居眠り

声が聞こえる。何かを一生懸命に言っている気がする。途切れ掛けの意識のまま、みみずを這った字がノートを埋めていく。

肩を叩かれた。急いで顔をあげるが、先生は僕が寝かけていたのには気づいていない。だとすると誰か。

「いまここだよ」

囁き声で星奈が指さすページは僕が開いている次のページだった。

「ありがとう」

とお礼を言って前を向いた時、ちょうど先生と目が合う。

「裕也、問2はとけるか?」

目を落とすと、そこは予習でしている所。

「はい」

「じゃあ答えを」

「sign2θです」

沈黙が走った。えっ、えっ?と何度も問題を確認するけど間違ってないはず。おずおずと再び前を向くと、呆れ顔の先生がそこにいた。

「お前、ちゃんと授業受けろ。いいって言うまで座るな」

マジギレである。

「ふふっ」

僕にしか聞こえない程度の小さな笑い声が聞こえてきた。隣を見るとハンカチで口を抑えて机に突っ伏し、必死に笑いを堪えて方を震わせる星奈の姿が。

彼女の開いている教科書は、さらに次のページだった。

くそっ、やられた!

寝ていたことをいいことに騙された。だからといって言い返せないから妙な悔しさだけが残る。

終業のチャイムが鳴ってやっと僕は直立から解放され、項垂れるように机に倒れる。

「どんまい」

顔をあげると、星奈がきれいなその顔でご満悦そうな表情を浮かべている。

「騙したな」

「まぁまぁそう言わず。それより部活行こっ」

それよりって。お前のせいで僕は明日の予習を全て担がされることになったって言うのに。

「絶対やり返してやる」

「できるならねぇ」

余裕そうなその表情を僕は一度も崩せていない。僕は自分と星奈のギターを持って先に教室を出る。

「早く荷物片付けて。先に部室行ってるから」

彼女はしばらく固まったかと思うと、「分かった!」とだけ言ってあたふたと筆箱にシャーペンをしまい始める。

それを見て僕も廊下に出る。

しばらくして、後ろからタタタタと急ぐ足音がするので振り返ると案の定星奈だった。

「ん」

「ありがと」

大事そうにギターを抱きしめる。その表情にうっかり見惚れそうになって部室に向かって少し早足になる。

「ちょっと待ってよ〜」

星奈は笑顔で、彼の背中を追っていた。

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