5章 30. 帝家側近の近衛兵に任命
アディマンテとの激闘を制したパーティー会場に、続々と魔法師団の面々が押し寄せてくる。
会場外の戦闘も無事終わった様で何よりだ。
「お、おい!何でこんな所に魔獣がいるんだよ!?」
「まさか敵の刺客か!?」
「あ、やべっ!」
呑気に勝利を喜んでいたら、魔法師団達は俺の仲間に目をつけだし、敵意剥き出しで魔法を放とうとしだした。
よくよく思い返してみれば、戦っている時はクウ達のことをどう誤魔化すかなど考えてもいなかったので、どうすればいいのか分からない。
「ま、待ってくれ皆!こいつらは敵じゃ――」
「落ち着け皆の者、この魔獣達は我ら帝家を守る為に密かに忍び込ませていた隠し球だ。敵ではない」
俺がてんやわんやしながら説明しようとしてると、ゼクシリア王子が代わりに皆を説得してくれた。
魔法師団達も王子の言うことならと信じて、敵意を消してくれたようだ。
さすゼクシリア王子、こういう時冷静に判断出来るのは羨ましい。
「灯、今のうちに魔獣を皆の目の届かない所へ移動しておけ」
「ありがとうございますゼクシリア王子、助かりました」
「何気にするな。そなたへの恩に比べたら些細なことさ」
ゼクシリア王子はそう言葉を言い残すと、アディマンテを引っ張って魔法師団達の元へと向かっていった。
俺も手早くクウ達を呼び集めると、一旦パーティー会場を後にする。
さすがに皆の目がある中でモンスターボックスを使うのは躊躇われるからな。
「よし、ここなら誰も来ないだろ。皆今回はありがとうな、助かったよ」
「クウー!(大したこと無かったよ!)」
「ピイッ!(えぇ、我々の力なら当然の結果です!)」
俺は結構押され気味だったと思うのだが、クウとライチは楽勝そうな表情を見せる。
配下に眠らされたこいつらは随分と余裕だな。
ともかく俺は1匹1匹にお礼代わりに頭や体中を撫で回し、モンスターボックスへと戻ってもらった。
後日たっぷりとご馳走を用意してあげよう。
「あっ、ダーリンこんな所にいたー!」
「プルムの言う通り」
「無事そうで何よりですわ貴方様」
クウ達をモンスターボックスに戻した直後、ドロシー、シンリー、シーラの3人がやってきた。
ドロシーの手にはプルムが抱えられていることから、プルムがここまで案内してくれたのだろう。
「お前らもお疲れさん」
「ダーリンもお疲れ様――って、ダーリン!その手どうしたの!?」
「ん?手?」
先程まで嬉しそうに駆け寄って来ていたシンリーさん表情が、俺の手を見た瞬間驚愕で青ざめてしまった。
何事かと思いモンスターガントレットを外し自分の手を見渡してみると、なんと右手の甲にびっちりと血がついていたのだ。
それに気づいた瞬間、何だかズキズキと痛みも走ってくる。
シンリーは腕から垂れている血を見て、すぐに気づいた様だ。
「痛っつ!ああ、これ結界を殴った時のか……」
イナリとの融合はすでに解除しているが、アディマンテの結界が想像以上に硬かったらしく、俺の手も無傷では済まなかったようだ。
ちなみに融合している間は、受ける傷は全て俺のもので魔獣達は一切痛みを感じていないらしい。
「手貸して!すぐに治すから!」
シンリーは慌てて俺の右手を握ると、手にツタを巻きつけ癒しの花を咲かす。
するとみるみるうちに傷は癒え、元通りの元気な手に復活した。
「おおー、完璧だ。ありがとうなシンリー」
「全く、あんまり無茶しないでよね」
「気をつけるよ。心配かけてごめんな」
シンリーは不安げな声音で説教をしてくる。本気で心配しているからこそ、怒りも混じってくるのだろう。
今回はあまり無茶してないとか、色々言い訳は頭に浮かぶが、ここはシンリーの好意に甘んじて素直に反省しなければ。
「その小手を付けていても怪我するなんて、相当硬いものを殴ったんですわね」
「まぁな、イナリと融合した上で殴ってこのザマだよ。その前に他の皆も攻撃を加えてたのにな」
「そうでしたか、やはりわたくし達の誰かを中に入れておくべきでしたわね」
「まぁ、それはもう何とかなったんだしいいじゃねーか」
シーラは会場での戦闘の様子を聞き、魔人を1人は中に入れておくべきだったと反省していた。
まぁ彼女の考えは最もだし、俺もドロシー達がいればもう少し楽だっただろうとは思うが、もう過ぎたことなのだし気にしても仕方が無い。
「そういやガンマはどうしたんだ?」
「ああ、あいつなら今は獣人族達と一緒にいるわよ」
「全員無傷」
「先導者も倒しましたので、今は何の命令もないから皆さん大人しいですわ」
獣人族達は被害を出すことなく無事保護出来たようだ。
いくら操られているからとはいえ、傷つけるのは抵抗があるので皆無事で何よりだ。
拘束が得意なドロシーとシンリーのお陰だろう。
「皆良くやったな。さて、そんじゃそろそろ俺達も戻るか!」
「うん」
「はーい!」
「分かりましたわ」
互いに軽く報告を終えた俺達は、魔法師団達のいるパーティー会場へと戻ることにした。
まぁ俺はこの後、実は魔獣使いだったことを説明しなきゃいけないし、あと恐らくゼクシリア王子には俺の融合が見られていると思うから、その辺の話もしなくてはならない。
これからやることを考えると憂鬱になりながらも重い足取りで戻るのであった。
――
パーティー会場へ戻ると、反皇帝派の貴族達の拘束はすでに終わっており、ぞろぞろと会場外へ引き連れている最中だった。
と、その中で俺は我が第1班の班長であるカローラを発見したので駆け寄る。
「カローラさん、お疲れ様です」
「おぉ灯か!やっと見つけたぞ。ゼクシリア王子がお前をお呼びだ、急いで着いてこい」
「り、了解です」
カローラに挨拶をすると、彼女は俺の手を引いてパーティー会場をそそくさと出ていく。
向かう先はゼクシリア王子用に用意された客間だろう。
彼女は貴族達の連行を手伝っていなかったが、ずっと俺を探していたのだろうか。
「ゼクシリア王子、灯をお連れしました!」
「入れ」
「はっ、失礼致します!」
「失礼致します」
そうこう考えていると、もうゼクシリア王子の待つ部屋に到着したようで、入室の許可を得たカローラに次いで俺も部屋に入る。
しかし、そこで待っていたのはゼクシリア王子だけではなかった。
いや、ゼクシリア王子には護衛がいるのだから1人じゃなくて当然なのだが、その護衛の面子に俺は驚いたのだ。
「よっ、随分と活躍したみたいだな」
「マーク、私語は慎め」
「おっと、これは失敬」
そこに居たのは2班の班長であるマークと、その班長の主任であるキールであった。
横にいるカローラと合わせて、魔法師団入団試験の試験官が揃い踏みである。
「ここに来てもらったのは他でもない。灯の正体についてお前達に話をする為だ。構わないな灯?」
「はい……」
まぁ大方の予想はしていたが、やはり俺のことに関する話のようだ。
まぁ俺を呼んでいる時点でそれ以外は有り得ないのだが。
ただこれまで上手く魔獣使いであることは隠してきた手前、悔しさはある。
「では単刀直入に言おう。灯は魔法使いではなく、魔獣使いだ」
「なっ……!」
「まじかよ……」
「そ、それは本当なのですか!?」
キールとマークは言葉を失ったかのように呆然とし、カローラだけがゼクシリア王子に食ってかかった。
まぁ自分の班員が実は魔法使いではありませんでした、何て知ったら信じられないのも無理はないだろう。
「本当だ。灯、問題無いなら見せてやれるか?」
「分かりました。出てこいクウ!」
「クアッ!」
ゼクシリア王子に頼まれ俺はモンスターボックスからクウを呼び出した。
「魔獣……!」
「なっ、どこから現れやがった!?」
「王子下がって下さい!」
「落ち着けお前達、その魔獣は安全だ。先の戦闘でも私やメルフィナを守ってくれた」
何も無い所から突然魔獣が現れたこと3人は驚き、次いで警戒して魔法を発しようと構えるが、それはゼクシリア王子が阻止する。
ゼクシリア王子の言葉を聞いて少しは信用してくれたのか、全員魔法を唱えるのはやめてくれた。
ただ、まだ完全に警戒は解けていない様子だったが。
「やっぱ、まずかったか……」
俺は彼ら3人の反応を見て確信した。魔獣使いではもう魔法師団には残れないことを。
しかしまぁそれも当然だろう。魔法が使えてこその魔法師団なのに、魔獣使いなど場違いも甚だしいのだ。
俺がいなくなってもまだドロシー達がいるから、情報収集はどうにかなるだろうか、なんてすでに次のことに思考を巡らせていた時、ゼクシリア王子からとんでもない発言が飛び出した。
「灯は魔獣使いで、それは魔法師団の主義に反するだろう。だが、彼の実力はそれを補って余りあるほどに優秀である。だから私は、彼を帝家側近の近衛兵に任命しようと思う」
「「「えぇ!?」」」
「ま、マジすか……」
ゼクシリア王子の発言に、3人は礼儀も忘れて声を張り上げる。
俺はというと、あまりの内容に驚きを通り越して思考が停止していた。
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