7章 16. ピンク色のアクシデント

 クウ、リツの力で新たな世界を切り開き、魔人5人の力をもって俺達は世界の創造を完了させた。


 幾年の時を経て、ここに竜王の野望は達成されたのである。




「クウー!(わぁー!広―い!)」




「ガウガウ!(暖かいなー)」




「ピィー(空も心地良いですねー)」




 現在は完成させた世界をお披露目という意味も込めて、一足早く魔獣達には楽しんでもらっている。


 クウとマイラは昔と変わらず仲良さげに草原を駆け回っており、ライチも空の澄んだ空気を浴びながら空を気持ちよさそうに飛んでいた。




 その他の魔獣達も新しい環境に興味津々といった様子で、自分の好みの環境を探して駆け回っている。


 こうして皆の楽しんでいる姿を見ていると、やって良かったなと心からそう思えてきた。




「ふふっ、ここまで上手くいくとは正直思っていなかったので驚きですよ」




「なんだよ、あんたが一番望んでたってのに実は信じてなかったのか?」




「ごめんなさい、でも嬉しくてつい」




 リツは創造された世界とそこを駆け回る魔獣達を眺め、どこか遠くを見るように達観した顔をしていた。


 彼女は竜王のことを心の底から慕っていたから、愛する人の願いを叶えられて今の感情をどう表せばいいのか分からないみたいだ。




「灯、喜んでるとこ悪ぃーが俺は獣人族達のことも心配だ。ぞろぞろ向こうに戻らねぇか?」




「おっと、そうだったな。俺達にはまだやることがあるんだ。皆、一旦あっちの世界に戻るぞ!」




 世界を創造出来た達成感にのぼせていると、ガンマに声を掛けられ我に返った俺は皆を呼び戻した。


 この後俺達は帝国に囚われている獣人族を救い出し、この世界にまで導かなければならないのだ。


 まだまだのんびりしていられる時間は無い。




「よし、これで全員揃ったな。それじゃあクウ、リツ、もうひと頑張り頼むぞ!」




『クアッ!(うん!)』




『了解です』




 俺は魔獣達をもう一度モンスターボックスに戻すと、クウ、リツと融合し世界を渡るワープホールを開く。


 最初に開けた時は未知の世界だった為困難であったが、2回目ともなると道が安定してきたようでだいぶ楽になっている。




 俺は世界の扉を繋ぐと、魔人達を引き連れて元の世界へと帰還を果たす。




「おぉ!帰って来たか!」




「っ!灯様帰ってこられたのですか!?」




 竜の島に帰ると、最初にいた場所にはゼクシリア達はまだ残っており、すぐその存在に気づいた。


 メルフィナも王子の声に反応して心配そうに辺りを見渡している。




「おう、皆ただいま!」




「灯様……!お帰りなさいませ」




 メルフィナの不安を払拭する意味も込めて俺が元気に声を上げると、彼女は目に涙を浮かべながら寄ってくる。


 俺はそんなメルフィナの肩にそっと手を置いて、もう一度声を掛けた。




「ただいまメルフィナ、心配かけたな」




「いえ、いいんです。灯様や皆様が無事でしたなら私はそれで満足ですから」




 そう言葉を交わした俺とメルフィナは、その後少しの間ただ無言で見つめ合う時間が続いく。


 彼女の目は見えていないだろうが、それでも俺はメルフィナと心から繋がっているという実感があった。




「あれあれー?なんだかあの2人良い感じじゃない?」




「ほんとね、メルフィナはずっと城に篭っていたから少し心配だったけど、いい人に出会えて良かったわねー」




「あ、やっぱりお2人もそう思います?私もいつも目の前であんな感じのを見せられていつもキュンキュンしてたんですよー!」




「馴れ馴れしいですよステラ!」




 そんな俺達の雰囲気を見てか、双子の姉達や付き人のステラさん達の間は何やら盛り上がっていた。


 へレーナさんだけは失礼な態度を取っているステラさんを咎めていたが、その視線はチラチラと俺達を見ては頬を染めあからさまに意識している。




 そういう反応はこれまでされたことが無かったから、正直どうしていいのか対応に困るな。


 取り敢えず恥ずかしいからもう離れようか。




「ちょっと!何勝手に私のダーリンと良い雰囲気になってるのよ!」




 しかしメルフィナと少し距離を取ろうとしたその瞬間、後ろにいたシンリーが嫉妬してか俺の背に勢い良く飛び掛ってきたのだ。




「うわっ!ちょ、シンリー急に何すんだよ!?」




「わわっ!あ、灯様、そんないきなりはダメですよ……!」




 突然のことで俺は反応することも出来ず、シンリーに抱きつかれた勢いのままメルフィナに倒れかかってしまった。


 そしてか弱いメルフィナでは俺とシンリーの体重を支えることも出来ず、気づいた時には俺は彼女を押し倒しているような体勢となっていたのだ。




「「……!」」




 突然のことに俺とメルフィナにはまたも無言で見つめ合う時間が訪れる。


 今度はお互い恥ずかしさからか、頬を真っ赤に染めていた。


 距離が物凄く近いせいか、メルフィナの美しくも可愛らしさのある顔や儚げな瞳に、俺の心臓の鼓動は加速していた。




「あー!何してるのダーリン!?そんなの私ともしたこと無いのにー!」




 何してるって、これ全部お前のせいだろうが!




「きゃー!灯君だいたーん!」




「あらあら、これは責任を取ってもらわないといけないわねー」




「いいぞ灯君―!そのままキース!キース!」




「ああ……、な、なんて格好を、はわわわ……!」




 立て続けに起こる出来事に外野の興奮は最高潮に達していた。とうとうブレーキ役のへレーナさんまで混じってしまったのだから相当だろう。


 後ステラさん、あんただけは後でじっくり話し合いさせてもらうからな。




「おい、なんだよこの茶番は……」




「わたくしはこういうの結構好きですわよ?後でじっくりいじってあげないとですわね」




「殿を辱めるのは許さんぞシーラ!しかし、あれが殿の想い人か、なかなかのべっぴんさんぜよ」




「そんなことよりお腹空いた」




 俺、メルフィナ、シンリーの惨状にガンマは呆れ顔であった。


 シーラは何か企むような怖いことを言ってるし、それを咎めてくれるカイジンは嬉しいけど、別にメルフィナは想い人とかそういうのじゃないから!


 で、ドロシーさんは相変わらずマイペースでございますね!




「はぁ、いつまでやってるんだお前ら。その辺にしておけ」




「あ、ありがとうございます兄様……」




 いい加減見かねたのか、ゼクシリアは俺達の間に割って入りメルフィナを抱き起こしてあげだす。


 メルフィナはまだ少し照れが残っているようで、いつもよりも声がか細くなっていた。




「お前もだ森、いい加減大将から離れやがれ!」




「あー!まだダーリンに押し倒してもらってないのにー!」




 魔人組からもガンマが動いてくれて、俺の背にしがみついているシンリーを引き剥がしてくれた。


 それに連なって俺もようやく起き上がる。




「ふぅ、助かったよ2人とも」




「へへっ、良いってことよ」




「ああ。だが言っておくが灯、妹を泣かせたらただじゃおかないから覚悟しておけよ?」




「う、うす……」




 ゼクシリアは最後に釘を刺すようにそんなことを言ってくる。、


 その有無を言わさぬ修羅のような顔に、俺は肯定することしか出来なかった。


 俺は今まで恋人とかいたことないし、正直今もそういうのにはあまり興味はないつもりである。


 だが、残念ながらそれを言える雰囲気では無かった。




「で、世界は無事に出来たのか?その様子だと心配はいらなそうだが」




「あ、ああ、それならもうばっちりだぜ!」




 話を変えるようにゼクシリアにそう尋ねられて、俺はまだ報告もしていなかったことを思い出す。


 今はもう世界を創れたことよりもさっきのゼクシリアの表情の方が印象が強くなってしまい、随分と簡素な報告になってしまったが。




「そうか、ならいよいよこの次は帝国に向かうんだな」




「そうなるな」




「了解だ、ならばここからは我々帝家一同も参戦させてもらうぞ」




「もちろんだ、頼りにしてるぜゼクシリア!」




 さっきは少々甘ったるいピンク色のアクシデントが起きてしまったが、そんなのは頭の片隅に放り込み意識を切り替える。


 俺は差し伸べてくるゼクシリアの手を強く握り返し、互いに気を引き締め直し今一度覚悟を決めた。


 なにせどう取り繕おうとも、ここからは行うのは戦争なのだから。


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