水族館
「お待たせ。ごめんね、ちょっと遅れちゃった」
「いや、別に。僕も今来たところだから」
星奈は、少し照れながら彼に声を掛けた。
今日は土曜日。二人は私服。
つまりデートだ。何故こうなったかは言うまでもないが、一応書いておく。
話は昨日に遡る。
教室を去ろうとした彼女を追いかけようと振り向くと、そこには遅れると言っていた2人の姿があった。
「何してるんですか」
やってしまったとでもいいたげな様子で顔を覆う2人。どうやら何かあるようだ。
「いや、デリカシーとは何かを学んだんだよ」
「翔真、ごめん」
何がなんだか理解出来ていない翔真は急に謝られただけで逆に困惑した。
「どういうことですか。というか星奈を追いかけないと」
しかし部室を出ようとする僕の肩を幸が掴む。仕方なく僕は再び椅子に座った。
「なんですか。星奈を追いかけるより大事な事なんですよね」
「それは」「もちろん」
何故か息ぴったりの2人。以心伝心なのだろうか。
幸は椅子に座るまでの間に、星奈の鞄の下からはみ出た水族館の券に気づきさりげなくそれを抜き取った。
「翔真は今、星奈を怒らせてしまったんだ。それは分かるよね?」
「いや、分からないですけど」
即答する翔真に一瞬押し黙る。それはそうで、一方的に逃げられた彼に落ち度は全くと言っていいほどない。
「それがあるんだ。女の私だから気づいたんだけどね。それで彼女の機嫌が今はとても良くない。これはバンドを組む私たちの関係に大きく影響すると思わない?」
「まぁ確かに。バンドで仲が良くないのはあまりいいことでは無いですね」
良かった良かったと幸は呟いているが、翔真はまだ背景が掴めない。というかなぜ裕也が隣で深く頷いているのかが分からない。
「それで、私にいい考えがある。これできっと2人の仲はこれまでより良くなるに違いない」
「えっ、なんですかそれは」
逆に翔真が食いついてきた。一気に訪れたチャンスから、自分で星奈に水族館に一緒に出かける旨を伝えることを約束させた。
そして今に至る。
星奈の私服はシンプルな感じで、特に派手ということもなく安心した。
「じゃあ行こう」
手を出しかけて、直ぐにひっ込めた。付き合ってもいないのに手を繋ぐっていうのはなんだか違うとか色々考えたが、結局ただ自分が恥ずかしいだけだった。
チケットを渡して入場口から入る。中に入るとすぐに姿を見せたのは小さなクラゲやクリオネやらだった。
水族館に来たのは幼稚園の遠足以来だったからか、かなり新鮮な気持ちで星奈との話も弾んだ。けど、僕よりも星奈の方が楽しそうにしていたので、微笑ましく魚を眺める彼女を見ていた。
「あっ、イルカショーだって。行ってみようよ!」
リーフレットの中の一面には大々的にイルカが飛び跳ねる写真が載っている。
「そうだね。でもこれ水で濡れちゃうんじゃない?」
「大丈夫。こんなこともあろうかとカッパは持ってきてるから」
やっぱり僕より楽しみにしていたみたいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます