お通夜
2人が帰ったあとのファミレスには、重苦しい雰囲気が立ち込めていた。本当に聞いてはいけないものを聞いてしまったからだ。
これは3人の秘密だ。なんて生易しいもので無かったことにするのは許されないような、そんなものを感じた。
「ごめん。私が誘ったばっかりに」
星奈は非常に申し訳なさそうな顔で必死に謝ってはいるが、だからといって彼女を責めるというのは完全にお門違いの話で、ここに来た時点で同罪だと裕也と幸は思った。
「そんなことは無い。興味本位で来てしまった俺らも良くなかった。完全に悪ノリが過ぎたな」
「そうそう。もういっそ週明け皆で謝りに行かない?先輩なら許してくれそうな気がするけど」
あくまで気丈に振る舞うが、それで許されるとは毛頭思っていない。
「なら、私に策がある」
翌々日、憂鬱なる月曜日の授業をなんとか生き抜いた彼らはいつも通り部室に集まる。
晴れ晴れとした気持ちと、モヤモヤとした感情と、申し訳なさが募るというカオスな感情の渦によってなんとも言葉にしがたい空気が部屋に佇んでいる。
「そろそろ、課題曲決めない?」
智音はホワイトボード前に立つ。その場の空気などお構い無しにペンを持ってデカデカと大きな丸を書いた。
「さ、やりたい曲ある人」
言われるがまま、僕らはそれぞれがやりたい曲を出し合う。曲のジャンル毎に振り分けて書かれて、候補が少ないところはバッサリと全て切られた。
「残ったのはこの9曲だけど、どうする?」
「軽音楽やってるんだからそりゃあ盛り上がる曲の方がいいんじゃない?」
「じゃあこれはなしだな」
バツ印が2つ付いた。
「英語曲は分かりずらいからやめよう」
さらに1つ。その後も色々あって残ったのはふたつの楽曲だった。偶然だが、その2曲を出したのはどちらも先輩の案だった。
「みんな、うちに気い使う必要はないんやで。もっとやりたい曲があるんやったらそっちにするから」
「じゃあ、その曲がしたいです」
僕は自然と言葉が出ていた。これは、この間の告白があったからとかそういう事じゃなくて、ただただ先輩に感謝しているからだと思う。
「みんなは、どうかな」
「そんなの聞かなくてもわかるだろ」
「賛成だよ」「だね〜」
やっぱりこの部活をまとめあげるのは先輩が1番似合っている。
「じゃあ、これから文化祭に向けてはこの曲をやろうか。うちにとっては最後のひと仕事。みんなでできる最後のお祭り、派手にやったろか!」
「「「「おー!」」」」
手を合わせて、腕を高く上げた。もう誰も暗い気持ちなんかじゃない。
ちなみに、先輩がファミレスでの話を聞かれていたことを知り顔を真っ赤にして恥ずかしがったのはまた別の話。
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