7章 18. 帝国の王子と獣人族の長
ナーシサス諸島に集う10人の長達。誰も彼も1種族を率いるトップということもあり、鋭い眼光と気迫を合わせ持っていた。
こういうトップの集まる場というのはこれまで経験してきたことがなかったので、場違い感が凄くて居心地が悪すぎる。
「んじゃ次はこっちの番だな。まず俺は皆知っての通り溶岩の魔人だ。今はガンマって名前を使ってる」
ガンマだけはここの全員と知り合いなので、軽い感じで口火を切った。
長達も彼のことは当然顔馴染みなので、会釈して応える。
「泥の魔人、ドロシー」
「私は森の魔人のシンリーよ」
「海の魔人、シーラです。よろしくお願いしますわ」
「カイジンだ、あしは空の魔人ぜよ」
そしてガンマに続くように4人の魔人も名を名乗って行く。
彼らに関しては初見の長達も結構いるはずだが、魔人という肩書きのお陰か実力も知れており、すんなりと受け入れてもらえた。
やはり問題は俺やゼクシリア達人間だな。
獣人族にとっては憎むべき対象だろうし、ジェイやガロン、ゲドから多少は話を聞いてるとは思うが、それでも簡単にはいかないだろう。
「で、そっちの人間が我らが大将の灯だ。皆もうジェイ達から話は聞いてるだろ?」
「はい、存じております」
「先日ナーシサス諸島を救ってくださった方ですよね?その説はどうもありがとうございました」
この前帝国の貴族ディボーンが攻めてきた時に戦ったことに関して、蛇人族の長は頷き狐人族の長はお礼を行ってくる。
俺もそれに返すように軽く頭を下げた。
「ふん、人間なんぞに力を借りるなんて情けねぇな……」
「おい、やめろよお前。彼は先日も帝国に乗り込んで獣人族を救い出してくれたんだぞ」
「そんなもんどうせ魔人様方の後ろについてただけだろうが。俺は人間なんか信じねぇぜ!」
猫人族の長アッシは俺のことが気に入らないらしく、1人腕組みをして悪態ついていた。
黄色い体毛のきん肉がごつごつとした虎柄の男である。
そんな彼を窘めているのは熊人族の長だが、残念ながら彼の話を聞く気はさらさら無いようだ。
「何あいつ、ダーリンのこと馬鹿にしてるの?」
「抑えろよシンリー、俺は気にしてないから」
「もう……、ダーリンがそう言うなら仕方ないわね……」
横に座っていたシンリーはアッシの態度にご立腹であった。
怒ってくれるのは嬉しいが、ここで喧嘩をしても仕方ないので頭を撫でて宥めておく。
「アッシ、お前が人を信じられないのは仕方ないが大将は実力でこれまで全てこなしてきた。そのことは理解しておけよ」
「……分かったよ、リーダーがそう言うなら一応認めてやる」
さすがガンマは獣人族と暮らしてきただけあり、あれだけ頑固な態度だったアッシも彼の一言で渋々俺のことを認めてくれた。
他に何か言いたいことがある人はいないようだし、ひとまずは上手くいったようだ。
「さて、後はそっちの連中だが、ここからは少し話が長くなるから何か言いたい奴は最後まで聞いてから言えよ?」
ガンマは最後にゼクシリア達の紹介をする前にそう前置きをした。
確かにいきなり彼らは皇帝の息子達だなんて紹介したら、襲われても文句は言えないだろう。
だからガンマは彼らを紹介するのと同時に帝国での経緯も一緒に語りだした。
一つ一つ丁寧に説明することで、長達に理解してもらおうというのだ。
そうして全てを話し終えた後、場には静寂が訪れる。
皆ガンマから聞いた話を頭の中で吟味しているようだ。
だが、その静寂はすぐに失われることとなる。
「リーダーの話は分かったが、それでも俺はやっぱり帝国の人間は許せねぇ!お前達がいるせいで俺達の家族は引き裂かれたんだぞ!」
最初に声を発したのは、先程と同じくアッシであった。彼は同族思いであるが故に、仲間を連れ去った帝国が憎くて仕方ないのだろう。
「そいつら私の仲間の命奪った。許せない」
「うぅーむ、リーダーには悪いがこれにはわしも2人と同意見じゃな……」
そして今回はそんなアッシに賛同するように、鳥人族の長モランとガロンが続く。
ガンマの説得のおかげでいきなり襲われるなんてことは避けられたが、それでもやはり上手くはいかなかった。
「……」
ゼクシリアはそんな彼らの意見を黙って受けている。
双子の姉達は、長達の剣幕に怯えるメルフィナの背中を撫でて落ち着かさていた。
これは彼女達だけでも退室させるべきか。
「お前達皇帝の息子ってことは将来は皇帝の候補なんだろ?俺達に悪いという気持ちが少しでもあるなら、今すぐ腹切って詫び入れろや」
「お、おい!それはやりすぎ――」
「灯、大丈夫だ。私達のことは私達で話すさ」
アッシの物騒なもの言いにさすがに黙っていられなくなった俺は立ち上がって抗議しようとしたが、それはゼクシリアによって止められた。
ゼクシリアは長達を真っ直ぐ見据えると、1度深呼吸をしてからゆっくりと口を開く。
「そなたらの意見はよく分かった。俺の命が欲しいのなら好きにすればいいさ。だが、そんなことをしても現状は何も変わらないぞ?」
「何……?」
「今帝国は反皇帝派によって乗っ取られている。だから私が死んでも喜ぶのは奴らだけだ。そしてその反皇帝派の者達こそがそなたら獣人族を誘拐し兵士として奴隷に仕立てあげた張本人なのだよ」
ゼクシリアは帝国の現状と主犯を話し、自分の命に価値はないと語る。
獣人族はその話をただ静かに聞いていた。
「だが、お前達が死ねば少なからず俺達の気は晴れるだろうが」
「それでは現実は何も変わらないだろ。私が生きていればそならたと協力し攫われた獣人族を救うと誓う。だから私達と手を組んではもらえないだろうか」
「ぐっ……!」
確かにアッシの言う通り憎いやつに復讐すれば気は晴れるだろう。
だが、それは一時のものに過ぎないし何より本当に復讐すべき敵は他にいる。
それを知った時にゼクシリアが死んでいたら後悔するのは自分達だ。
だからゼクシリアは必死に彼らに訴えかけていた。
「……分かった。君達も味方として扱わせてもらおう」
そんなゼクシリアは訴えが通じたのか、ジェイはとうとう彼らのことを認めてくれた。
「おいジェイ!何勝手に決めてんだ!」
「お前も本当は分かってるんだろ、彼らは俺達の真の敵ではないと」
「そ、それは……」
「それにリーダーや灯様は彼らと共に戦っているとも聞いた。なら、私も彼らのことを信じようと思う」
反発してくるアッシに対し諭すように説き伏せることで、ようやく彼も心を開きだした。
「すまないな、そなたらのためにも私達も全力で獣人族を解放するため尽力する」
「ああ、本当に頼むぞ」
ゼクシリアも彼らに協力すると改めて誓い、アッシは渋々といった様子で頷く。
ともかくこうしてどうにかゼクシリア達帝家の皆は獣人族の長達に認めてもらえることとなった。
ここに帝国の王子と獣人族の長が手を結んだのである。
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