第14話 『初でえと――ショッピングモール』

 全速力で自宅に戻り、海斗に借りた私服から制服に着替えて再度、瑠衣の元へと戻り――。


 今は、この街一番のショッピングモールへと向かっている最中である。


「わざわざ着替えなくても……」

「気にすんなって。制服デート、俺のイチャラブ計画にばっちりばっちり入ってるから!」


 瑠衣の申し訳無さそうな口調に、俺はサムズアップで応じる。


「そんなことよか俺より早く待ってたみたいだけど、いつからあそこにいたんだ?」

「えっと……」


 パタンと笑顔から一転、瑠衣の表情が曇り、話しづらいのか言い淀んでしまう。

 ――こいつまさか……。


「お前……」

「だって! レコンキスタの追手がいないとも限らないし……。あの一輝という男を信じて透真に何かあったらと思うと」


 言いながら声が段々と掠れていき、「居ても立っても……」あたりはかろうじて聞こえるほどだった。

 甲斐甲斐しいことを言ってくれているのは伝わるが、いかんせん内容が内容である。

 瑠衣の腕っぷしが強いと分かっていても、男として、彼氏として手放しに納得はできなかった。

 

「それで? 瑠衣が泊まるって言ってたホテルで解散したあと……?」

「尾行して、張り込んでいた」

「いや、ずいぶん気合い入れて見守ってくれててありがたいんだけど……。いいか、瑠衣――」


 それから俺はショッピングモールに着くまで、こんこんと言い聞かせた。


 ***


「――よし、とりあえず適当に見て回ろうか!」


 開店直後にも関わらず、この街一番の娯楽施設と言うだけあって、朝からかなりの賑わいを見せているショッピングモール。


「すん――私、臭う?」


 ……さきほどからしきりに自分の体臭を気にしているのは俺の彼女。

 普通の女の子とはなんぞやというのを、俺が独断と偏見を交えて語って聞かせたら、やたらと身だしなみについて訊いてくる子になってしまった。


 ――適当に言った手前、罪悪感が……。


「まあ、瑠衣がどんなニオイでも愛せるから問題ないな」

「…………へー」


 彼女は長めの沈黙とまったく感情のこもっていない相槌を打って、スタスタと前を歩いていってしまった。

 俺の捨て身の告白によるフォローも失敗の予感。


「え、ドン引きしてない? ちょ――っ」


 どんどん、離れていこうとする彼女に俺は慌ててしまう。

 瑠衣に追いつこうと駆け出す俺の手を――、


「……はぐれると、いけないから」


 真っ赤な顔をしながら、随分と彼氏らしいことを言ってくれる瑠衣に、俺はつい嗜虐心が芽生えてしまう。

 

「……それ俺が言いたかったセリフ、ベスト10なんだけどな。あと、さすがにあの性癖強めの愛情表現で照れるのはどうかと思うぞ」

「……照れてない」

「んなばかな。顔真っ赤だぜ?」

「……む」

「む――って……かわいすぎる」

「……むぅ」

「むぅ――って……あだだだっっ!? 手がっ潰れる!? 今メキって言わなかった!?」


 あまりの痛さに膝から崩れ落ちた俺は、空いた手でショッピングモールの床を二度三度とタップする。


「ふふ……あははっ」


 手の骨と引き換えに、わりとドSな瑠衣の笑い声が聞けたのは嬉しいけど、往来の視線が気まずいことになっている……。


「さて、気を取り直してまずは映画でも――」

「…………」


 いつ見ても目が合ってしまう瑠衣の方へ顔を向けて、映画鑑賞を提案しようとしたところ――彼女はある一角を眺めていた。


 ……なるほど。


「よし!」


 俺の声に、瑠衣の視線が引き戻される。


「俺――瑠衣の私服が見てみたい!」

「え……っ?」


 俺は瑠衣の返事を待つことなく強引に手を引いて、レディースファッションのテナントが集合する区画へ――未知の領域へと足を踏み入れるのだった。






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