第七話 人攫い

俺はふと目が覚めてしまう。 暑いとたまになるよね。


一旦起きて水分を取る。

そしてもう一度眠る前にトイレへ向かうことにする。


そしてきゃあっ! と叫び声が聞こえた為、すぐさま声のする方へ駆け寄る。


「離して! 誰か助けて!」


「うるせぇよ! この宿の客は全員眠らせた。 大人しく捕まれ! さもないと殺すぞ!」


そんな会話が聞こえる。 女の子は多分ミラちゃんだろう。

俺は剣を持ってきていない。 人質を取られているがどうにかなるだろうか?

分からないが放っておくことも出来ないので顔を出す。


「おい、女の子に酷い事をしたらダメって親から教わらなかったか?」


強盗らしき人間が驚いてこっちを向く。


「なんだてめぇ。 俺にそんなことを教えてくれる親なんかいなかったさ。 さっさと失せな」


「そういう訳にはいかないかな。 君を捕縛して衛兵に突き出させてもらうよ」


「こっちには人質が居るんだ。 てめぇに何が出来る。 見なかったことにしてくれるんだったらこの女は殺さないでやるよ」


そうかい...。 なら交渉は決裂だね。


突如突っ込んできた俺に驚き、ミラちゃんを手放す。

それは悪手だけど、俺からしたらやりやすい。


「ミラちゃん走って衛兵を呼んできて!」


俺は亜空間魔法から太いミスリル製の棒を出す。

その棒を亜空間魔法で剣の形に整え、構えを取る。 だが、形を整えただけなのでとてもなまくらなので何度か打ち合えば確実に打ち負けてしまうだろう。


「これが僕の特技、亜空間魔法だよ。」


「亜空間魔法でそんな事出来る訳ねぇだろ!」


亜空間魔法を応用し脚の筋肉を一時的に作り変える。

身体強化魔法の真似事である。


俺は男に迅速の一閃を食らわせる。


「クソが…!」


打ち合うこともなく、あっけなく相手に一撃を入れることができた。


「相手をまだ子供だからと侮ったオジサンの負けだよ」


起き上がってくる様子はない。 負けを認めたのだろう。


男をロープで捕縛し、俺は衛兵が来るのを待つ。

男は斬られた場所が痛むのか苦しそうな声を上げていたので亜空間魔法から取り出した下級治癒ポーションを飲ませる。

死なせてしまっては意味がないからね。


「なぜ俺を助ける!?」


「あなたを殺してしまったらさっきの女の子がトラウマになってしまうでしょ」


それから十分ほどして大勢の人が走ってくる音が聞こえる。

そして扉をドーンと開け軽装備の女の衛兵が声を上げる。


「おい! レイド少年は無事か!」


「はい。 無事ですよ。 犯人は捕縛しておきました。 僕が斬った傷が原因で死ぬのは不味いと思ってポーションを飲ませました」


「良い判断だ、無事で何よりだ、君の身に何かあるとは思えんかったが、これも仕事だからな。 おい、このロープで縛られてる男を連れていけ!」

「は!」と二人の衛兵が駆け寄り、嫌がる男を強引に連れていく。


「久しぶりです。 カトリアさん」


「あぁ、久しぶりだな。 レイド少年は変わりがなさそ…ちょっと身長が伸びているな」


「ありがとうございます。 まだ育ちざかりですから」


この女性はカトリアさんと言って元々この領の領主の長女なのだが、家を継ぐ事は無く、自ら衛兵に志願した。

今ではこの街の西地区全体の衛兵をまとめる部隊長になっている。


僕とカトリアさんはとある村が魔物のスタンピードで襲われた時に一緒に戦ったので顔見知りになっている。

幼い僕が魔物を一刀両断し、亜空間魔法に死体をポイポイ投げ入れていく様が異様な光景だった為、記憶に残っているのだとか。


さっきの二人の衛兵も俺のことを知っている。 何度か剣術を教えたことがあるんだよね。


俺の剣術はお爺ちゃんから教わった物で、対人も魔物も対応出来る汎用的なものになっている。

その為人に教えることが多く、色んな人が僕の扱っている剣術を習得している。


その剣術には名前は無く、ただ生きることに特化した剣なのだ。

さっきは一対一の対人戦だったので素早く処理したが、本来であればヒットアンドアウェイが多い。

弱点を攻撃しては距離を取り相手の隙を作る。 それがこの剣術の強みである。


「カトリアさん、また近い内に衛兵達と手合わせお願いできませんか?」


「良いだろう、明後日はうちの部隊は訓練日だから明後日にしよう。 大丈夫か?」


「はい、大丈夫ですよ。 よろしくお願いします」


そんな会話をしていると泣きながらミラちゃんが抱き着いてくる。


「こわがっだよぉぉぉぉぉ」


俺はタジタジになってしまい、そこに居た皆に笑われてしまうのだった。

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