10”である。
魔力を扱える存在と扱えない存在には、決定的な格差があるようだ。
「殺人鬼、スケルトンが来るぞ!」
斬りかかって来るスケルトン。
グドにもらった剣で脊髄を叩き斬り、頭蓋骨をふっとばす。
それだけでスケルトンは糸が切れた人形のように動かなくなった。
「まじかよ……!」
「なんつー腕力……っ」
うむ……やはり、なんというか、俺のイメージとギャップがあるな。
端的に言って俺が……というか魔法使い族が強力すぎるというか。
そのほかのデフォルトで魔力による身体強化を行えない人間があんまりファンタジー的な強さを持っていないと言うか……。
「うおおおお!」
おや、あれはミスター巨漢ではないか。
流石はミスター巨漢、身の丈もある大剣でスケルトンを叩き潰している。
金属の塊をふりまわすのは相当に筋力もスタミナも必要だろうに。いや、よく見れば汗だくで、いまにも倒れそうか。
「おまえは殺人鬼! 来てくれたか、この場をすこし頼めるか。休憩させてくれ……!」
「その剣、ちょっと借りる」
骨骨しいやつらは粉砕したほうが相性が良い。
グドからもらった騎士剣と大剣を交換し、俺は大剣を片手で構え、ホームラン宣言のごとくピンっとアンデットの群れを指し示す。
「っ、あの馬鹿みたいにデカい大剣を軽々と……」
「俺の斬馬刀をあんな風にもてるやつがいるんあて、なんて腕力だ」
これ斬馬刀って言うのか。悪くない重さだ。
ズシンっとしっかり手に馴染む感じがある。
俺は斬馬刀でスケルトンをぶった斬る。
骨の怪物は切断というよりは、砕け散るようにして不浄な命を終わらせた。
いいなこれ。気に入った。
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