モンスターペアレント



 アルウはとても賢い。

 人間語を教えているが、この2週間で新しい単語を10個も覚えた。

 天才的だ。おそらくIQは150は硬いだろう。間違いない。


 ちなみにここしばらく冒険者ギルドでクエストをこなしていない。

 魔導書を売った金やクエストを連日こなしたことで貯蓄できているおかげだ。

 おかげでアルウのそばにいれる。流石にそろそろ働きはじめないとだが。


「アルバス……今日のお昼、わたしがつくる……」

「なに? アルウが?」

「うん……つくる」

「ふん。そうか。ならやってみせろ。だが、俺は味にはうるさいぞ」


 アルウは表情を明るくして、タッタッタッと部屋を出て行った。

 異世界の主食はスープとパン。往々にしてスープだけというのも珍しくない。

 

 というわけで、アルウのスープを期待しながら、昨日さぼった日記をつけておくか、と思いノートをとりだす。

 異世界に転生して早いもので2カ月くらいが経った。

 この未知の体験を俺は日記と言うカタチで記録をとっている。 

 というのも、人類史を見渡してもこんな非現実的な体験したやつはほかにいないと思っているからだ。なので俺には使命感がある。

 この恐るべき驚異的な記録を後世に残すべきという使命感が。

 

 例えば、ある日のページには『アルウがすやすや昼寝をしていた』とある。

 またある日のページには『アルウの寝癖が可愛かった』とある。

 一昨日のページは『アルウはペンの使い方が世界一上手』とある。


 今日の日記に『アルウがご飯をつくってくれる。楽しみだ』とつづっておく。


 よし、完成っと。

 

「ん? 部屋の外で物音が……」


 気になって廊下にでてみる。

 アルウが謎の男に胸倉をつかまれていた。


 俺は肩をひいてこちらを向かせる。


「なにをしてる、お前」

「ああ? なんだ貴様は、うぉエ?! な、なんだ、この殺し屋みたいな顔のやつは……っ」


 怪しげな男はアルウを離してバっと離れる。


「このエルフは俺の大事な財産だ。勝手に触るな」

「お、俺は、魔術師、猟犬のコンクルーヴェンだぞ……っ、俺に手を出せばかならず後悔することになるぞ、殺し屋!」

「いや、殺し屋じゃないが」


 毎度毎度、みんな殺人鬼だの殺し屋だの好き勝手いいやがって。

 しかし、魔術師とな。

 珍しい者が宿泊してるな。

 いや、俺も大概珍しいだろうけど。


「なんだ違うのか……ふ、ふん、まあいい。同居人のよしみだ。貴様のそのエルフの愚行、今回は見逃してやる」

「見逃すのは俺のほうだ。勘違いするなよ、うちの子の胸倉つかみやがって」

「っ、う、うるさい、そも被害者は俺だぞ……っ」


 どうにもアルウがスープをマントにひっかけてしまったらしい。


「だからどうした。うちの子が悪いって言うのか? あぁん? マントなんて洗えばいいだろうが! うだうだ言ってとぶっ殺すぞ!」

「(なんだこのヤバい親は……関わらない方がいいな……)」


 怪しげな男は一言二言、捨て台詞を吐いて階段を降りて行った。

 

「根性のない男め。なにが魔術師だ。1日20時間労働7年続けて出直してこい」

「アルバス……ごめん……失敗した……」

「いいんだ。全部あいつが悪い(※暴論)」

「でも、スープが……」

「一緒に片付ける。そしたらまたスープをつくれ。腹が減って仕方がないんだ」


 俺は言って、モップを借りて来て、アルウとふたり掃除をした。

 なおこのあと作り直してくれたスープは世界で一番おいしかった。

 

「アルウには料理の才能があるな」

「そんなこと、ない……」

「いいや、ある。お前は最高だ。魔法使いの俺が言うんだから間違いない。ほら、飲んでみろ。美味しいだろう?」


 アルウの商品価値の上昇が止まらないんだが。














 ────









 


 クソ、クソ、クソが!

 なんなんだ、あのむかつく暴論野郎は。

 どう考えたって悪いのはあのガキじゃないか。

 俺が本気をだせばあんなこけおどし野郎にビビらずにぶっ飛ばしてやれたのに……クソ、ついつい、勢いに飲まれちまった。


 ああ、いいさ。

 もういい。決めた。

 この猟犬をコンクルーヴェンを馬鹿にしたことを後悔しろ。

 

 我が大魔術の儀式、霊脈法大死霊召喚魔術の生贄に、あのエルフを使ってやる。

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