7章 14.白と黒
竜の島へ帰還した翌日、王国を巡るだけで十分な数の魔獣を仲間にした俺達は、いよいよ本格的に世界を創造する為に動きだす。
だがしかし、その前に俺にはどうしても1つ確認したいことがあった。
「リツ、帝国を見に行ってたなら、簡単でいいから現状を説明してくれないか?」
「えぇ、構いませんよ」
竜の島に残っていたゼクシリア達帝家はすでに話を聞いていたらしく無言でいたが、俺や魔人達も少しは話を聞いておきたいのだ。
「帝国は現在、エミヨンと名乗る女性が帝都を襲っておりました。帝都の方々も籠城して城を支えておりましたが、落ちるのは時間の問題だと思われます。帝都以外でも各地方で戦果は拡大しておりましたので、総合すると帝国の現状は最悪と言えますね」
「そうか……、どれだけ被害が広がるか分からないな」
リツは淡々と包み隠さずに帝国の状態を教えてくれた。口調は丁寧だが、内容をオブラートに包んだりしない辺りに人間と竜の差が感じられる。
それにしても、それだけ戦場が広がってるということは、獣人族にもかなりの被害が出ていることが予想されるな。
これは何としても世界の創造を急がなければ。最悪そっちが失敗しても現状の戦力なら帝国に攻め入ることも念頭に置いておこう。
「急ごうリツ、とっとと世界を創って帝国に乗り込むぞ」
「分かりました。ではまずは、私とクウの竜2匹と融合して下さい」
「おっけー、いくぞクウ、リツ!融合だ!」
『クウ!(うん!)』
俺はリツの指示を受け、モンスターガントレットを高らかと天に掲げ、モンスターボックスにいるクウと目の前にいるリツにそう呼び掛ける。
すると、モンスターガントレットは真っ白な光を放ち、俺達はその光に包まれた。
そしてしばらく光に包まれた後、クウとリツと融合した俺は姿を現す。
右半身は真っ白でふさふさな毛に包まれ、肩甲骨からは3枚の美しい翼がはためく。
左半身は純黒の鱗が埋めつくし、肩甲骨からは1枚の力強い翼が空を切る。
髪も右と左で白と黒にキッパリと分かれ、手からは鋭く硬い爪が生え揃い、尾てい骨辺りからは白黒2色の尻尾まで伸びていた。
白と黒、左右非対称の体であるが、なぜかそこには美しさを感じさせる見事な融合体となったのだ。
「これが、2体同時融合か……」
俺は全身を見回して、その歪さと力強さを合わせ持つ体に興奮する。
プルムで分裂しながらイナリと融合したことはあったが、あの時は体にそこまで特別な変化は見られなかった。
だからこうして実際に2体同時融合するのは初めてだったので、正直俺は今ちょっと浮かれている。
「ダーリン、なんて神々しいの……。はあぁ、素敵過ぎる……」
「なんと力強い姿、さすがは殿ぜよ……!」
シンリーは俺の姿に見惚れて頬を真っ赤に染めて目を蕩けさせているし、カイジンも感動で涙を流していた。
この辺の情に厚い組はいつも反応が面白いな。
「灯、お前それはもはや人間を捨ててるぞ」
「確かに、ご主人様もう人じゃない」
「おい、言い方酷いんじゃないか?」
ゼクシリアとドロシーは、俺の融合した姿をもはや人とは認めていなかった。
正直2人の意見も分からなくはないが、ハッキリ言われると傷付くので辞めてほしい。
「あなた方、それは少々言い過ぎですわ。まぁわたくしも否定は致しませんが」
「いやそこは否定してくれ!」
シーラは一瞬味方かと思われたが、やはり最後には彼女特有の毒が炸裂した。
そうそう、シーラは美しい容姿とは裏腹にこういうことを平気で言う奴だったわ。
『はぁ、彼らの話は無視して次に移りますよ……』
「りょ、了解だ。確か次は魔力を集めるんだったな」
魔人達やゼクシリアとの会話に呆れながらリツは、脳内で声を響かせてくる。
一応次の段階までは俺1人で十分だから、彼らには好きにしておいてもらおう。
「よし、それじゃあモンスターボックスの皆、俺に魔力を分けてくれ。出来るだけギリギリまでくれると助かる!」
そんな感じで、俺はどっかのサ〇ヤ人みたいなことをモンスターボックスにいる魔獣達に伝えた。
その直後、マジックストレージに続々と魔力が溜まっていくのを感じ取る。
一応始める前に竜の島にいる竜達も全員ボックスに入ってもらっていたが、これなら必要なかったかもしれないな。
それほどに膨大な量の魔力がマジックストレージに注がれているのだ。みんなありがとう。
「どうだリツ?これだけあれば十分じゃないか?」
『そうですね、私の想定していた以上の魔力が溜まっていて少し驚いてますよ。ですがどんな事態になるのか分かりませんから、何が起こってもいいよう魔力は大いにこしたことはありません』
『クウゥ……(うん、クウも暴走したせいで灯を巻き込んじゃったし。そうならない為にも沢山あった方がいいと思う……)』
リツの言葉にクウは申し訳なさそうな声音で反応してくる。
そういえば忘れていたが、俺がこの世界に来たのはクウの暴走が原因だったっけか。
「俺は気にしてないから元気出せよクウ、別にあれはクウが悪いってわけじゃないんだからさ」
『クウゥー!(灯―!大好きー!)』
「ははっ、よしよし」
クウが暴走した原因は、魔獣ハンターの竜の蹄共にある。結局あいつらも帝国の人間だったし、こうして考え直してみると問題の根源にはいつも帝国が関わってるな。
ゼクシリアやメルフィナには悪いけど、やっぱり俺は帝国があまり好きにはなれない。
「さて、魔力も十分集まったし皆そろそろ行くぞ!覚悟は良いな?」
「うん」
「もちろん!」
「いつでもいいぜ!」
「よろしいですわよ」
「あしに任せておくぜよ!」
俺の問い掛けに魔人達も気合い十分の様子であった。全員が俺の後ろに並んだのを確認すると、俺は今一度呼吸を整える。
「すーっ、はー……。よしいくぞ!異界の扉よ、開きやがれ!」
俺は両腕を前に突き出し、そこに魔力を惜しげも無く注ぎ込む。そしてそれと同時にクウとリツと融合したことで得た時空間魔法を発動させた。
すると、目の前の何も無かった空間に最初は小さな稲光が発生し、それは次第に大きさと数を増し、やがて空間に渦が生まれる。
「はあぁぁぁぁあ!」
俺は小さな渦目掛け間髪入れずに魔力を注ぎ続ける。
そうしていくと渦は徐々に拡大していき、渦は扉並み最終的に扉並みの大きさに留まった。
「ぐふっ、はぁ……、はぁ……、せ、成功か?」
『はい、成功です。この先は何も無い、新たな世界へと繋がっていますよ』
「はぁ、はぁ、そ、そうか……、よし」
俺は無事に新世界の扉を開けたことを喜び、小さくガッツポーズをする。
だがそれはまだ小さな扉を開けただけに過ぎない。ここからは更にこの扉が定着するまで維持し続けなくてはいけないのだ。
まだまだ勝負はここからである。
「灯様、だ、大丈夫ですか?酷くお疲れの様ですが……」
「ああ、大丈夫だよメルフィナ。こんなことでへこたれてられないさ」
メルフィナは俺の息遣いからその疲労具合を感じ取り、不安そうに駆け寄ってくる。
目が見えないのに走って、無茶をする奴だよ全く。
「私やっぱり灯様達のことが心配です。私もついて行きますよ!」
「それはダメだ。メルフィナには危険過ぎる」
「で、ですが……!」
「メルフィナにはメルフィナのやるべしきことがある。今はその為に力を溜めておく時期なんだよ。だから、ここで俺達の帰りを信じて待っててくれないか?」
ついて行くと言ってきかないメルフィナに向かい合って、俺は彼女の手を握りそう伝える。
彼女には、ゼクシリア達と共に帝国を立て直すという立派な使命があるのだから。
「……分かりました。私は皆様が無事に帰ってくることを信じております」
「おう!それじゃあ行ってくる!」
「はい!お気をつけて行ってらっしゃいませ!」
(行ってらっしゃい、か。昔は毎日の様に母に言ってもらっていた言葉だったが、ここ半年は聞いていなかったな)
メルフィナのその言葉に、俺の胸の中で熱く何かが鼓動するのを感じた。
俺は彼女の言葉の温かみを噛み締めながら、魔人達魔獣達と共に異界の扉をくぐったのである。
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