15.ロックバンドがやってきた
僕たちは一路小さな港町へと向かっていた。数日前に起こった乱闘騒ぎのせいだ。
ギターのヒロとベースのタカシがライブバーの客と揉めたのだった。
ヒロが弾みでライブバーを貶したのが原因だった。
それから何故かバンド対決をする運びになり、売り言葉に買い言葉で俺たちはまたライブすることになったのだった。
「エイジ、あの人らさ、昔はそこそこ有名だったらしいぜ」
ヒロが機材車の後ろから運転席の僕まで声をかけてくる。
「え、そうなの?」
「ビューティフルブラザーズって今から7.8年前くらいに活動してたみたいで、ネットに音源落ちてたぞ」
「どうだった?」
「よかったよ。聞くか?」
「流そう」
そう言うことになった。
ヒロが携帯から音楽を流す。
いい音楽だった。彼らが音楽と楽器をどれだけ愛しているのか、それを一音一音が雄弁に語っていた。
「いいね」
「だろ?」
「あのさ、聞いたからじゃないんだけど、僕、もう一度あそこでやるの結構楽しみなんだよね」
「俺もだ」
「ところで」
「なんだ」
「バンド対決ってどうやって勝敗を決めるんだろう」
「知らん」
車は一路港町へと向かう。
ライブバーに着いた頃には既に日が沈みかけていた。
「なんだこりゃ?」
フライヤーが店先に貼ってある。
『バンド大決戦 8/12』
こんなものまで作ってあるとは。
恐る恐るドアを開けてみると店内は既に人でごった返していた。
「大将遅かったな」
どこからか酒焼けした声が響く。
人々の視線が俺たちを捕らえた。
店内は完全なる沈黙に包まれた。
僕らは身構える。また乱闘騒ぎにでもなったら敵わない。
その次の瞬間、わっと歓声が上がった。
「よく来たな」「酒でも飲め」
と皆口々に話しかけてくる。
歓迎されているようであった。
不思議だった。余所者の僕らに一体なぜ。
「おいおいおい!!!」
アロハシャツを着込み、無精髭に長髪の男がこちらに近づいてくる。
片手にはビール瓶を持っている。数日前に乱闘騒ぎになった発端の男だった。
「お前らよく来たな、今日は楽しもうぜ、さぁ飲め飲め」
と僕ら1人1人の手を取り、笑みを浮かべている。
たった数日前にあんなことがあったのになぜこんな風に振る舞えるのだろうか。
よく分からなかった。分からなかったが、ただ、一つ、今日を楽しむ。その一点は同意であった。
「この前はどうもすみませんでした」
僕がそういうと、男は両手をヒラヒラとさせ、
「俺のほうこそ悪かったよ。申し訳なかった」そう言って深々と頭を僕らに下げた。
「顔を上げてください、僕らも特になんとも思ってないんで、それに、またここでライブできて嬉しいです」
そうヒロが言うと男に手を差し出した。2人はガッチリと握手を交わした。
「ところで」
と男が言う。
「バンド対決ってどうやって勝敗を決めるんだ?」
僕らは顔を見合わせて笑った。
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