私はキミに落とされてるのに
どんな映画だったのかなんて覚えていない。ただ彼女が作品に感動する姿を隣で見惚れていた、なんて惚気けたことは言うつもりは無い。映画の最中も握られたその左手が妙に暖かくて、感動的なシーンになりそこに映し出される姿をどうしようもなく自分と重ねてしまっている自分が少し照れくさい。
この映画が終われば、僕は告白をする。恐れるな、腰を引くな、前を見ろ。みんなそうやってきたんだから。
恋愛映画にふさわしいエンドを迎えた館内には感動して、鼻をすするものや涙を流しているものがかなりいた。そのうちの一人に星奈はいる。
目に涙を溜めて潤んだ瞳に思わずハンカチを差し出してしまった。
「使って、泣いてるじゃん」
「ありがとう。でも翔真くんは泣かないんだね」
「そりゃあ男だから」
「かっこいいね」
「なんだそれ」
内心舞い上がっていた。
昼ごはんはフードコートで済ませて、そのあとは彼女のショッピングに付き合った。女子っていうのはあんなにたくさんの店を見て回るんだなぁと改めて感心した。
彼女に着いていくのに必死で、後半はほとんど体力がもたずベンチで休憩している。服を選んでいる時の彼女も楽しそうで、誘ってよかったなと思った。
あっという間に時間は過ぎ去り、ショッピングモールを出た頃にはもう日は沈んでいた。
時計はもう8時を過ぎていて、少し長居しすぎたかなとも思う。
「今日は楽しかった。ありがとう」
「そんな。突然誘ったのに来てくれたことの方が嬉しいよ」
夏でも暗い夜空の中では都会の光は眩しく、僕らを照らしている。
「ねぇ、星奈」
「なに?」
足を止める二人。もう今しかないと、そう思った。深呼吸をしてこころを決める。
「僕は、、、星奈のことが好きだ」
それを聞いて目を見開く彼女と、僕の目が重なった。
「ずっと、多分物心ついた時から、君といることが楽しくていつも一緒にいたいなんて思っていたら、それがだんだん好きになってた。だから僕と、付き合ってくれませんか」
驚いた顔をしていた彼女は一瞬固まったように唖然としていたけど、すぐに気を取り戻して一度目を閉じる。
次に目を開くと、彼女は僕に近づいてくる。そうして僕の目の前まで来て立ち止まる。
「うんっ!」
僕は彼女に抱きつかれていた。
「私も、ずっと好きだった。でも翔真くんは私の事好きじゃないかもってずっと思ってて。だから、ありがとう」
僕は自然と彼女に腕を回して抱擁していた。
心に滲むように幸せが満ちていく。
その日は綺麗な梅雨晴れだった。
僕はキミに落とされてるのに 日朝 柳 @5234
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