7章 13. 王国の魔獣全ては俺の胸の中
エキドナに案内されて、俺とガンマは彼女らの家である岩山の隙間へと入っていく。
ユドラ達の体格が大きいこともあり、内部はかなり広々とした空間が広がっていた。
「それで、あんたの旦那さんはどこにいるんだ?」
「今は食料調達で出てるけど、そろそろ帰ってくる頃よ」
エキドナの夫でマイラの父親、それがどんな魔獣かは知らないが以前聞いた話では、マイラが攫われた際単身で探し回っていたと言っていたな。
子ども達をだいぶ溺愛しているようだが、マイラ達を仲間にする為にはその父親の許可は必須。上手く説得出来るといいのだが。
「ガウガウ!(あっ、父さん帰って来たよ!)」
「俺も奴と会うのは久しぶりだな。大将、説得の方は任せたぜ」
「おう!」
家に入って間も無く、マイラ達の父親は帰還してきた。
ガンマも久しぶりに友に会えることを嬉しそうにしている。
「今帰ったぞー、ってんん?何やら別の気配があるな。客人か?」
姿を現したのは、黄金の鱗を全身に纏った巨大なヘビであった。ただし通常のヘビとは違い背からは巨大な翼、胸部付近からは前足が2本生えている。
そして、エキドナと同じくハッキリと言語を操っていたのだった。
「お帰りなさいあなた。今日はお客様がおいでですよ」
「ほう、この気配にその姿、やはりお前だったか魔人よ!」
「よう、久しぶりだなテュポン」
「懐かしいな!いつぶりだ?」
ガンマはマイラの父親をテュポンと呼び、親しそうに会話を繰り広げる。
やはりエキドナという名前を聞いた時から予想はしていたが、マイラ達の父親の名はテュポンであったか。
その辺も向こうの世界にある神話とほとんど同じだな。
「はっはっは!いや、実に懐かしい。で、そっちの人間は何者だ?」
「どうも初めまして、俺の名は竜胆 灯だ」
テュポンという存在について考えていると、ガンマとの再会も一段落しこっちに目が向いたので、俺は自己紹介する。
「灯……、ということは、お前が息子達を救ってくれたという人間か?」
「まぁ、一応は」
「そうかそうか!いやー、実に会いたかったぞ灯よ!よく来てくれた!」
エキドナやマイラ達から事前に俺の話は聞いていたらしく、テュポンは嬉しそうに俺の方に擦り寄って肩を叩いてくる。
言動や仕草といい、随分と気さくな魔獣の様だ。
「俺の名はテュポンだ!歓迎するぞ灯に魔人、ゆっくりしていくがいい!」
「えぇそうね、折角だからあなた達も一緒にご飯食べて行きなさいな」
「そりゃいいな!ご馳走になるぜ!」
「お、おいガンマ!はぁ……、それじゃあ甘えさせてもらおうかな」
エキドナの提案にガンマはあっさりと返事を返す。こうなってしまってはもう断れないと思い、俺も食事をご馳走になることとなった。
「で、お前達はここへ何しに来たんだ?その様子だと、ただ会いに来たってわけじゃなさそうだが」
「まぁ訳ありでな。大将、そっちの説明は任せるぜ」
「あいよ。で、俺達がここに来た理由だけど、実はあんた達一家の力を貸してほしいんだ」
ガンマに促されて、俺はこれまでの経緯と世界創造の計画を語った。
すでに知っているエキドナやマイラ達は黙ってその話を聞き、テュポンも真剣に俺の話に聞き入る。
そして全てを話終えると、テュポンはゆっくりと口を開いた。
「……悪いな、お前達に協力は出来ない」
「あなた……」
「ガウゥ!?(お父さんどうしてなの!?)」
テュポンの答えに、エキドナは小さくそう呟きマイラは酷く激高する。
ユドラはルベロも不安そうに互いに顔を見合っていた。
正直俺もこの答えには少し驚きである。
だが、そんな彼らを制する様に、テュポンはその大きな翼を広げた。
「落ち着けお前達、まだ話は終わっていない」
「ガウッ?(どういうこと?)」
「灯、俺は家族のことが第一だ。それ以外のことは全て二の次に考えている。だからお前の言う新しい世界では、我ら家族に危険を及ぼさせないと誓えるのなら、力を貸してやろう。どうだ?」
「当たり前だ、俺が新しい世界を創る目的は魔獣や獣人族が、安心して暮らせる世界を実現させるためなんだからな。当然マイラ達のことも守ってやるさ!」
テュポンの問い掛けに俺は即答する。人間に子どもを奪われ利用された経験のある彼にとって、安全は何より大切なもの。
だからこそ俺は堂々と胸を張って、テュポンにそう宣言した。
「……いい答えだ。ならば我ら一家も新世界創造の為に、灯に力を貸すことを誓おう!」
「ああ、これからよろしく頼むな」
テュポンと交渉成立した俺は、彼と硬い握手を交わした。と言ってもテュポンの手はデカすぎるので、彼の指を俺が握る形であるが。
「ガウゥッ!(また灯と一緒にいられるんだー!)」
「おわっ!ちょ、分かったから落ち着けって!」
マイラは嬉しさから俺に突っ込んでくるが、今のマイラの体格を俺は受け止めきれず派手に転ぶ。
体が成長してるんだから、昔みたいにされるといつか圧死しそうだな。
ともかくこうして、テュポン一家を仲間に引入れることに成功した俺達は、その後も砂漠地帯やその周辺の魔獣達を次々と仲間にして回るのだった。
――
ドロシー、シンリー、ガンマ、シーラ、カイジンの5人とそれぞれ王国を回って魔獣を仲間にしていった俺は、一度竜の島へと帰還した。
「皆さん、長旅ご苦労様でした。ソニックドラゴン達もしばらくは休んでいて下さい」
「「「キリイィィィ」」」
竜の島に降り立った俺達に、リツは労いの言葉をかけてくれる。
ソニックドラゴン達もひと鳴きすると、各々ねぐらへと帰っていった。ここまで運んでもらってありがとうな。
「それで灯、魔獣の方はどうでしたか?」
「ああ、だいぶ集まったぜ。種族だけでも1万は軽く超えてるよ」
懐かしの場所から全く知らない未開の地まで数日かけて王国を巡ったおかげか、現在モンスターボックスには様々な魔獣が溢れかえっている。
恐らく今、王国の魔獣全ては俺の胸の中に収まっているだろう。そう考えるとちょっと怖いな。
「そ、そこまで集まっていたのですか……。灯のことは信頼していましたがこれ程とは、少々あなたのことをみくびっていました。申し訳ありません……」
「ははっ、いいっていいって。まさか俺もこんなに上手くいくとは思ってなかったしな」
すでにプルムとの融合を解除し1人に戻っていた俺は、5箇所でどんな魔獣を仲間にしたのか把握済みである。
だがそれを思い返してみても、最終的に勧誘した魔獣全てが仲間になっているという事実には、自分自身驚きを隠せないでいた。
やはり俺の体質はちょっと異常なのかもしれないと思えてしまう程に。
「それだけの魔獣が居るのなら、魔力の方も十分かもしれませんね」
「帝国には行かなくていいってことか?」
「はい、灯達が王国へ行っている間に私の方で帝国の現状を調べてきましたが、少々荒れている様子でしたので、魔獣を仲間にするのなら獣人族の救出と同時進行が良いかと思われます」
「そこまでしてくれてたのか。サンキューなリツ」
なんと俺達が王国を巡っている間に、リツは帝国に偵察に出ていたらしい。
さすがは時間竜と呼ばれているだけあって、先を見て行動するのはお得意のようだ。
「ですのでしばしの休息ののち、世界の創造を始めようと思います」
「いよいよか、了解だ!」
こうして魔獣集めを完了させた俺達は、とうとう世界の創造へと動きだすこととなったのだ。
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