7章 32. 脳筋で攻める

 ゴーレムとなったフリーは、その力を駆使して暴れ回っている。


 無差別な攻撃は避難を続けている獣人族にまで及んでおり、今はシンリーとシーラが防いでいるが被害が出るのも時間の問題だろう。


 それを食い止めようとドロシー、ガンマ、カイジン、ゼクシリアの4人も奮闘しているが、フリーのガードは硬くなかなか突破出来ずにいた。




「ここからなら、あいつの重力の影響は受けない。きつい1発をお見舞するぞ!」




『クウ!(うん!)』




 現在隕石群を防ぐ為上空に出ていた俺は、フリーの真上を滞空している。


 ここから真っ逆さまに滑空すれば、奴は重力で防ぐことも出来ないだろう。




「砕け散れ……、剛腕!」




 俺は片腕を強靭かつ筋力増強させ、巨大化させた片腕と共に全速力で降下する。


 フリーも途中で俺の存在に気付き横へ逃げようとしたが、十分に加速した今から避けるのはもう無意味だ。




「ヌオオォォ……!」




「はああぁぁぁぁあ!」




 避けるのは無理だと判断したフリーは頭上で腕をクロスさせて防ごうとするが、滑空と重力によって加速された俺の拳を止めるのは至難の業。


 メキメキと音を立てて、次第にフリーの岩石腕に亀裂が走っていく。




 そして、遂に俺が剛腕を振り抜いた瞬間、奴の両腕は粉々に粉砕した。


 だがここで止まってはダメだ。それだと先程ゼクシリアが四肢を破壊した時と同様すぐに再生されてしまう。


 ここから更に追撃の一手を。




「まだまだいくぞ!捕縛!」




 俺は空いた左手から無数の捕縛糸を噴射し、地面に崩れ落ちた腕の残骸を縛って固める。


 これでもう再生にあの岩を使うのは不可能な筈だ。




「ソレデウデヲフウジタツモリカ!」




 だがその程度ではフリーが止まることはなく、無くなった両腕を振って俺に重力魔法を浴びせてくる。


 その衝撃にたまらず俺は後方へ飛び退いた。




「ちっ、もう少し追撃を加えたかったんだがな」




「いや十分だ。仮にあれでまだ再生するとしても、その間は攻めに移れる」




「そういうことだな、ナイスだぜ大将」




 俺がそう悔しさを口にしていると、ゼクシリアとガンマはフォローしながら俺の横にやって来る。


 確かに今は彼らの言う通り攻め続けることが重要だ。




「しかしあやつの展開する重き壁は厄介ぜよ。どう突破するのだ?」




「そんなもん決まってんだろ。力づくだよ」




 重力を克服するということはすなわち、星の力に逆らうということだ。


 そんな能力を持つ仲間は俺の中にはいないし、魔人達にも不可能。




 だが俺の魔獣達なら、力に対し力で対抗することなら可能だ。


 だから奴に対抗出来るのは、現状俺だけということになる。




「相変わらず無茶苦茶な発想だな」




「まぁな、でもこれは俺にしか出来ないことだ。だからここは俺に任せてくれ」




「ご主人様頑張って」




「あいよ!」




 仲間達の期待を一心に背負った俺は、両腕を無くしてもがいているフリー目指して飛翔する。




『灯、力づくとは言いますが何か策はあるのですか?』




「重力の前ではどんな策を講じても無駄だ。今回ばかりは脳筋で攻める!」




『不安は残りますが、ここは灯を信じることにしましょう』




「おう、だから皆も協力してくれよ」




 リツは俺の作戦に少々の不安を零すが、フリーを相手にいくら対策を考えても現状全て有効打では無い。


 それを理解しているのか、リツも渋々ながら納得してくれた。




「うぐっ、来たな重力。まずはこいつを振り切れるだけの速さが必要か……、加速!」




 フリーの重力場に入った俺は、この体にまとわりつく重りの様な空間を突破する為、イビルやライチを初めとした速さに自信のある魔獣と融合する。


 それによって超加速した俺は、その飛行能力で重力場を無理やり振り切った。




「ナリフリカマワズトイウコトカ。ナラバソノミニ、ワガチカラヲアジアワセテクレル!グラビティショック!」




「うおっ!」




 真正面から突撃する俺に対し、フリーは新たな重力魔法を発動させる。


 これまでは上から下へ押し潰す様な攻撃が主体であったが、今の攻撃は真横に対する重力であった。


 幅はそこまで広くないためどうにか回避出来たが、まさか真横に対しても重力を放てるとは厄介だな。




「マダマダコンナモノデオワリデハナイゾ!」




「うっ、くそっ!これじゃ、近づけねぇ……!」




 フリーは横方向への重力を次々と連射してくる。


 近づくほどにその密度は増加するが、その攻撃は重力ということもあり目で追うのは難しく、一定の距離から先に進めなくなってしまった。




『灯、ここは我の力を使うが良い』




「イル?そうか、お前の目ならあの重力波も見切れるか!」




 イルの目は複眼になっており、多彩な角度から情景を観察することが出来る。


 その目があれば、重力による微かな変化も見逃すことなく、攻撃範囲を正確に捉えることが可能になるということだ。




「おおっ、見える!これならいくらでも避けられるぜ!」




『ふっ、我が力存分に発揮させてもらおう』




 イルの複眼によって気流や地表の微細な変化を見逃さず、そこから重力波を正確に読み取って回避する。




 これで避けることに関してはもう心配はいらない。


 後はどうやってあのゴーレムを倒すかだけだ。




「前戦った時はどうやって倒したっけな……」




 俺はフリーの放つ重力波を回避しながら、過去の戦闘を思い返した。


 元の世界で最初に戦った時は自信の拳で自爆してもらったが、そういう物理攻撃が効かないことはもう分かっている。




 後はクウが攫われた時にマイラと戦った時か。


 あの時は俺が隙を作って、その間に毒で溶かしたんだったな。


 今回もそれならいけそうな気がする。




「毒ならマイラの他にも強力なのを持ってる奴が沢山いるからな。いくぞ……、溶解!」




 迷いの森やその他の場所で毒持ちの魔獣を多数仲間にした俺は、それらを全てかき集めた合成毒を左手に構える。


 こういうのは混ぜるな危険みたいなものが多いが、奴を倒すには危険なくらいが丁度いい。




 俺はフリーの攻撃を掻い潜って射程範囲まで入ると、左手を構えて毒を噴射する。




「溶けて無くなれ!」




「ウガアァァァア!」




 俺の毒をまともに受けたフリーは、体から白い煙を上げながらドロドロと崩れていく。


 だがこれでもまだ威力は足らなかったらしく、完全に溶かしきるには至らなかった。




「グウウゥゥ、ウットウシイコバエガ……!」




「しぶとい奴だな」




「ソロソロホンキデセメルトシヨウ。グラビティホーミング!」




 毒をくらってもフリーはまだ倒れることはなく、しぶとく攻撃を仕掛けてくる。


 周囲に岩石を浮かび上がらせて、それらを俺に向けてぶつける算段だろう。


 だが、そんな稚拙な攻撃が今更俺に当たるものか。




「そんな岩今更当たるものかよ!」




「ソレハ、ドウカナ……?」




「はっ、何を言って――あ?体が、動か、ねぇ……!?」




 岩石を避けようとした瞬間、自分の体が動かないことに気がついく。


 自由を奪われどうにかしようともがくが、それでもどうにも出来ずその隙に重力で加速させた岩石をモロに受けてしまった。




「が、はっ……!」




「フハハハ!イイキミダナ!」




 フリーの攻撃は1発だけには留まらず、その後も何度も岩石を俺に向けて衝突させてくる。


 その度に俺は、意識が吹っ飛びそうな程のダメージを受けるがどうにか堪えた。




 やがて俺が地面に倒れ込んだ時、ようやくフリーの攻撃は一旦止まる。




「そ、そうか、その攻撃は岩石に重力纏わせるのではなく、事前に重力で作った軌道上に岩石を通過させたのか……」




「ヨクキヅイタナ」




「へっ、だから俺の体も一緒に動かなくなったて訳ね……」




 フリーの攻撃は俺にぶつけるよう重力で軌道を描き、その上に岩石を通過させる手法だ。


 それ故に俺は体の自由を封じられたという訳である。




「イイカゲンアキラメタラドウダ?ラクニナレルゾ」




「やなこった。こんな程度の攻撃で、へこたれてられるかよ……」




 俺は痛む体を抑えながらもどうにか立ち上がる。


 フリーとの決戦は、劣勢へともつれ込んでいった。


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