13.ガッツだぜ!
「お前らどうなりたい?」
俺は、答えられなかった。みんなであの町で歳を取っていく。真っ先に辿り着いた答えだ。しかし、その答えを口にする事で描いた未来が潰えてしまう気がしたからだ。
「そろそろ考えなきゃいけない時だと思うんだ。あの町で歳食っていくのか、それとももっとでけぇ所で戦うのか」
「お前はどうしたい?」テツが言った。
「もっと、もっとデカい場所で力を試したい。そう言った時、お前らついてきてくれるか」
当たり前だろ、そう言いたかった。しかし、そうは言えなかった。自分の中の背骨にひびが入っていく。
「お前よ、そんな先の話じゃなくて、今のライブに集中しろよ」テツが言った。
その通りだ。大事なのはいつかどこかの分岐点じゃなくて今のはずだろ。
「それでも考えるもんは考えるんだよ」
俺は頭に血が上った。リョウの胸ぐらを掴んでいた。
「おい」テツが止める。
「なーんか、話がずれてねえかね?」と1人黙っていたヨシがのんびりとした口調で言った。
「なんで町を出る出ないの話になってんの?売れるとか、デカくなるとか、戦うとかさ、正直、俺、どうでもよくてさ、俺らが聞いてもらいたい人に聞いてもらえば他は別にどうでもよくね?」
今度は俺たちが黙る番だった。
「ドウデモヨクナイヨ!!!オマエラ、チュウモンシナイ、アバレル、ナニシニキタ!?」
気がつけば、傍らには外国人らしき店員が隣にいた。彼の言う通りだった。
俺たちは料理を注文をして皆黙ったまま飯を食った。
その晩は漫画喫茶に泊まり、翌日、大阪に新幹線に乗って向かった。
道中、誰も何も話さなかった。
その後のことはよく覚えていない、とにかく俺たちは互いに会話をしないままリハーサルを終え、ライブをこなした。
そう、俺たちはライブをこなしたのだ。それは戦うとかそう言う類のものではなく、まるで嫌々アルバイトで働いている時みたいに、ただ持ち時間を消費するようなライブだった。ライブの途中、観客の野次が聞こえてくる。
お前らやる気あるんか!?
なんや、その演奏
それに対して特にイラつきもなかった、その通りだったからだ。
俺たちは楽屋に戻り、汗を拭った、無言だった。
明日のライブは中止にしよう、誰が言ったのかは覚えてないが、それに誰も異議を唱えなかった。
そして、俺たちはその日の内に大阪を出て、あの町に逃げ帰った。
ひとつだったバンドは4つに分裂した。
もう誰もバンドをしようとは言わなかった。バンドは生物だ。俺たちのバンドは死んだのだ。死んだものは生き返らせれない。
それでも習慣からか、俺たち4人は定期的にカリフォルニアに集まった。
もう誰もバンドの話はしなかった。かわりに内容も思い出せない馬鹿話ばかりするようになった。
まるで、カリフォルニアガールの歌詞みたいな軽薄で厚みのない、しかし緩やかな日々が続いた。
翌年、リョウは町を去り、俺とテツは就職し、ヨシはカリフォルニアで酒浸りの生活を始めた。
そのようにして俺たちは大人になった。
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