7章 19.名前なんて何でもいい
ガンマや本人の説得もあり、ゼクシリア達はどうにか獣人族達に認めてもらえることとなった。
まだ完全に許してもらえたという訳ではないだろうが、それでも大きな一歩だと思う。
「発言よろしいですか?」
「キーナか、許可する」
そんな風に俺が安堵の溜息を零していると、狐人族の長が挙手してきた。
まだ何かゼクシリア達に言いたいことでもあるのだろうか。
「私はゼクシリアさんのことよりも、先程ちらっと話に出てきましたが新しい世界に移住するということの方が気になっていたのですが……」
「ああ、そっちね」
どうやらキーナが知りたかったのは、ゼクシリアのことではなく新しい世界の方だったようだ。
確かに突然そんな話が出てきては意味が分からないだろう。
「そのことに関しても俺から説明しよう」
そう言ってガンマは新しい世界に関する説明をし始めた。
長達はその話を黙って聞いていたが、正直ゼクシリア達のことよりもこっちの方が驚きは大きかった様に思う。
「世界を創造……、ほ、本当にそんなことが可能なのですか?」
「可能も何も、もう完成してるからな」
話を聞き終わってもまだ信じられずにいるキーナであったが、まぁこれは見てしまえば信じる他ないだろうし気にしないでおこう。
「それでその世界に我々を移住させようということなのですか……」
「そうだ。今回帝国の連中を倒せたとしても、いずれまた人間は俺達を襲ってくるはずだ。皆も自分の子孫にそんな思いさせたくないだろ?」
「ぬぅ、確かに、そうですな……」
「えぇ、私もこんな現状を孫子の代にまで残したくはないです……」
住み慣れた場所から、別の場所へ移住しなければならないことに最初は抵抗を示していた長達であったが、それでもガンマの言葉を聞いて次第に納得していく。
「すまないな、こんな逃げるような案しかなくて……」
「いや、これでいいんですじゃ。争えばそれだけ血は流れ死人は出る。なら、わしらは仲間を救出したら安住の地へ皆で引越す方が断然幸せな暮らしが出来ようて」
「そうだな、人に怯えずに暮らせる世界なんて夢のようじゃないか」
確かに俺達のやってることはこの世界から逃げているだけ。でもガロンとジェイはそんなことは一切気にせず、すでに今後の生活を思い描いていた。
「俺も魔人様方の創られた新しい世界は興味あるな。いつから行くんだ?」
「まずは帝国に捕らわれてる獣人族を救ってからだな。今俺の仲間の虫達が偵察に出てるから、早ければ2日後には攻め入ろうと思ってる」
世界の移住には乗り気なアッシは、いつ行くのかと楽しみにしている様子であった。
ただ虫達が帝国に着くのはまだ1日以上かかるし、そこから各地へ向かうのにも時間がかかる。
だからすべてだからまだ動くには時間があるのだ。
「ふむ、それならば新たな世界の名を決めてはどうかの?呼び名がないのはちと締まらんしな」
「おぉー、それいいじゃん!決めようぜ名前!」
ガロンのそんな提案にガンマは食いつく。
そういえば名前とか考えてなかったけど、そんなにテンション上がるものかね。
「いいわね、それなら私にも温めてたとつておきの案があるのよ!」
「あら、実はわたくしもちょっと考えていたのですわ」
「おぉ、奇遇だな。実はあしもぜよ!」
「お前ら……」
ガンマのテンションの上がりように驚いていたら、まさかのシンリー、シーラ、カイジンも同類で俺少し引いた。
ドロシーだけは何も言わないが、どうせあいつはお腹空いたとか考えてるんだろうしな。
「そういうことなら、俺は一旦退室させてもらうよ」
「なんだよ大将、ノリ悪ぃーな」
「あんま興味無いからな。俺は今のうちにラビア達に帰ってきた挨拶でもしてくるよ」
正直名前なんて何でもいいから好きに決めればいい。
時間も掛かりそうなので俺はガンマにそう告げると会議室を後にした。
すると、そんな俺の後を着いてくるように、他の何名かも会議室を出てくる。
あの世界とはあまり関わりのないゼクシリア達帝家の一行と、後は狐人族の長キーナだ。
「灯、以前この島に帝国の貴族が襲ってきたと聞いたが、そいつは今どこにいるか知ってるか?」
「あー、確かディボーンって名前のやつだっけか。あいつならまだ牢屋の中にいると思うぜ。獣人族を助ける際に人質にしようってことで捕らえておいたからな」
今となっては人質になんの価値があるのかは分からないがな。
「ディボーンだったか。そいつと少し話がしたいのだが会うことは可能か?」
「まぁ話すくらいなら問題ないかな。案内するよ」
「助かる」
そうして俺達はまず、ディボーンが捕らわれている牢へ向かうため会議室のある建物を出ていった。
――
ゼクシリア達を引き連れて、俺達はディボーンの捕らわれている牢屋へとやって来た。
牢屋の番をしている獣人族は俺のことを知っていたので、顔パスで通してくれる。
「ここがそうだよ。俺も残ってた方がいいか?」
「いや、ここからは私だけで大丈夫だ。しばらくの間身内わ任せていいか?」
「おっけー、お姫様達は俺に任せてのんびり話しといで」
「ああ、ではまた後ほど」
話はゼクシリアだけでいいらしい。まぁ内容によってはメルフィナに聞かせたくないこともあるのかもしれないからな。
牢屋にはゼクシリアだけを残し、俺達は牢屋を出ていく。
「灯様、この後はどちらへ向かわれるのですか?」
「そうだな、知り合いの獣人族に挨拶に行くつもりだけどその前に……、ここまで着いてきたってことは俺達に何か用でもあるのか?」
メルフィナ質問に答えつつ、俺はここまで一緒に来ていたキーナに話しかける。
狐人族の族長で金色の髪が美しい女性の彼女は、なぜかここまで俺達に着いてきていたのだ。
てっきり彼女も会議室から出るのが目的かと思っていたが、ここまで一緒に行動してくるということは、何か俺達に用があるのだろう。
「無礼な行為をお許し下さい灯様。実は灯様と少々お話を致したく行動を共にしていたのです」
「まぁそれはあんまり気にしてないけど、俺に話?」
着いてきたこと自体は正直どうでもよかったので、そこまできっちり謝ってもらわなくてもよかった気はする。
しかし俺に話とは一体何なのだろうか。
あの会議では魔人は当然のことながら持て囃されていたが、俺は空気みたいになってたからな。
話しかけられる理由はないと思うが。
「先日、灯様方は帝国から数千人の同胞を救い島へ送り返して下さいましたよね。私はどうしてもそのお礼を言いたくて話す機会を伺っていたのです。その節は本当にありがとうございました」
「あー、そのことね。お礼を言ってくれるのは嬉しいけど、助けたのは俺だけじゃないし皆にも伝えとくよ」
キーナは少し前にアディマンテらに捕らわれていた獣人族を解放したことに対して、お礼を言ってきてくれた。
ジェイ達知った中の獣人族からは会議の前に先んじて礼を言われていたが、まさか会ったこともない相手にも感謝されるとは思っておらず少し驚く。
彼女は随分と律儀な人らしい。
「はい、ですがその中には私の娘もおりましたので、どうしても直接ご挨拶したかったのです」
「そうだったのか。ごめん、あの時は夜だったし忙しかったしで誰が誰だか覚えてはいないんだ……」
獣人族を救出したときは、周囲は夜で真っ暗だったのと、何千人もいたこと、そして時間との勝負だったので気持ち的にも余裕がなかったこともあり、正直誰1人として顔を覚えてはいないのだ。
せっかくお礼を言いに来てくれたというのに申し訳ない。
「いえ、それは仕方のないことですので理解しております。それよりも娘も直接お礼を言いたいと申しておりまして、是非お会いしてはもらえませんでしょうか?」
「もちろん、全然構わないよ」
「ありがとうございます」
謝罪というわけではないが、俺は捕らわれていた獣人族達に向き合う必要があると思い彼女の申し出を受け入れた。
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