第五話 悪夢からの目覚め

激しい身体中の痛みを感じながら目を覚ます。


すると僕付きのメイドのアリサ・フォン・エリーシアがそこにいた。


「あら、そのまま死んでしまうと思ったんですが...。 まぁ良いでしょう。 旦那様とサイドお坊ちゃまには運悪く目が覚めてしまったと報告してきます」


コイツもグルなんだとはっきりとわかる。


「あぁ、存外僕もしぶといみたいだよ。 スッキリと起きれたよ」


精一杯の強がりに軽口を叩く。


「不遇であり、旦那様方にご迷惑をかけておきながら、貴方はその御慈悲を無碍にして...楽になることから目を背けたのですよ。 ...もう逃げる事などできませんよ」


楽になること? 死ぬことが楽になる事だというのならこいつは相当歪んでいる。


「そうかな? 案外どうにでもなりそうだけど?」


「まぁいいです。 直に分かることでしょう。 では、失礼します」


僕が起きたことを確認し、そそくさと出て行った。



数分ののち、兄のサイドが部屋に入ってくる。


「生き延びたか。 母上達にこのことを露見したら次こそお前を殺す」


やっとこさ死の淵から帰ってきた人をゴキブリ扱い...。 酷い...。

今にわかったことではないか?

と言うか浅学だったがこの世界にもゴキブリが存在したんだな。


「そうですね。 母上の悲しむ顔は見たくありませんから」


ゴキブリと罵られ様とも生き延びなければならない。

まずはこの家を出る為に冒険者になり、ランクを上げる事。


「ならいい。 朝食の時間だ、早く来いよ」


兄上に言われ僕はささっと着替え、食卓につく。


「死ぬかもしれんと聞いたが良く生きていたな。 出来損ないの癖に」


父上がそう口にする。


「そうね、私もこの子が不遇な天職を賜らなかったらどんなに良かった事かと思っていたのよ」


優しい言葉をかけてくれた母上が急に俺に冷たい言葉を投げかけてくる。

数日のうちに心変わりがあったのかどうしたのか僕にはさっぱりわからない。


とうとう家族も従者も味方が居なくなった...。

唯一味方になってくれると思っていたメイドのアリサまでこの始末だ。


「旦那様、奥様。 テイル様は仮にもまだ正式には跡取りなのです。 その様なことは仰いませぬよう...」


「ふむ。 確かにセバスの言う通りだ」


「そうね、言われてみれば仮にも私の子ですものね...」


全員が無言になる。


時が長く感じる。

一分? 一時間? 僕にはもうわからない。

どうしてこんなことになったのだろうか?


不意に父上が口を開く。


「サイドよ、お前は騎士学院にてこれからも励め。 どこかのゴキブリのように決して家を陥れる様な真似をするなよ」


「はい、お父様。 分かっております」


「サイド君が私の子だったらどれ程良かったか...」


ただ単に天職が不遇職だからってこんな仕打ちないだろうに...。

早く家から出てやりたい気持ちでいっぱいだ。 いつか見返してやると心に誓う。


ただ、暗殺者の家系の人間が沢山家臣に居るんだよな...。

生き延びれるかな?

まぁ、剣術はそこいらの騎士にもう負けないレベルだしなんとかなるよな...?

不安過ぎる...。


そういえばちょっと僕、どことなく口調が変わった...?


夢の男に思考が引っ張られてる? 記憶が混同している?

夢の男の感覚が正しければ、死にかけた俺の中に夢の男の魂入り込み交じり合ったのかもしれない。


となると、やはり夢の男は俺の前世なのだろうか? 深く考えても仕方ない。


考えても仕方ないし僕は思考することを一旦諦めた。

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