昼食
僕はカバンから弁当を取り出して広げる。
特に誰かと喋ってご飯を食べるということは無い。断じて友達がいないということじゃないから。と誰に向けて言ったのか分からない心の声を発して教室を出る。
「やっぱり落ち着くな」
屋上に続く階段には立ち入り禁止のテープが貼られていて、昼休みになろうがここには誰も来ない。
「やっぱりここだ」
割り箸を割ろうとした時に声がしたので変に力が入って歪な形のペアが完成する。
「あ、、、ごめん」
星奈は気まずそうに僕の隣に座る。あまりにも自然な動作だったので反応に遅れてしまった。
「おい、なんでここにいるんだ。友達と食べようとしてたじゃんか」
体として迷惑そうにするが、内心は一緒にご飯を食べる人が今日はいるのかとかなり嬉しかったりする。
「じゃあ友達と食べてくるね」
「あぁ、そうしろ」
彼女は立ち上がって階段を降りていく。やがて姿は見えなくなる。
結局何をしに来たんだ。一瞬の喜びは直ぐに落胆へと変わり、持ちづらい箸を握って弁当を開く。
「やっぱりさびしいんじゃん」
バッと顔を上げると、階段下から覗かせる顔がある。その顔はやっぱりどこかからかうようで。ああもう、と髪をくしゃくしゃと掻いて
「一緒にご飯食べよう」
「うん!」
今度は無垢な笑顔を向けて僕の隣に座る。
「やっと素直になった」
「うるさい」
照れくささを誤魔化すように彼はご飯を食べる手を緩めない。そんなところも可愛らしい。
「あっ、ご飯付いてるよ」
翔真の顔に手を伸ばすと、
「自分で取る。どこ」
彼は自分の顔を隠してしまった。それじゃあどこか分からなくなるって言うのに
「嘘だよ」
「えっ」
「翔真君は騙されやすいね」
やっぱりからかいがいがあるなぁ。コロコロ変わるその表情も見ていて飽きない。
「私も食べよ」
今日は自分で作ったサンドイッチ。朝に急いで作ったせいか具材はハムとかレタスとか適当に入れてるだけ。
「それ貰う」
ヒョイっとサンドイッチを奪うと一口で食べてしまった。
「あ〜、私のなのに!」
「まぁまぁ、今度は僕が作ったやつもあげるから」
えっ、翔真君が作った料理?全く料理ができるようなイメージじゃないから意外だ。
「まぁ、あんまり期待すんな。サンドイッチ、ご馳走様」
そう言って彼は階段を降りていってしまった。残ったサンドイッチをパクパクと食べて蓋を閉じる。
「料理か〜。楽しみだな」
ぽつりと言葉が漏れる。その言葉が壁に少し反響しているのが聞こえた。
「やっぱりできてるんじゃん。後で裕也とかに言いつけてやろ」
たまたま通りかかった階段に反響する声を聞いていた幸は、そんなことを思って自分の教室へと向かった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます