6章 14.勇者選別

 王都に集められた青軍騎士達。その目的は勇者を選別するためだという。


 勇者というものが一体何なのか。詳しいことは分からないが、剣の腕を競い合うというのなら、マリスは黙ってはいられない。




「僕自身の目標の為にも、この戦い負ける訳にはいかないな」




 彼は己の腰に下げてある剣の柄を強く握り締める。


 国民をま守りぬく最強の騎士を目指す彼としては、ここに集まっている同じ騎士達には、なんとしても勝たなければならなかった。




「勇者ねぇ、ったく国のお偉いさんは何を考えてるんだかなぁ……」




 ライノは今回集められたこの催しに、気だるさを感じつつも国の狙いに目をつける。


 元々勘だけはいい彼だが、このイベントにも何か企みがあるのではと睨んでいたのだ。




「でも私は楽しみですよ!皆強くなってるのかなー?」




 アマネは男2人とは違い、ただ純粋に集められたこの場を大いに楽しんでいた。


 訓練士時代の同期や先輩後輩達と久しぶりに再会出来ることや、更には一戦交えることが出来るという騎士にとってはまたとないチャンスに、心躍らせていたのだ。




「ではこれより、勇者選別について説明する。勇者とは、我が国で新たに開発された最新魔道具「勇戦闘者」を身にした者のことを言う!」




「「「おぉー」」」




 勇者選別について説明していた男の言葉を聞いていた周囲の騎士達は、端々に感嘆の声を上げていた。


 その勇戦闘者という装備がどれ程の力を持つかは分からないが、それでも国を挙げて開発された魔道具なのだ。当然弱いわけがない。


 強さを求める者なら興味の無い者はいないだろう。




「しかし勇戦闘者はたったの一式しか用意されていない。なのでこれから勇戦闘者を手にするに相応しい騎士を選別させてもらう!」




「なるほど、だから勇者選別って訳か」




 一通り説明を聞いたライノは、その内容に不敵な笑みを浮かべる。




「そんな強力な魔道具を開発して、何をするつもりなんだろ……」




「そんなもん決まってんだろうが、戦争だよ戦争」




「えぇ!そうなの!?」




 何気ない疑問を口にしたアマネに対し、先程何か気付いていた様子のライノは、呆れ気味に肩を竦めながら答えを言い放った。


 その言葉にアマネは驚きを隠せない様子だったが、横で一緒に聞いていたマリスも同じことが脳裏を過ぎったのか、額から冷や汗を流している。




「ここと別の場所では赤軍の騎士達も選抜に参加している。君達青軍にはこれから予選トーナメントに参加してもらい、勝ち上がったもの達で赤青両騎士団を合わせた決勝を行う!」




 この場にいるのは全て青軍だけ。そのことに関してはマリスも疑問に思っていたが、赤軍も別の場所で同様に選別を受けていると聞き得心がいった。




「へぇ、赤騎士の連中もいやがるのか。こりゃ何としても勝ち上がらねぇとなマリス」




「はい、勇戦闘者に関しては気になることはありますが、それ以前に是非とも赤軍の方々と手合わせ願いたいものです」




 ライノに声をかけられ、マリスは拳を強く握り決意を表す。


 赤軍にも腕自慢の強者は大勢いるというのは当然知っているので、そんな彼らと剣を交える機会に恵まれたことには、素直に感謝していたのだ。




「予選トーナメントは全8トーナメント用意し、無作為に組み合わせを用意している。各トーナメントから上位2名の合計16名が決勝へとコマを進めることが出来る。全員気を引き締めて臨むように!」




 説明者が最後の言葉を言い終わると同時に、彼の背後から8つのボードが運ばれて来た。


 そのボードの下部には騎士達の名前が記されており、上には枝分かれした線が描かれている。




「あれがトーナメント表か……」




 マリスはボードに記されたトーナメント表を凝視し、しばらくしてようやく己の名が記されている箇所を発見した。


 トーナメント表の上部には大きく「第4トーナメント」と書かれている。あれが通し番号の様なものだろう。




「お前達、何番だ?」




「私は2番ね」




「僕は4番です」




「そうか、見事にばらけたみたいだな。俺は5番だ」




 ライノ隊の各班長達は、見事に違う班に分かれていたようだ。


 ちなみにローネイやタックス達の班は、魔法による攻撃や支援が主な役割なので、今回の選別からは外れている。




「よっしゃ!そんじゃお前ら、決勝に行くまで負けんなよ。もし予選落ちしたら罰として1週間飯当番だからな!」




「えぇー、それはやめましょうよー」




「ははは……、まぁもちろんですよ。僕は誰にも負けるつもりはありませんから!」




「言ったなこの野郎」




 ライノ隊のメンバーは緊張感の欠けたいつもの雰囲気ではあるが、それでも全員やる気には満ちていた。


 最後に気合を入れて息を合わせた彼らは、それぞれのトーナメント戦が行われる会場へと足を運ぶ。
























 ――






















 第4トーナメント会場には、すでに何人もの騎士達が集まっていた


 己の剣の感触を確かめる者、瞑想し精神を統一させる者、仲のいいものと談笑し気を紛らわせる者、様々な騎士がいた。


 そんな中、マリスも己の剣を抜き剣の先を見つめる。こうしていると、自分の力を確かめることができる気がするからだ。




「マリス」




 そんな時、不意に後ろから声をかけられマリスは振り返る。


 そこに居たのは、ベタ塗りの真っ黒な髪を無造作に伸ばした切れ長の目をした男だった。




「ディーク、久しぶりだね」




 ディーク、彼はマリスと訓練士時代の同期であり、共に剣術の腕を競い合ったライバルである。




「お前もここに居るということは第4だったのか」




「ってことはディークも?」




「ああ、俺は勇戦闘者なんてモノには興味ないが、貴様とケリを付けるにはちょうどいい舞台ではある」




 ディークは切れ目をより細くし、鋭い眼光でマリスを睨みつけた。


 彼らはライバルであるとはいえ、仲がいいという訳では無い。ディークにとってマリスは絶対に負けられない相手なのだ。


 騎士になってからは会う機会も減ったが、彼の心の内に燃える炎は衰えてはいなかった。




「決着をつけるぞ、マリス」




「組み合わせだとディークと当たるのは決勝か。これは負けられないな」




 ディークは最後にもう一度マリスを鋭く見つめると、去っていく


 元々負けるつもりなど毛頭なかったマリスだが、これでより一層負けられなくなった。




「これより第4トーナメント1回戦第1試合を行います。対戦者ライノ隊マリス、ベリンガル隊レドルドロ。舞台へ上がり準備をお願いします!」




 呼び出しを受けたマリスは、より決意を新たにし戦いの舞台へと赴いた。




「相手はライノ隊の奴か。あの変人揃いの部隊にゃ負けられねぇな」




 レドルドロはアマネと同じ武装である長柄槍を上段に構えると、挑発まがいに言い放つ。




「よろしくお願いします」




 そんなレドルドロに対し、マリスはただ静かに腰から剣を引き抜き正眼に構える。




「それでは第1試合、開始!」




「はあぁぁぁ!」




 審判の合図と同時に、レドルドロは速攻で仕掛けてくる。


 槍のリーチを活かした鋭い突きが、マリスの喉元を一直線に狙う。


 マリスは即座に左小手盾を展開すると、その突きを軽くいなし、さらに横凪に剣を振るった。




「おっと」




「甘いっ!」




 だが、レドルドロは鎧に魔力を注ぎ起動させることで、高速で移動し剣を避け背後に回る。




「もらったぁ!」




 レドルドロはそのまま背中を見せるマリス目掛け鋭い刃を突き出す。




 だが、その動きをマリスは読んでいた。


 横凪に放った剣を勢いのまま振り、さらに左手を剣の柄に添える。




「ここだ!」




 体を回転させつつ、片手剣から両手剣へと変形した魔剣で旋回斬りを放つ。


 よもやそんな動きをするとは思っていなかったレドルドロは、マリスの動きに反応することが出来ず、槍の柄を狙われ真っ二つに断ち斬られてしまった。




「う、嘘だろおい……」




「武器壊しちゃってごめんね。でも、これで僕の勝ちだ」




 マリスは武器を失ったレドルドロの喉元に剣を突きつける。


 為す術の無くなったレドルドロは、苦笑いを浮かべながらゆっくりと両手を上げた。




「そこまで、勝者マリス!」




 審判の掛け声により、これにて第1試合は終了となった。




「ふぅ、これで1回戦突破だ」




 勝利を手にしたマリスは、剣を鞘にしまいながらほっと一息つく。




 かくしてマリスは予選トーナメントの1回戦を突破したわけだが、まだ戦いは始まったばかりである。

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