第13話 『初でえと――お揃い』

 ――行ってきまー……。


 頭まですっぽり布団を被って寝ている妹を起こさないよう、静かに家を出る。


 時刻は午前八時。

 今日は謹慎なんて関係のない休日。

 つまり、堂々と外出できるわけだ。

 とはいえ、今までも家で大人しくしていたことはなかったな……。

 

 本日は晴天なり、デート日和の快晴なり。

 天気一つでここまでテンションが上がったのは中学時代の修学旅行以来である。 


 俺は、待ち合わせ場所であるショッピングモール前へ出来るだけ早く着こうと、三時間早く家を出た。

 老朽化の激しい錆びた階段を小走りに下る。

 

 テンションが高すぎて、今なら通りすがりの人全員に挨拶をしてしまいそうだ。

 電柱の陰に隠れるようにして佇んでいる美少女にもご挨拶――、


「って瑠衣るい!? なんで――」


 こんなに朝早く、と続くはずの言葉を彼女に遮られる。


「――わっ、会えて嬉しい! ちょうど織史おりふみくんの事を考えて……って私ったら何言って……テレテレ」


 なんて?

 とても棒な口調で奇っ怪なことを言っているのは、昨日から俺がお付き合いすることになった殺し屋系箱入り娘の朝香瑠衣さんである。

 

「……えっと」

「もしかしてセリフ……間違えてた?」


 セリフってなんだ……?

 数秒考えて、そのような内容の独り言を呟いたことがあった気がする。

 あれはたしか、俺が初めて瑠衣の家に行ったときのことだ。

 あの時点では瑠衣とはまだ会えていなかったはずだが、彼女のことだ。

 どこかで聞き耳でも立てていたのだろう。俺……信用ゼロだったし。


「……あはは、そっかそっか、あれのことね」


 とびっきり雑な愛想笑いが出てしまった。

 おまけに口角が引きつっている気がする……。


「そのー、俺の言ったことは一旦忘れてもらってさ。無理せず自分の好きなように挨拶してくれると嬉しいな。……なっ!」


 誠心誠意、一生懸命、瑠衣に教える。

 その想いが彼女に伝わったのか、ニコリと笑って、元気良く頷く。

 

 ――朝日に照らされて、一層輝いて見えるぜ。聖女か……。


「それじゃあ――おはよう、透真」


 つい最近まで常時無表情、無口一辺倒な彼女の笑顔と挨拶。

 今なら俺のバイタルは異常値を示すだろう。血圧急上昇、心拍数爆上がりである。


「お……おう、おはよ……う、瑠衣」


 ヤバい。穴という穴から血を吹き出しそう。

 瑠衣にアドバイスしたにも関わらず、俺のほうが満足に挨拶できずにいる。

 未だに俺から目線を外さずに微笑んでいる彼女に、どうしていいのか分からず――俺の目がバタフライし始めた。

 気を紛らわそうと俺は必死に


「そっそういえば! 日曜なのに制服なんだな」

「…………うん」


 地雷踏んだあああぁぁぁぁ――っ!?


 いつも姿勢正しい立ち姿で、まっすぐと前を見つめている彼女の顎のラインが数ミリ下がった。

 これはどうやら、というか確実に落ち込ませてしまったに違いない。


「……私、これと仕事着しか持ってなくて――」


 仕事着って、あのレディスーツのことか。

 

「この服なら、透真とお揃いになれるかなって……」


 彼女は折り目正しい制服のスカートの裾を指先でいじりながら、なんともいじらしいことを言ってくる。


 …………。


 ──俺はとにかく猛ダッシュで家に戻った。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

夢の初でえとなので、話数かけてゆっくりやっていきたいです!

今回は文量少なめですが、序章的な感じでどうぞよろしくお願いいたします!

また、小説のフォロー、評価(☆→★)のほうもよろしくお願いいたします!

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