7章 17. シンリーまた酔ったのですか?

 世界の創造を完了させた俺達は、いよいよ帝国を支配するエミヨンを倒すべく、乗り込むための準備を進めていた。




「お前達、偵察は任せたぞ」




「「「ブーン、ブーン」」」




 帝国軍との戦いに先んじて、俺は迷いの森に行った時に仲間にした小さな虫達を偵察に向かわせた。


 モンスタークラウンのお陰で魔道具の能力が強化された今の俺は、指輪と耳飾りを掛け合わせることで遠距離にいる魔獣とも言葉を交わすことが可能になっている。


 今回はその力を使って、帝国全土の情報網を得ようという作戦だ。




「おい大将、そろそろ行くぞー」




「あいよー」




 虫達に指示を出しているともう皆も準備は完了したらしく、ガンマに呼ばれた。


 もうすぐ帝国と戦う俺達ではあるが、その前にまず獣人族の島々へ拠る。


 彼らにも帝国での出来事を伝える必要があるのと、帝国に乗り込む際は力を貸してもらう必要があるためだ。




「島へ帰るのはしばらくぶりだぜ」




「ああ、イナリからはこの前救出した獣人族は皆きっちり送り届けたって聞いてるから、また賑やかになってるんだろうなぁ」




「ははっ!違いねぇな」




 ガンマは魔人の中では1番獣人族と仲がいいので、久しぶりに帰れるから嬉しそうである。




「それじゃあイナリ、獣人族の島まで頼むぞ!」




「ボアアァ!(あいよ!)」




 こうして俺達はイナリに運ばれて、族長達のいるナーシサス諸島の中心島へと向かうのであった。




























 ――




























「ボアツ!(おらよ、着いたぜ!)」




 イナリに運ばれて数十分が経過し、俺達は懐かしの獣人族の島へと帰ってきた。




「サンキューイナリ、いつも悪いな」




「ボアァァ!(いいってことよ!)」




 俺はここまで運んでくれたイナリに礼を言うと、モンスターボックスに戻ってもらう。




「うぅ、き、気持ち悪い……」




「あらあら、シンリーまた酔ったのですか?」




「うん、最悪……」




 相変わらず船酔いに耐性のないシンリーは、死にそうな顔をしている。


 移動したのは1時間にも満たないが、それでも弱い人は本当にダメなんだろうな。




「ちょっと待って下さいねシンリーさん、私回復系の魔法が得意なんで……、ヒールライト!」




「あ、あれ?なんかだんだん楽になってきたわ」




 船酔いのことを考えていると、双子姉妹のお姉さんの方のセルフィナさんが回復系の魔法を使ってくれた。


 彼女の手から柔らかい温かみのある炎が照らされ、それによってシンリーを襲っている酔の元が浄化されているようだよ


 お陰でシンリーの表情はみるみる良くなっていく。




「ふぅ、これでだいぶ楽になったと思いますよ」




「ほんと!あなた凄いわね、助かったわ!」




 すっかり元気になったシンリーは、満面の笑みでセルフィナさんに駆け寄ってお礼を言っていた。


 幼い姿のシンリーが可愛らしいのか、セルフィナさんはほんのり赤く頬を染めて嬉しそうにしている。




「ありがとうございますセルフィナさん」




「いいのよこれくらい、灯君達には色々と手助けしてもらってるんだから」




 俺からもお礼を言い、元気になったシンリーを先頭に一同は獣人族の集う集会場を目指す。




「なぁ灯、今更気づいたんだが帝国の人間である私達がここに居たら、彼らに恨まれるんじゃないか?」




「あーやべ、そっちのことは考えてなかったわ……」




 ゼクシリア達は獣人族を苦しめてきた国のトップの家族だ。


 帝家の人達は獣人族を蔑ろに扱うようなことはしてきてはいないが、それでも事情を知らない獣人族からしてみれば帝国の人間は全員敵。


 王子や王女だと明かした途端襲われるなんてことも十分ありえる。




 まさかここに来るまでそんなことにまで頭が回らなかったとは、俺もだいぶ疲れてるのかもしれない。




「おい……、大丈夫なんだろうな?私や姉さん達は心配ないだろうがメルフィナに何かあったらさすがに看過できんぞ」




「その辺は心配すんな。俺からあんたらは俺達の敵じゃないって言っておくからよ」




「おぉ、さすが顔が利くだけあって頼りになるぜ!」




「すまない、恩に着る」




 どうしようか悩んでいたが、その件はガンマがどうにかしてくれるらしい。


 正直俺の手に負えるか不安であったので、この申し出は非常に助かる。




「あっ、見えてきたわよー!」




「もう着いたか」




 なんてそんな話をしていると、あっという間に俺達は集会場までやって来ていた。


 入口の前では見張りらしき獣人族が2人いて、こちらの存在に気づき片方が慌てた様子で中に駆け込んでいく。


 恐らく族長あたりにでも伝えに行ったのだろう。




 で、もう一方の残った方がこちらに駆けてきた。




「リーダー!それに他の魔人の方々や灯様もお帰りなさいませ!」




 垂れ長の犬耳をした犬人族と思われる男性は、ガンマが帰ってきたことにえらく興奮している様子だった。




「久しぶりだな。族長達は中にいるか?」




「はい!今皆様のご帰還を相方が伝えに向かってるところですのでもう少し待っていただければ――」




「いや、それならこっちから向かうよ。どうせ話は中でするんだしな」




 もう1人の見張りが族長達を呼びに行ってるらしいが、それを待っていては時間がもったいないのでこちらから向かうことにした。


 正直そっちの方が効率的だしな。




「で、ではこちらに!ご案内致しますので……!」




「無理言って悪いな」




 彼は緊張した声音ながらも俺達を先導してくれる。


 向こうにも対応の仕方があるだろうに、少し申し訳ないことをしてしまったか。




 そんなことを思いながら見張りの彼に連れられて、俺達はいつもの会議室へとやってきた。




「おぉ!魔人様方に灯様、よくぞかえられましたな!お出迎えも出来ずに申し訳ないです……」




 中へ入ると、こちらに気づいた兎人族の族長であるジェイが俺達の帰りを喜び歓迎しつつも、出迎えられなかったことを謝罪してくる。




「そういう挨拶はいいからとっとと話に移るぞ。報告することが結構あんだからよ」




「うむ、了解ですじゃ。そういうことなら皆の者ひとまずは席に着いて頂こう」




 あまり時間に余裕はないのは事実なので、ガンマの言葉を受けて犬人族の族長であるジェイが指揮をとり全員着席する。


 するとその中には、以前この島にいた時は見たことの無い種族の人達が何人か増えていることに気がついた。




「さてと、取り敢えず報告したいことは沢山あるけど、お互い知らない顔が増えてるし、まずは自己紹介からにしようか」




「了解だ、ではこちらから行かせてもらおう。まず私が兎人族の長ジェイだ。そして右から順に犬人族の長ガロン、猫人族の長アッシ、熊人族の長クロゼ、魚人族の長ゲド、狐人族の長キーナ、鳥人族の長モラン、蛇人族の長アナダ、狸人族の長テトラ、馬人族の長ロット。以上の10名が現在ナーシサス諸島の各島を束ねるもの達だ。そして私が各長達の代表も務めている」




 俺の知ってる族長はジェイ、ガロン、ゲドの3人なので他の長達は全員初見だ。


 諸島と言うからには種族もそれなりに多いのだろうとは思っていたが、想像以上に人数が多くてビックリしている。


 中には全く見たことの無い種族の獣人族の方々もいるので、なんだか新鮮味があるな。




 ともかく向こうの紹介が終わったので、今度はこちらが自己紹介をする番だ。


 ゼクシリア達の紹介はガンマがやってくれるって言ってたけど、ここで喧嘩なんてしたくもないから上手くやって欲しい。




 と、そんなことを願いながら獣人族達との会議は始まった。


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