挿話 Witch Proverbs ~“魔女の秘密”
「───アオイくん……」
今でも、彼女を夢に見ることがある。
「アオイくんは優しいから。わたし、アオイくんからたくさんのものを貰っちゃった。とても返しきれないくらい、たくさん。」
それは、俺も同じだ。たくさんのものを君に貰って……。それに、返そうとしてくれなくてもいいんだ。ひなたが幸せでいてくれたら、それで───
これが夢であることをどこかで認識しながら、アオイは彼女に訴える。
「ううん。アオイくんのやさしさは、アオイくんの為に使って。アオイくんは、これからもたくさんの人を幸せにできる人だから。将来、アオイくんが他の誰かを好きになったら……そりゃあちょっとは妬いちゃうけど。それでもアオイくんがあったかい気持ちで生きてくれるなら、それでもいいなって思うんだよ。」
だが、ひなたは首を振ってからそう言って、アオイの手を握った。
「わたしがいなくなったら、そのときは誰かと一緒に……ううん。わたしがいなくなっても、アオイくんは誰かを幸せにし続けるよね、きっと。」
そんなこと、俺は望まない。この世界でたった一人、ひなたを幸せにし続けたいだけなんだから……!
ただひとり、ひなたに幸せでいてほしい。これからもずっと、幸せだと感じていてもらいたいだけ。だから、他の誰か、なんて……
「ふふっ……嬉しい。けどね───」
ひなたはパチッとウィンクをして、唇に人差し指を当ててこっそりと言った。
「───ひとつだけ、“
ベッドから身体を起こしたひなたの髪を、そよ風がやさしく揺らしている。イタズラっぽく微笑むその姿は、世界で一番大好きな“魔女”の笑顔だ。
「アオイくんが今、幸せに感じてくれてたらいいな。」
痩せた身体で、やさしくアオイを抱きしめるひなた。あたたかく包まれるような、安心感と愛おしさが伝わってくる気がした。お互いの温もりを確かめるように、ゆっくりと、深く、長く抱きしめ合う。この時間が、お互いの存在が、かけがえのないものなのだと確かに感じられて……
「ふふっ。あぁ、好きだなぁ───」
心の底からほっと息を吐くように言ったひなたのささやきに、アオイは何も言えず、ただ黙って頷き返した。
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