第2話 名前

 目を開けると俺は家にいた。あの魔人と一緒に。俺はスマホを確認する。

 2019年4月8日16:24とスマホには書かれていた。

「すげぇ…ほんとに戻ってやがる…」

 結論から言うと俺は青春を願った。そのためにとりあえず現状では確実に詰んでいると思い高校入学までもどしてもらったのだ。

「なに?疑ってたの?」

「そりゃ疑いもするだろ。下手したら新手の詐欺かもしれんし」

 変な宗教団体かもしれんし新手の美人局かもしれんからな。特に女という生物はよく分からんし。疑いたくなるのもしょうがない。

「失礼ね…まぁそこは置いといてあげるわ。そんなことよりあと2つ願いを言いなさい」

 願い、3つあるのか。そいえばアラジンと魔法のランプもそうだったな。

「聞いてなかったか?さっきも言ったが願いはない。この願いもなんとか絞り出したくらいなんだぞ?」

「なによ!そっちこそ聞いてなかったの!?私願いを3つ叶えないとランプに戻れないんだけど!ねぇ!どうしてくれるの!?私を呼び出したんなら責任とってよ!!」

「うるせぇ!じゃあちょっと黙ってろ!!それが俺の今1番の願いだ!これでいいだろう!」

「ダメなのよ!そんなしょっぱい願いは魔人協会の協定違反なの!!だからお願いぃぃぃ」

 魔人協会?なんだそりゃすげぇ気になる。てかこいつ泣きはじめやがった!魔人に気を取られるあまり、俺は今自分がどこにいるかを忘れていた。

「ねぇくそ兄貴うるさいんだけど!さっきから何騒いでんの?」

「っ!」

 俺は即座に今の状況を分析する。結果、白髪のランプに繋がった美少女が俺の部屋で泣いているという意味の分からない結論に繋がった。俺は自称天才の脳みそをフル回転させる。ここで見つかれば、ただでさえ低い妹からの俺の評価が下がってしまう。まぁ正直妹からの評価なんてものはどうでもいい。問題はこの魔人をどう説明するかだ。擦ったら出てきたぁ☆で信じて貰えるわけがないし、なんなら精神科に連れて行かれそうだ。どうする。どうする。どうする。その時俺は自分の天才さを改めて知ることになる。

「おい魔人!俺の願いだ!5分でいいから姿を消せ!」

「ぶぇぇぇぇぇ!ぶぇぇぇぇぇ!」

 こいつ聞いちゃいねぇ!

「おいくそ野郎聞いてんの?うるさいっつってんだろ!…てか何?女の声?ほんとに何やってんの!?」

 迫る妹!焦る俺!泣きわめく魔人!カオスすぎる!

「やっていい事と悪い事の区別もつかねぇのかよ!くそ兄貴!!そこだけは信じてたのに!!」

 妹よ…勘違いをしているぞ…だけど信じてくれていたのか…あっ目から水が…なんでだろ

「びぇぇぇぇぇぇ!びぇぇぇぇぇ!」

 尚も気にせず泣きわめく魔人!うるせえ!

「開けるぞ!!」

 ドアの開く音が部屋に響く。部屋には、泣きわめくランプに繋がった魔人と棒立ちのまま涙を流す俺、そしてポカーンとした表情の妹が立っていた。





「え?なに言っての?」

 なんとか魔人をなだめ、妹に説明をし終わった。だが妹の感想はこれだった。そりゃそうだろう。正直俺も分かってない。ランプを擦ったら魔人が出てきて願いを叶えて貰ったから1年前に戻ってきたとか意味分かんなすぎる。

「でもこの魔人さん?を見れば偽物じゃないってのは分かるから…うーん?」

 妹は混乱していた。うん、しゃあない。自分でもどうしてこんなに冷静なのか分からないくらい、俺は今とても冷静だった。

「魔人さんが泣いてた理由はカスゴミのせいだとしてさ。なんでカスゴミは泣いてたの?」

「カスゴミってひょっとしなくても俺のことか?」

「そりゃそうでしょ。話を聞いた限りじゃ勝手に呼び出したのに願いを言ってあげないせいで魔人さんは帰れないんでしょ?そんなの100%カスゴミが悪くない?」

「そーだ!そーだ!カスゴミが悪い!」

「おい、そこの魔人便乗するな」

 だいたいランプを擦ったら魔人が出てくるなんて誰も思わんだろ。これやっぱ俺が悪いの?すると魔人が何かを思い出したかのように手を叩く。

「そうだ。私まだあなたの名前を知らないわ」

 そいえばそうだ。魔人と出会ってからここまで一気に来たから名前を言う時間なんてなかった。

大宮響おおみやひびきだ。よろしく」

 続いて妹も名乗る

大宮恋美おおみやれみです。よろしくお願いします」

「よろしくね!響!恋美!」

 魔人は笑顔で俺の名前を呼んだ。くそっ可愛いじゃねぇか。

「お兄ち…兄貴、キモイ」

 ん?なんか悪口が聞こえたような…

「お前の名前はあんの?」

「ないよ。そんなの…魔人だもん」

 魔人は少し悲しそうな表情を浮かべる。なんだか悪い質問をしてしまったようだ。呼び出して帰してあげれてないことも相まって少し罪悪感をうむ。

「なぁ…魔人。俺と学校生活してみないか?」

 俺は自分から出た言葉に驚いた。まず、学校生活を自分からしようと言ったこと。次に魔人を誘ったことに。

「え?」

「ほら、2つ目の願い。俺と学校生活をしてくれ。俺の青春を手伝ってくれないか?」

 なぜこの時こいつを誘ったのかよく分からない。でもさっき見せた悲しそうな表情がなんとなく、ただなんとなく、孤独を寂しがっていたような気がした。俺と同じように誰かに誘って欲しかったのかもしれないと、自意識過剰かもしれないけどそう思った。

「じゃあ2つ目のお願いはそれでいいわ。あなたの青春が上手く行くまで付き合ってあげる」

 するとまた周りが輝きはじめる。

「うわっ。なに、眩しい」

 俺も恋美も目を瞑る。目を開けるとそこには魔人が足で立っていた。

「うわぁー!!立てるようになってる!すっげぇ〜!!」

 なるほど、これで学校にいけるわけだな。受験とかはどうなってるんだろうか。

「ついでに名前もつけようよ!」

「いいアイデアだな!妹よ!さすが俺の妹だ!」

 俺はそう言い妹の頭をガシガシと撫でる。

「ちょ、髪が崩れるからやめろ!!キモイ!」

 俺の手ははたかれてしまった。痛い。だが名前をつけるのは本当にいいアイデアだ。学校へ行くなら必要だろう。

「ほんと!?名前つけてくれるの!?やったぁ〜!」

「でもどうすんの?なんか候補ある?」

 実は名前と聞いた時から思いついていた名前がある。

金色こんじきらんぷ。はどうだ?」

「金色…らんぷ…」

「あぁ!金色のランプに入ってたから金色らんぷ!いいだろ!」

 そう言うとらんぷ(仮)は俯いてしまった。

「兄貴…金色らんぷは無いわ。ほら魔人さん俯いちゃったじゃん」

 え、いい名前だと思ったんだけどな…魔人はお気に召さなかったらしい。

「違うの…恋美。私嬉しくて…初めて人から名前をつけて貰えて…とっても嬉しいの。しかも金色らんぷなんて可愛い名前…ほんとにありがとうね!響っ!」

 そう言って顔をあげたらんぷは誇張なしにキラキラと笑っていて、今までみたどんなアニメのキャラクターよりも可愛く見えた。








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