6.そして僕らは知った。
いたたた。曲がり角で何かにぶつかった。目の前を確認する。どこかで見たことのある顔。
「すいません、急いでいたので」
目線を下に移動させると、グラビアアイドルさながらの、○字開脚をした女子生徒が尻餅をついていた。
スラリと伸びた美脚に黒のストッキング、そこから覗く、やたら布面積の少ない黒いバタフライの紐パン。
「こちらこそ失礼した」
慌てて視線を逸らすと、その女子生徒は気にした様子もなく立ち上がる。
黒髪ポニーテールの幼さの残る顔立ち、あっそうだ!思い出した。この人物は、1学年先輩の
全国高等学校ライフル射撃競技選手権大会で優勝をした実力を持つ、新聞やテレビでも見たことがある。紛うことなき天才、西宮春。
あ、まずい、鼻血が。
「おや、大丈夫かい?」
そう言って、西宮先輩はティッシュを手渡してくれた。
「起き上がれない?」
俺に向かって、西宮先輩が手を差しのべる。不意に西宮先輩の視線が下を向く。ある一点に視線が止まり、クスッと笑われた。
「立派だね」
その瞬間、恥ずかしさで俺は顔を赤く染める。
「おい、翼大丈夫か?」
日向が遠くから駆け寄ってくる。
「翼くんって言うんだね。今、外で何が起きているのかわかるかい?」
西宮先輩は翼に問いかける。しかし翼は首を振った。
私も状況を把握できていないのだがと、前置きをして話を始める。
「スコープで確認したのだが、この現実は常軌を逸している」
「それは俺もわかります」
翼の言葉に西宮先輩は頷き、話を続ける。
「民間人が人に噛みついて、噛みつかれた人間も、数分後に人を襲い始めた」
「それってまさか…!」
「そう、ゲームや映画に登場する動く死体。いわゆるリビングデッドではないかと分析している」
「でも、現実にそんなことがありうるのですか?」
「翼、そんなデタラメ信じるな。麻薬を使用した宗教団体が暴れてるだけだ」
日向は困惑と異常なものを見る目で、西宮先輩を見ていた。
「だといいんだけど」
「戻るぞ」
「あ、うん」
「君とは縁がありそうだ」
日向とは逆で、俺は西宮先輩には嘘を言っているようには思えなかった。その態度は落ち着いており、言葉は人を納得させる説得力があった。
西宮先輩は含み笑いをすると、体育館に向かう俺たちの逆側を歩いて行く。
背後を気になりながらも、体育館に駆けていった。
体育館に帰ってきた翼を見つけると、高城は駆け寄ってくる。
「大丈夫だった?怪我はない?」
心配そうに高城は翼を見つめる。
「大丈夫だよ」
外の様子を話すと、高城は顔を真っ青にした。
満点の空の下で烏は笑う。 七星北斗(化物) @sitiseihokuto
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