大蛙の悲劇
朝、俺は宿屋を出てへ向かう。
「んんー! んぅんんー!!」
昨日、捕らえた悪党の猿轡を外す。
「さて一晩考える時間を用意したわけだが、答えを聞かせてくれるか」
「教えるッ! ボスの居場所を教えるから、頼むから、俺の命だけは……ッ!」
「わかった。いいだろう。お前の命は助けてやる」
「た、助かった……ッ」
「はやく案内しろ。ボスとやらのところへ、『グランホーの大蛙』の隠れ家へ」
男を案内役に、活気づきだした町の通りを歩く。
たどり着いたのは街中のごく普通の商館であった。
商館は商人たちの集う場所で、町と町と行き来して品物を流通させる行商人たちを繫いでいるネットワークの中継地点だ。
宿泊施設、両替場、銀行ギルド、商取引施設、そのほかさまざまな役割を兼ねている。
こんなところに犯罪者の親玉がいるのか疑問を抱く。
男がカウンターの裏へ顔パスで入ったのであとにつづく。
施設の調理場で料理する男たちの間をぬけると、あやしげな裏通路にでた。
そこはとても静かで、商人たちの声が飛び交う活気ある雰囲気とは裏腹である。
「ここだ。この先が『グランホーの大蛙』の隠れ家になってんだ……」
思ったよりデカそうな組織だな、と思いながら俺は乗り込んだ。
「んあ? ノッツの兄貴、こんにちは、そちらの方は?」
「こいつは”お客”だ」
「……。ああ、なるほど!」
子分らしき悪党の表情が一瞬固まった。
ああ、そうか。それが敵対者を示す隠語か。
俺は短剣を取り出し、通路ですれ違った男の首をシュッと切って頸動脈を切断した。
「あぼ、ぼご、オボ……!」
「うあわああ!」
それを見たたまたま通りかかった者が叫ぶ。
「さて、全員殺すか」
「お、俺は、生かしてくれるんだよなぁ?!」
「そこでじっとしてろ。逃げたら殺す」
「ひぇええ! じっとしてます、じっとしてますから……っ!!」
手のひらを手刀で叩く。
符号は成った。
『閉域の魔法』は作用しはじめる。
これにより指定した空間から外へ逃げられなくなった。
今回指定したのはこの隠されたアジト全域だ。
誰も逃がさない。
俺は喉を斬られて殺した男の剣を拝借し、アジト内の悪党どもをどんどん殺していった。
ひとりも生かすつもりはない。
俺の利益を損なう可能性はすべて摘み取る。
アルウへ危害がお及ぶことは許されない。
制圧開始から5分後
大きな斧を持った男が待ち構える地下賭博場へとたどりついた。
服を着ておらず、野蛮な笑みを浮かべ、チカラいっぱいに床を斧で叩く。
「俺はこの大蛙の剣客バリジャーノさまだ! この戦斧で女子供問わず50人はすり潰して来たぜ。てめえも俺に挑む勇気がるなら──」
「最初の剣客は筋肉モリモリマッチョマンの変態だったか」
「澄ましやがって……っ、この野郎が! いますぐに俺様の戦斧の錆と──」
剣でぶったぎり黙らせる。
口上を聞くつもりはない。
何十人かを斬り殺した。
振り返ってみると3人くらいなんとなく達者な剣客がいた。
話に言ってたグランホーの大蛙の誇る”先生”たちであろう。
もう死んだのでさほど重要ではないが。
ただ思うのは剣客って言うほど強くないってことだけだ。
「ッ! や、やっぱり、貴様か……!」
部屋の一室でアルウを攫おうとしていた人攫いの男を見つけた。
馬車に半日も引きずられたせいで全身包帯だらけで、声を聞かなければわからなかったかもしれない。
「あの時は妙な術を使いやがって……!!」
「生きてたなんて可哀想なやつだ」
「あ?!」
「あの時死んでればよかったのにな」
言って俺は右手で左ほっぺたを押さえ、そっと離した。
符号は成った。
『剥離の魔法』が作用する。
「嫌いなやつをド派手にぶっ殺すと気持ちが良いな」
言って、全身の皮膚を脱皮した遺体をまたいで奥へと向かう。
奥の部屋では裸体の娼婦たちを抱えデカいベッドで寝ている大男がいた。
男は起き上がり、デカい剣を手に取る。
娼婦たちは焦燥を顔に宿し、暴力の香りを敏感に察知すると、落ちている服をまとめて部屋を出ていった。
「あんたがグランホーの大蛙の頭領か」
「そういうことになるな。人呼んで俺こそが『大蛙』のブルジアだ」
「名乗らなくていいぞ。覚えるつもりはない」
「はは、生意気な野郎だな。しかし、妙だな。今日は先生たちがみなアジトにいたはずだが……ここまでひとりで来たのか?」
言って『大蛙』は剣を素振りする。
「む? お前その殺人鬼みたいな
「人違いじゃないか」
「はははっ、ほざけッ!!」
大蛙が斬りかかって来た。
刃をあわせる。ガリガリと剣身を火花散らせ、俺の身の丈ほどもある大剣を受け流す。
大剣は壁に勢いよくつっこんで深々と刺さった。
「ッ、その剣裁き……! 高段保有者かっ!」
言うと、大剣が壁にささったまま大蛙は手を離した。
「待て! いいだろう! お前の目的はわかった! 俺の組織に入りたいんだな? てめえみたいな殺人鬼は犯罪組織のなかでもやっかみがられて居場所がないからなぁ、こうして手荒なデモンストレーションをしに来たわけだ!」
「愉快な野郎だ」
「合格だ! お前ほどの使い手はそういない。我がグランホーの大蛙の剣客として迎え入れよう!!」
俺は胸の前で手を叩き合わせ、右手で地面を思いきり叩いた。
地面から氷柱が数十本一気に飛びだす。
大蛙のでっぷりと皮下脂肪がついた体を無数のつららが突き刺した。
その身は凍結し、徐々に細胞が壊死していく。
「がほッ!? ば、か、な……まさか……まほ、ぅ、つ、か──」
ボスを始末し、構成員も残らず殺した。
あとは帰るだけだかな。
「あっ」
案内させた男と通路で会った。
「お、俺は、殺さないで、くれるんだよな……?」
「ああ、そう言えばお前は生かすと言ったな」
「そ、そうそう、約束してくれたろ……?」
「あれは嘘だ」
「…………ぇ?」
俺は男の喉を刃でやさしくなぞった。
全員死んだ。
これでアルウの平穏は守られた。
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