討伐、お風呂、感覚派で花飾り
村の男たちといっしょにレバル村を出発し、森のなかへと入って来た。
俺は自前の剣を持ってなかったので、ヤクに渡されたあまり手入れされていない鋼の直剣を一本ひっさげて獣を道を歩く。
「見てください、アルバスさん」
「大きな足跡ですね。樹がなぎ倒された跡もある。この土のえぐれかた。まだ土が柔らかいので近くにいそうですね」
「流石は冒険者のかたですね。以前、村の警備隊が遭遇したのもこの近くだったんです」
「ふむ」
剣を抜き、備える。
村で剣を振るえる男は15人ほどおり、以前、村のすぐそばまで来た時は総出で迎え討ったそうだが、仕留めきれずに、多くの被害者が村人にでてしまったという。
オーガを中心とした蛮人の一団らしく、数がとにかく多いらしい。
この世界にはさまざまな種族がいるなかでも、蛮人と呼ばれる者たちはとりわけ醜く、野蛮とされている。
オーク族、オーガ族、ゴブリン族。
ここら辺はほかの種族たちと共通認識として迷わずぶっ殺す対象だ。
ほうっておけば他種族のメスを穢し、結果として生まれた子供は忌み子として呪いを集めることになる。
「いた」
村の男たちと共に、痕跡を追跡してねぐらを見つけた。
いるいる。めっちゃ蛮族いる。
15,16……20体くらいいるんじゃないか?
今回は俺がどれくらいモンスターを倒せるのかを知るためのいわばちょっとした腕試しという名目で来てるんだ。
一応、多少は強い部類の人間という自覚はある。
これでもちんけな犯罪組織ひとつを潰してる。
最悪、魔法をブッパすれば倒せるが……
『歪ずみ時計』を取り出す。
時間は10時を差している。
連日の乱用でちょっとゲージが危ない。
「ちょっと足をつっちゃっみたいです」
「あ、アルバスさん? 大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫ですけど、援護お願いしたいです」
言って村の男たちといっしょに掛かる。
「グォォォオオオ!!」
「アダ、ウダ!!」
「ゲジャ、ヴージ!」
オーガにオーク、ゴブリン、あわせて20体。
汚れずに帰りたいと思ってたが、諦めたほうがいいかもしれない。
俺が万全の状態だと、絶対にリーダーのオーガを任せられるので、あちらは一旦惹きつけてもらい、俺はゴブリンを斬ってみる。
ブシャ
真っ二つに両断。
問題なし。負ける要素が無い。
ゴブリンOK。
次は体格のデカいオーク。
でっぷりとした腹で体重がありそうだ。
必然。パワーもあるだろう。
真っ二つに両断。
ん? あんま強くないな……。
隙を突いたとかか?
念のためもう一体。
簡単に両断。
うん。オークは雑魚だ。
オークOK。
「くっ! やっぱり、こいつはけた違いだ!」
「攪乱するんだ! あのこん棒に潰されたらぺちゃんこにされるぞ!」
みんなが手こずるリーダーのオーガ。
筋肉質で一番デカくて、一番強そう。
こいつは全力で挑んだほうがよかろう。
よっ──!
胴体水平両断。
……ん?
「な、なんて怪力の持ち主だ……!」
「あんなやわっこい剣でオーガを真っ二つに!?」
「とんでもねえ……これが冒険者アルバスの、お力だっていうべか……っ」
「信じられん……」
おかしいな。
なんか……ん? これは俺が強い、のか……?
なんとも困惑する腕試しとなった。
レバル村に帰って来た。
村人たちは全身血まみれの俺を見るなり悲鳴をあげ、畏怖の眼差しを向けて来る。
「うわあ……」
「なんだその目はそばかす女」
「いや、なんでもないです……」
「すこし待ってろ。昼過ぎには出発する。夜にはグランホーの終地に帰れるだろ」
言って俺はヤクを待たせておく。
たしか村長の家にお風呂があった気がする。
村の真ん中を通る川には清らかな水があり、それを貯め、薪で湯を沸かす。
町の庶民にはできない自然のなかに住む村ならではの贅沢がここにはある。
羨ましいので、ぜひ使わせてもらおうと思う。
「アルバスさま」
討伐から帰った俺たちを迎えてくれたその最奥で村長夫婦は待っていた。
「本当に、本当に、ありがとうございました」
「モンスター討伐、お疲れ様です。さあさあ、どうぞこちらへ」
なんだかとてもにこやかだ。
ちょっと不気味なくらい。
案内されて村長の家へ。
家裏に設置された森に囲まれた露天風呂。
山から流れて来た水をそのまま使っているせいか、気持ちは温泉である。
肩まで湯船につかる。
はあ、やはり風呂は良いなぁ。
お風呂のある家に住みたいなぁ。
こんな清水の湧く地に住めば毎日お風呂に入れるだろうか……?
田舎暮らしも視野に入れてもいいかもな。森も近いし。野ブタも獲れるし。
「アルバスさま」
「ん、誰だ、いま風呂に入ってい──おッ!?」
村長夫婦の娘エリーがい……た。
布で裸体を隠しながら立っていた。
頬を高揚させ、潤んだ眼差しを向けて来る。
なにしてんだ、こいつは。いったい何が狙いだ。
「な、なんのつもりだ」
「その、お身体を清めさせていただこうと……」
「そんなキャラじゃなかったろ」
「アルバスさま、いいですから。ね」
エリーが狭い風呂に入り込んでくる。
湯が溢れ、こぼれていく。ザァブーン。
「お小遣い稼ぎのつもりか。悪いがシルクは持ってきてないぞ」
「まさか……賭けをしたじゃないですか」
「あれは俺が顔を治せなかったらの場合だろう」
「いいんですよ。アルバスさま、私を貰ってくれませんか?」
「どんどん来るな」
俺はふりかえる。
エリーは首に手をまわし、密着させてきた。
「あれ、なんか楽しそうだね」
「そうか? そうか」
ヤクのもとへ戻り、荷物を確認して、グランホーの終地へ戻ることになった。
「アルバスさん、本当に見事な戦いでした」
「どこであのような剣術を?」
「そのお体あのどこにあのような力が秘められているのですか?」
去る前に、村の男たちからは大変に熱心に質問をされた。
俺がエリーとお風呂でいろいろしてる間に、討伐に参加した者たちが話を誇張して流布していたらしい。
でも、そんな熱心に聞かれても俺自身覚えていないので、話せることはさほど多くはなかった。多少、手ほどきをした程度だ。
木剣を手に何人かと打ち合い、デモンストレーション的に「こう打たれたら、こう」「こう来たら、こう」みたいな、完全な感覚派で説明した。はっきり言って教師としては三流もいいとこだ。
「アルバスさまは感覚派の天才剣士であるな」
「他人に説明できないところもまたセンス100%という感じで憧れる」
なにしても好意的にとらえられるだろ、こいつら。
村の女の子たちからはエリーを囲みながらお礼を言われた。
花飾りをプレゼントして来たので、仕方なく受け取った、別に全然嬉しくはない。本当に全然なんともない。本当。
レバル村での1日は存外、悪くはなかった。
報酬は少なかったが……いや、大きかったか。うん。
蛮人たちと戦ってみて自分が思った以上に戦えるタイプの人間だともわかった。
ゴブリンには流石に勝てると思ってたが、まさかオークやオーガがあんなに簡単に斬れるとは思わなかった。俺が強いのか、やつらが弱かったのか調べる必要がある。
調査次第では冒険者ランクをあげることも視野に入れてもいいかもしれない。
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