拝聴させていただきます

例の告白事件が会ってから約1週間。未だに返事をできないでいた翔真であったが、智音は本当に気にしていないような素振りを見せるが故に、あれは夢ではないのかと思ったのだが、今週末彼女にレストランに呼び出されたということで、あれは夢ではなかったと我に返った翔真であった。そして返事をそれまで返事をしなかった自分を強く責め、どうしようかと悩んでいるうちに平日が終わった。

「どうしよう。どうしよう」

快く引き受けるにも、断るにしても経験のない彼にしてみればどちらも緊張の度合いはさして変わらず、みんなの前での発表の時の数百倍の緊張感が襲ってきた。

だが行かないわけには行かないので、約束の時間の数時間まえから僕は約束のレストランでドリンクバーをちびちびと飲んでいた。

だが彼には誤算があった。なんとその10分後に智音先輩はやってきてしまったのだ。

先輩はいつもよりもお淑やかさを感じる服装で、どこか上品さを兼ね備えていた。

「まずはお昼ご飯からにしようか」

そう言って彼女はメニュー表を開く。

そうして着々とことが運んでいき、ご飯を食べ終え、食後のデザートも食べそしてホットコーヒーがテーブルには2つ。もう、タイムリミットだ。

「それで翔真。この間の返事を聞かせて欲しいな」


その言葉を壁越しに聞く者が3人。うち1人は楽しそうに、うち1人は肩を震わせ、残りの1人は修羅場を感じ恐怖する。

一体なぜ彼女はこの部活での暗黙の了解であったはずの2人の両思いに踏み入れたのか。それは智音を含めた当事者以外の3人が理解をしているはずだった。なぜ急にそんなことをしたのか、それは当の本人にしか分からない。

「先輩の気持ちは聞いた時とても驚いたし、そんなふうに思ってくれているのが嬉しくなった。きっと先輩は明るくて、話し上手だから僕が言葉に詰まってもきっと場を盛り下げないで真摯に聞いてくれると思う」

彼は一度呼吸を整えた。

「だけど、僕には好きな人がいるんだ」

はっきりと、言葉は曲げなかった。ここでちゃんと言葉に出来ないなんて男らしくない。

「それは先輩じゃないんだ」

「知ってるよ」

彼女は少しだけ悲しげな顔で笑っている。でも、どうして知ってるのに告白をしてきたかなんてことは口が裂けても聞けなかった。

「分かってても、ぶつかりたい時だって翔真にもあるよね。それに、叶わない恋を願うっていうのはなんだか青春っぽくない?」

満面の笑みなのに、彼女の目は潤んでいて今にも溢れそうで。零れるのを止めようと必死に目を擦ってもそれは止まらなくて。

伸ばそうとする手は彼女の頬まで届かない。なぜこんなにも心が傷つくのか。きっと自分がこうなるかもしれないと重ね合わせてしまったからかもしれない。

だから余計に自分の不甲斐なさに苛立ちを感じ、彼女の勇気が僕の背中を押した気がする。

「先輩」

必死に涙を拭う目がこちらを向いた。

「僕も明日、勇気を出して告白してみます。だから僕も振られたら、また一緒に出かけませんか?その時は、振られた同盟として」

それを聞いて彼女はフッと吹き出して、遂には声に出て大笑いしてしまう。

「面白いこと言うね。でも、それなら大丈夫だよ」

彼女の目はもう泣いてなんかいない。

「君の恋は必ず実る。うちはそう信じてるから」

いつもの智音さんが励ましてくれた。

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