17.カリフォルニアガールズ

「勝敗ってどうやって決めるんだ」ヨシが言う。


「いいよ、もうそんな事は」リョウが手を頭にやりそう答えた。


狭い楽屋で俺たちは話している。


「もういいんだ」


リョウが呟いた。


楽屋に4人でいた。ハイネックフリーダムの演奏がここまで響いてくる。


ヤニ臭い楽屋だった。狭い楽屋だった。4人も入れば身動きが取れないほどだった。


それが心地よかった。


「いい夏だった」


またリョウが独り言の様に呟く。


「おい、まだ終わってねえぞ」


グッチーが言う。彼は楽屋に入ってからずっと落ち着きがなかった。


緊張のせいなのか、期待からなのか本人にもわからなかった。


ただ、不快な感情ではなかった。


「あのさ、みんなで円陣組もうや」


テツが言う。


はぁー?と3人の声が重なる。


「たまにはこう言うのもええやろ?」


テツが気にせず笑顔で言う。


「俺は絶対嫌だ」グッチー


「恥ずかしくてできるか」ヨシ


「仕方ねえな」とリョウが言い立ち上がる。


「おい、柄でもねえぞ」グッチーが尚も渋る。しかし、構わず、リョウとテツが笑顔で手招きする。


「わかったよ」と降参してグッチーは立ち上がった。


「おいおい、マジかよ。俺はそんな青春臭いこと出来るか!!!」


ヨシは顔も背ける。


3人は何も言わない。


無言、無音が楽屋を包む。


何か空気が膨らんでいくのを感じ、それが破裂した瞬間、「わかったよ、わかったわかった」とヨシが立ち上がった。


4人は部屋の中心で肩を抱き合い、円陣を組んだ。


「俺はお前らとバンドできて誇りに思っとる」とテツが言った。


誰も何も言わなかった。


「これで最後になるかもしれへん。もしかすると次があるかもしれへん。そんな事は誰にも分からん。ただ、1つ悔いは残さん様に、あのステージに全部置いていこうや」


また無言。


「おい、で、掛け声は?」


リョウが沈黙を破った。


「リョウ、お前に任せた」


テツがリョウにふる


「はぁ?お前、俺…まったく」


リョウは開けれた様に言った。




「なんと言うか、我々、井の中の蛙は大海を知る前に無残にも散った。そして、それぞれがそれぞれの海で生活を始め、まぁ、大海なんて見なくてもいいやな。と思ってた。でも、泳ぐ事を忘れられなかった。今日、俺たちはもう一度だけ泳ぐ。行き先は分からん。ただ、泳ごう。どこかには着くはずさ。気合いれてけよ兄弟」


おー!!!と4人が声を合わせる。


合わせたと思ったらリョウとグッチーとヨシはすぐに輪を解いた。


クソ恥ずかしいわ。やっぱりこう言うのは性に合わんな。と口々に言う。それを見てテツは笑った。




そこにハイネックフリーダムの面々が汗だくで入ってきた。


「お疲れ様です。皆さん、準備お願いします」


お疲れさん、と口々に彼らを4人はねぎらった。ドアが開いた瞬間に一瞬見えた店内は熱狂の渦であった。熱気が楽屋に入ってきた。それが部屋を支配していった。


熱気に当てられたヨシの顔が強張る。それはグッチーもテツも同じであった。無論、リョウも。


「行こう」


リョウが呟き、4人は楽屋を後にした。




後にはハイネックフリーダムの面々とその汗の匂いと確かな充足感だけが部屋に残った。




果たして4人の運命やいかに。

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