第八話 手合わせ

それから二日過ぎた。 俺は衛兵達と手合わせするために街の訓練場に来た。


「おはようございます。 皆さんお早いですね」


「それはそうだ。 皆、君との手合わせを楽しみにしていたのだからな」


それはちょっと嬉しい。

パーティを除名されてからというものの、幸せが多い。


衛兵達が一斉に構える。


「え? 全員!?」


「そりゃそうだろ。 君には全員でかからないと勝てないのだよ」


「勝ち負け大事なんですか!?」


「負けっぱなしは名折れだからな!!!」


うぉおおおおおおおおおと一斉に飛び掛かってくる。

俺は亜空間魔法で距離を取ったり、距離を詰めたりと、かなり駆け引きを多く戦っている。


「魔法使うなんてずるいぞ!」


一人が叫ぶ。 皆で一斉に飛び掛かってくる方がずるじゃない?


「いや、そっち全員で来てるし…」


「うるさい!」


完全に自分の事は棚に上げちゃったよ。 衛兵って皆良い人なんだけど、若干短気なんだよね。

そこが彼らの大きな欠点だ。


「わかりました。 魔法を使うのを止めましょう。 弱者には手加減が必要ですもんね」


「なっ! 馬鹿にしやがって!」


一斉に飛び掛かってくる。 なら簡単だ。


『凪一閃』


純粋な剣術の技だ。 横に薙ぐ様に一閃するシンプルな奥義。

これで文句は無いだろう。 飛び掛かってきた殆どの人達が吹き飛んでいて、体制の立て直しが厳しそうなレベルだ。


残るは三名。 中にはカトリアさんも残っている。

残ったメンツは結構やり手だからここからは良い試合が出来そうだ。


俺は一瞬で距離を詰める技を使い、カトリアさんに狙いを絞る。


それを庇うように二人の衛兵が流れる様に切り込んできて連携の深さに思わず顔が緩む。

だが、俺はそれも読んでいた。


最後の一歩を踏み出す瞬間にバックステップに切り替え二人の攻撃を避ける。

そして、着地した瞬間にステップの指向性を変え、衛兵に蹴りを入れる。

綺麗に入ったのか、武器を落としてしまっている。


もう一人が流れる様な一連の動作に関心し、驚いている間に詰める。

咄嗟に受け流そうとするも、俺の方が速い。


残された衛兵はカトリアさんのみ。

俺は飛び込み、切り込む。


彼女は衛兵達の独学や俺の教えた剣術ではなく騎士流剣術で対抗してくる。

流石は元最強騎士である領主の娘だろうか。


「魔法無しでそれほど打ち合えるとは…! あのスタンピードの時、君は妙な魔法を使っていた。 剣が、体術がこれほどまでとは。 一対一のいつもの手合わせは手を抜いていたのか?」


若干言葉に鋭さがある。

理由は簡単だろう。 だが、あえて挑発をする。


「えぇ。 各衛兵の実力に合わせ、しっかりと打ち合いをしてあげて居ました。 一方的になぶるのは嫌いなので」


「舐めてくれやがって…」


これはスキルを発動したな。 カトリアさんの固有のスキルは感情の昂ぶりで速さが増すというもののはずだ。

ならばこちらも速度を上げよう。


「舐めて居ません。 教えるのに必要だっただけです。 それとも一方的にやられたいですか?」


「なっ! 君になら一方的にやられるのは悪く…ないな」


何言ってるんだろうこの人。 彼女は急にもじもじし始めて動きが止まってしまったので隙だらけだ。


「シッ!」


こうして、良く分からない乱闘は終わりを告げたのだった。

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亜空間魔法の使い方~この魔法、こんな使い方があるんですよ? いいたか @Iitaka_

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