7章 33. 魔獣を統べる王
フリーの岩石砲をまともに受けた俺は、飛びそうになる意識をどうにか保って踏み止まる。
その間にフリーは、地面に貼り付けているのとは別に新たに腕を生成したようで、見事に元通りになっていた。
「ソロソロコノタタカイニモアキテキタ。コレデオワラセテヤロウ!グラビティバースト!」
「っ、まずい!全員守りを固めろ!」
フリーは全身の魔力を凝縮させ、それを体内から爆発させた。
紫色に輝く重力の爆発により、ゴーレムとして形成していた岩石の体が激しく爆散する。
俺は咄嗟に後方にいる魔人達に守りを強化するよう指示を飛ばし、自分自身も強固な魔獣と融合することで凌ぐ。
「フハハハ!コレデオワリデハナイゾ!」
「がはっ、う、後ろから、だと……」
だが、奴の攻撃は正面からの爆発だけではなく、飛ばした岩石自体も操るものであった。
それにより1度避けた筈の岩石が再び後ろから強襲してくる。
全方位からの攻撃に不意をつかれた俺は、後頭部に強烈な一撃を受けてしまった。
「もう、なにふり構ってはいられないな……」
フリーは現在全身の岩石を攻撃に転じている。そのため本人の装甲はかなり薄くなっていた。
だからこの隙を逃すわけにはいかない。
「やるぞ皆、ここからは全力であいつを止める!」
『最初からそうすれば良かったのに、格好つけるからよ灯君』
俺の宣言に対しエキドナが水を差してくる。
本気を出さなかったのには色々と理由があるが、それでもそこを突かれるとちょっと痛いな。
「はは、まぁ本気を出さなくても勝てると思ったんだよ……。ともかく皆頼むぞ」
『えぇ、任せなさい』
岩石が周囲を飛ぶ中、俺は覚悟を決めた眼差しでフリーを見据える。
「ナニヲスルツモリカシラナイガ、スベテムリョクダ!」
「分裂、そして硬化」
フリーは再び全方位から岩石を飛ばしてくる。
そんな攻撃を前に俺は1歩も動くことなく、体を分裂させた上で硬化させることで全てを防いでみせた。
「ナッ、バカナ……!」
「超加速」
フリーは俺の分裂能力を知らなかったからか、突然数が増えたことに驚く。
そして俺がそんな隙を見逃すことは無く、その間に超加速によって一瞬で距離を詰めて目の前に移動した。
通常の加速では奴の周囲に展開されている重力に引っ掛かって速度を下げられてしまう。
だからリツの時間操作を合わせた、この超加速で接近したのだ。
「剛腕!」
「ハ、ハヤ――ゴホォッ!グアアァァァ!」
超加速の前では重力などなんの意味も成さず、突然目の前に現れたことに瞠目するフリー。
俺はそんな奴にお構いなく、両腕を剛腕によって強化させた連打を浴びせた。
装甲が薄くなっていることが仇となり、フリーは俺の拳を受ける度に悲痛な叫び声を上げる。
「まだまだぁ!鞭打!」
剛腕により無防備を晒すフリー目掛け、俺は強靭な尻尾で打撃を加える鞭打を放つ。
下から打ち上げる様に打ったので、フリーは上空へと舞った。
「もういっちょ……、辻斬!」
「グオォ……!」
俺は上空へ打ち上がり距離の空いたフリー目掛け、遠距離技の辻斬を放つ。
エミヨンの両腕を容易く切断したその威力は圧倒的で、岩石に包まれた体にも深い傷が次々と彫られていく。
「もう少しだな……、突撃!」
俺の畳み掛ける連撃によって、フリーの装甲はもうボロボロであった。
あと少しで全てを剥がし終わると確信した俺は、更に追撃を加える。
「ゴ、ハッ……」
グラス達を初めとした突進能力に特化した魔獣達と融合し、足と頭を強化させた突撃によりフリーの体を打ち砕く。
そのまま俺は奴を押し退け、上空へと上がると翼を広げ滞空する。
そして打ち上げたフリーを見てみると、度重なる攻撃を全て受け、奴は遂にそのゴーレムの体が剥がれ落ち本来の姿を露わにしていたのだった。
「う、うそだ……、俺の、僕の、魔法が解けるなんて……!」
「やっぱ本体は中に居たか。不完全な融合だな」
途中から薄々気づいてはいたが、フリーはゴーレムと融合したなではなく、ゴーレムの体内に入り込みその体を操っていただけだった。
つまりは巨大ロボットを操縦していたような感覚だろう。
「ぐ、くほっ、こんな、馬鹿な……。こんなヘンテコな奴に……!」
無防備になり地面に落下したフリーは、血反吐を吐きボロボロになって口調も元に戻りながら、まだそんなことをのたまっていた。
ヘンテコとは失礼だな。ちょっと色んな姿に変身出来るだけじゃないか。
「もう止めろ。お前の負けだ」
「ぼ、僕は、まだ負けてない……。世界を支配するのはこの僕っす……!」
「そうか……」
もう意識を保つのも限界だろうに、それでも奴の性根は変わらない。
ここまできてそうだというのなら、もう奴はどこまで行っても変わらないのだろう。
ならば、このまま捕虜にしてもいずれこの国の脅威となるのは明白。
ここで息の根を止めておくべきだ。
「お前はここで死んでもらう」
「ふん、偉そうに……」
「せめてもの手向けに、俺の全力をもって散らしてやる……、殲滅爪!」
「っ――!」
モンスターボックスにいる全ての魔獣の力を爪に集約した最大最強の技。
それをクウとリツの力で光以上の速さで突き出す、必中奥義だ。
これを練習で海に放った時は、深度数万kmはある海がそこまで貫通し、更に巨大な谷を生み出すほどの威力を誇った。
今回はフリーを貫通したところで寸止めしたため、大地は砕かずに済んだが、それでもその衝撃波は周囲に竜巻の如く襲う。
「……これで終わりだ」
殲滅爪をまともに受けたフリーは、塵1つ残さず消滅した。
これで今度こそ完全に、帝国を支配しようとする反勢力の殲滅は完了である。
「また……、命を奪ったか……」
だが、俺は人を殺してしまったという行為に、恐怖が押し寄せてくる。
今日だけで俺は何人も殺めてしまっまたのだから。もう元の生活には戻れない。
元の世界にも。
「凄い……、あれが、灯様の力なのか……」
「魔獣をあんなに従えるなんて……」
「まさに魔獣を統べる王だ」
「魔獣の王様、魔王だ……」
「魔王様……。そうだ、灯様こそ我らを導いて下さる魔王様だ!」
「魔王!」「魔王!」「魔王!」「魔王!」「魔王!」「魔王!」「魔王!」「魔王!」「魔王!」「魔王!」「魔王!」「魔王!」――
「魔王?おいおい、勘弁してくれよ……」
俺が1人心病んでいると、なぜか戦いを見ていた獣人族達が突然の魔王コールをし始めた。
こっちは1人悩んでいるといたというのに、そんな悪の権化の様な称号を叫ばないでほしいものだ。
「はっはっは!魔王だとよ。大将にぴったりじょねーか」
「うむ、竜王とは違い殿は魔獣全てを従える器の持ち主であるからな。まさに名案ぜよ!」
「うん、似合ってる」
「お前らまで、冗談だろ?」
俺の嘆きとは裏腹に、魔人達は魔王という名に皆賛成であった。
そういや竜王も竜を支配してたから竜王なんだっけな。だとしたら俺も合ってるのか。
いや、それならせめて魔獣王とかにしてほしい。魔王だとさすがに印象が良くないだろ。
「いいんじゃないか?魔王、灯に良く当てはまってる」
「ゼクシリアもか、魔王なんて俺のいた世界じゃ悪役の代名詞なんだぞ?」
「そうなのか?だが、この世界には魔王なんて存在しないから、イメージなんかいくらでも変えられるさ。ほら、皆も慕って呼んでるぞ」
ゼクシリアの示す先には、相変わらず魔王コールをやめる気のない獣人族達の姿がある。
彼らは皆一様に幸せ、歓喜、嬉しさに溢れた表情をしていた。
この世界に魔王という存在が居ないのなら、確かにこのままいけば良いイメージの魔王にはなれそうだ。
「だが、俺に王の器なんかあるのか?」
『それなら心配いりませんよ。モンスタークラウンを使いこなしている時点で、灯には王たる器が備わっているという証明なのですから』
「ああ、そういやそんな話だったな」
一応器岩石無いとかで反論しようとしたが、逃げ道はリツに塞がれてしまった。
「諦めろ、もう獣人族の皆はお前を王として認めている」
「はぁ……、分かったよ。もう魔王でもなんでもいいや」
結局反論の余地はなく、俺は自分が魔王であることを認めることにした。
フリーらを殺したという事実は俺の心に楔として一生残るだろうが、それでも皆の喜び顔や明るさに気を紛らわされたのも事実だしな。
「ほら、とっとと勝どきを上げろよ、魔王様」
ゼクシリアは、イタズラっぽい笑みを浮かべながら俺の背中を押してくる。
「わーってるよ。スーッ……、脅威は全て去った!俺達の勝利だ!」
「「「おおぉぉぉぉー!」」」
ゼクシリアに押され前に出た俺は、皆の方へ顔を向け思いっきり息を吸ってそう叫んだ。
獣人族達も俺の勝どきに合わせて、盛大に勝利の雄叫びを上げる。
こうして、帝国を乗っ取ろうと企んでいた勢力を全て撃退し、俺は魔王となって獣人族や帝国を救ったのだった。
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