魔力に目覚める



 今日もクエスト頑張ったぞ。

 まっいつもの野ブタだけど。


 ギルドに帰還して豚をまるごとポンッと差しだす。


「ひぇええ! 殺人鬼さんまたそんな豪快な持ち方して!」


 不思議なことだが以前、レバル村の付近でモンスターたちと戦った時から、妙にパワーがみなぎっている。有体に言って、体力は増した。

 以前までとは筋力が増した。肉体強度があがたっとも言えるかも。

 

 ちょうど、ギルドの酒場で腕相撲大会が開かれているようなので、ちょっと参加してみようか。


「うがやああ!!? 腕が折れるぅうう!!」


 たくましい冒険者を軽くひねったら肘関節が反対側に曲がってしまった。


「安心しろ。それくらいならすぐ治る。そんなんで労災を使えると思うな。現場じゃ指が飛んでから、はじめて労災認定されるんだ」


 言いながら肘をはめ直すと、まわりの大の大人たちが悲鳴をあげた。

 

「殺人鬼の野郎、まさかあんなに力自慢だったなんて」

「今度は俺が相手だ! 俺は故郷で村一番の力自慢とうたわれていた漢だ!」


 巨漢が俺の対面の席に腰をおろす。

 

「ミスター巨漢と殺人鬼の一騎打ちだ!」

「ほら賭けた賭けた!」

「殺人鬼に300シルク!」

「ミスター巨漢に400シルクだ!」


 手を握り、勝負開始、ミスター巨漢は力いっぱいに俺の腕をぶち折る勢いだ。

 が、まるで重さを感じない。厳密には感じるが、なんというか、か弱い女の子とやっているかのようだ。


「ッ! ば、ばかな、動かねえ!」


 俺はゆっくりと腕を倒して、ミスター巨漢との腕相撲対決に勝った。


「はぁ、はあ、つ、つええ」

「実は俺、つい先日までこんなこと無かったんだが。なにが起こってるか知ってる奴いるか?」


 冒険者みんな俺に勝つことを諦めたあたりで、俺はみんなの智慧にたずねてみた。

 もしかしたら異世界特有の病気とかかもしれない。

 前世でも筋肉量がバグっちゃう先天性の病気とかはあった。

 魔法の存在する世界ならば、どんな奇病があってもおかしくない。

 

「殺人鬼、たぶんそりゃ魔力に目覚めたんだ」

「ああ、絶対にそうだな。そうに違いねえ」

「すげえな、魔力に目覚めるなんて! 流石は俺たちの殺人鬼だぜ!」


 訳がわからないが、その魔力と目覚めるとかいう現象をもっと詳しく教えてくれ。


「ごくたまにちいせえ体のくせにとんでもねえ馬鹿力を持っているやつがいたり、とんでもなくデカいモンスターの首を両断しちまうような英雄様がいる。そういうやつらは体内にある魔力をパワーに変換する方法を会得してるって話なんだ」

「そうそう。なんかの拍子に魔力に目覚めて、とんでもない力自慢が誕生するって話は聞いたことがあったが、まさか本物を目の前で見れるなんてな。殺人鬼、これでまた人殺しがはかどるな!」


 とのこと。

 なるほど。

 魔力の使い道の問題か。

 人間は元来、体内に魔力を持っている。

 英雄と呼ばれるまでに練り上げた戦士は、修行や死線を越える過程で、その魔力で肉体を強化する方法をだんだんと会得していくらしい。


 他方、魔法使いやら魔術師やら、神秘の使い手たちは魔力でなんらかの不思議現象を起こす。

 ともすれば、魔法使いである俺が、魔力に目覚めてしまうのは必然なのかもしれない。魔力自体は元からコントロール出来ているのだ。その魔力を剣を振る時にも活用したせいで、レバル村の戦いでは、ゴブリンやらオーガやらの肉体を両断するほどの馬鹿力になってしまったのだろう。


 おそらくはあのモンスターたちとの戦いがトリガーになって、俺は魔力を身体能力に変換するノウハウを身に着けてしまった。


 あるいは元から知っていた……か。

 うん。たぶんこっちだ。俺は魔力に目覚めたのではない。

 魔力を思い出しているのだ。

 かつてのアルバス・アーキントンがそうであったように。

 

 俺は本当に何者だったのだろう。

 英雄のごとき体力を持ち、剣術に優れ、魔法をあやつり……。


「緊急事態ですよ、皆さん! 墓地で大変なことが起こってます!」


 受付嬢が大声で叫んだ。

 何事かと聞いてみれば、どうにも集団墓地のほうでアンデットが大量発生しているらしい。


「なんてこった……っ、たまにそう言う事はあるって風の噂には聞いてたが……」

「いくぞてめえら! グランホーの終地の意地を見せてやろうぜ!」

「うおおおおお!」


「殺人鬼も来るよな?」

「いや、俺はいかん」

「え?」

「家に帰らないと。じゃあな」


 アルウが待ってるんだ。

 行くわけないだろ。

 やれやれ、なにをアホウなことを言ってるんだ。












 宿屋に戻ってくると、苦しそうなうめき声が聞こえてきた

 入り口のすぐそばのカウンターのあたりだ。


「ぜはぁ、ぜはぁ、ぜはぁ……」

「なにしてんだ、無愛想じじい。苦しそうだな」


 カウンターの向こう側でグドが荒く息をついていた。

 足元には犬の骨のようなものが散らばっている。

 

「殺人鬼か、帰ったんじゃな……ぜはあ、ぜはぁ」

「クエストが終わったからな。で、あんたなにしてんだよ」

「いま、このクソアンデットを肩づけたところじゃ……ぜはぁ、ぜはぁ」

「どうして宿屋にアンデットが?」

「二階の隅の部屋、変な男が泊っておったじゃろ」

「変なやつがいたな。」

「あいつ、アンデットを使役する魔術師だったんじゃ。それでわしのくあいいジュパンニを殴り、エルフを攫って行きおった……」

「……なん、だと?」


 どうやら死にてえ野郎が現れたみたいだ。

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