最終章 19. 思いを寄せる乙女
現状では灯のもとへ向かう手立ては無い。
だからマリスとゼクシリアは、互いに協力してそれを模索することにした。
「それではゼクシリア王子、互いに灯のもとへ向かう道を探しましょう」
「ああ、ただしこのことは他言無用だ。我々帝家とそなたら3人の騎士で、なんとしても灯を見つけ出すぞ」
彼らの中では灯は今も友人のままだ。
しかし、世間では灯は帝国を支配した悪の化身、魔王ということになっている。
だから灯は彼らだけで探すしかない。
それはどれだけ時間が掛かるか全く予想出来ない、途方もない道のりであった。
「もしかしたら、僕達では灯を見つけられないかもしれない。だからその時は、子孫に引継いでもらうことになるかもしれませんね」
「そうだな、全く未知の研究ではある。だが、どれだけ世代を紡ごうとも、絶対に灯を封印から解いてみせるぞ」
「はい!」
マリスとゼクシリアはそう意気込むと、固く握手を交わす。
彼らの目にはもはや絶望の色は一切無かった。
「あのー、メルフィナ王女、少しだけお話いいですか?」
「?はい、構いませんけど」
もう解散する雰囲気になった時、アマネがメルフィナを呼び止めてきた。
アマネと対して接点のないメルフィナは、突然のことに不思議そうな顔をする。
「つかぬことをお伺いしますが、もしかしてメルフィナ王女って灯君のことが好きなんですか?」
「えぇっ!?な、何で急にそんなことを……」
メルフィナは予想だにしていなかったアマネ発言に、顔を真っ赤に染め上げていた。
声も上擦っており、明らかな動揺が見て取れる。
「ただの予想だったんですけど、今の反応で確信に変わっちゃいました……」
「うぅ、恥ずかしいです……」
呆気なく予想が当たってしまいアマネは申し訳ない気持ちになり、メルフィナは簡単に見破られてしまった恥ずかしさから縮こまってしまう。
「へぇー、あなたよく分かったわね。会ったばかりなのに」
「ネルフィナ王女!いえ、私はここに来る前にライノ隊長から会議の様子を少し聞いてて、だからメルフィナ王女が怒ったのは灯君のことが好きだったからなのかなって思ったんですよ」
アマネは背後から突然現れた次女のネルフィナに驚きつつも、そう予想した理由を説明する。
「なるほどねー、まぁ確かに好きな人の仇が目の前に現れたら、飛び掛っかかっちゃっても仕方ないわよね」
「もう、それは何度も謝罪したじゃないですか。いじわるしないで下さい……」
「あはは、ごめんごめん」
メルフィナがクリスに掴みかかった様子を間近で見ていたネルフィナは、すでにそのことをネタとして扱っていた。
ネルフィナのいじりに、メルフィナはムスッと頬を膨らませる。
「あの、アマネ様は灯様と冒険をなさってたことがあるのですよね?」
「えぇ、そうですよ」
「よければその時のお話を聞かせていただけませんか?」
メルフィナは灯の王国時代のことをあまり知らない。だからどんな風に生活していたのか気になっていたのだ。
「灯君はですね、魔獣とすぐ仲良くなれるからすごく羨ましいんですよ。でも魔力が使えない癖に無鉄砲に行動するところがあって、危なっかしいところもあるんですよね〜」
アマネは灯と出会った時のことや、クウが攫われた時のことを語り出す。
メルフィナはそんな彼女の話を、まるで幼い子供が御伽噺を読んでいるかのように、楽しげに聞き入っていた。
「灯様は昔からお優しい方だったのですね」
「まぁ魔獣には激甘ですね。口は悪いですけど」
灯の話を聞き終わったメルフィナは、手を組んで惚れ惚れとした表情を浮かべている。
そこには灯に思いを寄せる乙女の姿があった。
「メルフィナ王女はどうして灯君のことが好きになったんですか?」
「……私は、目が不自由なせいであまりお城から出たことが無かったんです」
アマネに尋ねられて、メルフィナは自分の過去を語り出す。
この世界では医療や福祉は発達しておらず、それ故に安全の為彼女は年に1回程度しか城を出たことが無かったのだ。
「でも、灯様はそんな私にいつも楽しそうに色々なお話を聞かせてくれて、色々な場所へも連れて行ってもらえて、そして目まで見えるようにしてくれたんです。そんな色々なことがあって、気づいたら灯様のことをお慕いしておりました」
「そうだったんですか……」
メルフィナの語った灯との思い出、その心温まる話にアマネは感動し目には小さな涙を浮かべていた。
「だから私は、絶対に灯様に会いに行ってみせます!」
アマネに灯との思い出を語ったメルフィナは、それで楽しかったことが色々と蘇ってきたのか、灯を探す為の今後の魔法研究に気合いが入る。
「はい、私も2人が再会出来るように精一杯頑張りますよ!」
「ふふっ、皆で力を合わせればすぐに見つかるわよ」
意気込むメルフィナにつられて、アマネも灯捜索に気合いが入っていた。
そんな2人を眺めていたネルフィナが、励ますように笑いかける。
そうして、女性陣は妙な団結を見せて灯の知人による密会は終わった。
――
ゼクシリア達帝家との話し合いを終えたライノ達は、騎士達の待つ宿へと戻って来た。
「遅かったの、どこへ行っておったのじゃ?」
「ん?まぁちょっとな、帝国なんて滅多に来れないから散歩だよ」
宿へ入ると早速話し掛けてきたのは、同じ艦隊の隊長であるフレシアだ。
おばあちゃん口調のフレシアは、姿を消していたライノ達に興味津々といった様子で近寄ってくる。
「ふん、こんな時まで散歩とはどこまで青騎士根性が染み込んでおるんじゃか……」
「うっせぇ、まぁセシリアさんみたいな老体にはきつい――」
「あぁ?」
「いえ、何でもないです」
馬鹿にされたのがムカついたのか言い返してやろうと反撃に出たライノだったが、セシリアの怒気に気圧されてすぐに縮こまってしまう。
そんな情けない隊長の姿に、アマネは冷たい視線を送っていた。
「しかし、あの魔王と名乗っておった灯とかいう小僧、なかなか見所のある若者であったな。出来れば敵として出会いたくは無かったわい……」
「フレシアさんがそんなことを言うなんて珍しいですね。何かあったんですか?」
フレシアはアホなライノのことは放っておき、話題を昨日戦った灯へと変えた。
普段は敵を褒めるなど絶対にしないフレシアには珍しい発言だと思い、アマネはそう尋ねる。
「戦闘力はなかなかのものじゃったが、あやつには殺意が一切なかったのじゃ。まるでわざとわしらと敵対しているような、そんな戦い方をしておった」
「へ、へぇ、そうなんだ。俺は殺されるかと思ったけどな……」
フレシアの勘の良さにライノは動揺しつつも、ここで灯の正体をバラす訳にはいかないので、どうにか誤魔化そうとする。
「どうせお主はくだらん挑発でもしたんじゃろ。ともかくわしは、あの魔王には何かあると思っておる」
フレシアは何やら確信があるのか、腕を組んで自信満々な様子であった。
(まじかよこの人、勘良過ぎだろ……!)
(どうするんですか隊長!)
(知るかよ!とにかくどうにかして誤魔化すしかないだろ!)
フレシアの想定外の鋭さに慌てて、ライノとアマネは目線で会話して対策を講じる。
こうして、灯の存在を守る為の新たな戦いが始まった。
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