5章 29. 俺の仲間の最大火力

 ゼクシリア王子の強力な魔法のお陰で、アディマンテの配下2人を撃退することには成功した。


 だがその反動で王子の魔力は残り僅かとなり、もう戦えるのは俺達だけである。




「ライチは雷で牽制、クウは防御に専念、イビルは隙をついて切り裂け!」




「ピイィー!(了解です!)」




「クウー!(任せて!)」




「ギギッ!(承知でござる!)」




 俺の指示を受け、ライチとイビルは速さを活かし速攻で攻め入る。


 ライチによる先制の雷撃と、その間を縫うように詰め寄るイビル。


 この高速の連撃を防ぐ術はそう無いだろう。




「いい攻めだな。敵じゃなかったらスカウトしてたところだ!」




 だが、ライチの雷撃とイビルの鋭い鎌はアディマンテの周囲を囲む何かによって防がれた。


 アディマンテは一切傷を負っておらず、余裕の表情で俺を見下してくる。




「結界か……」




「そうだ、部下の結界には随分と手こずっていた様だが、そんなんじゃ俺のは破れないぞ。奴に結界魔法を教えたのは俺だからな!」




 アディマンテの配下が展開していた結界魔法は、ゼクシリア王子の全力でどうにか破壊できるというレベルの頑丈さである。


 そんな強力な結界魔法を伝授したのがアディマンテ本人であるとすれば、奴の結界魔法はより強力に違いない。


 帝国の魔法使い達には、今まで何度も勝ってきたせいか少し舐めている部分はあったが、今回はかなりまずいかもしれないな。




「くははっ、この絶対防御から繰り出される遠隔魔法に貴様らは手も足も出ないだろう!くらえホーミングバースト!」




「っ!クウ、回避だ!」




「クアッ!」




 結界の周囲を囲む様に外側に設置された発射口から、無数の弾が飛んできた。


 この程度の攻撃はクウなら余裕で回避出来るが、攻防一体のあの陣は厄介すぎる。




 結界内からじゃ自分も攻撃は出来ない。だが、それを補う為に予め結界外に設置しておいた発射口に魔力を流すことで、攻撃も可能にしている様だ。


 魔法の能力もさることながら、魔道具による攻撃手段も見事だと言わざるおえない。




「ちっ、やはり空間魔法は厄介だな」




「クウー!(どうだー!)」




「いいぞクウ!」




 だがこちらも防御にはそれなりに自信がある。幾度となくクウのワープで死線を潜り抜けてきたのだ。そう易々と攻撃はくらわない。




 アディマンテの放った魔法は着弾した瞬間激しく爆発するミサイルの様な魔法だ。だがそんな魔法も、当たらなければ怖くもなんともない。




「しかし、あの結界どう突破すればいいんだ……?」




 クウがワープでミサイルを回避している中、ライチとイビルは何度も結界を攻撃しているが、ヒビが入る気配もなく壊れる気は微塵もしない。


 俺の仲間は最強だと思っていたが、上には上がいると思い知らされた。


 だがそれでもここは勝たなくちゃいけないのだ。何としてもあの結界を破壊してみせる。




「面倒だな、どこを狙ってもあの竜が全て防ぐか」




 アディマンテは時折俺達だけじゃなくゼクシリア王子やメルフィナ王女向けて魔法を放つが、それも全てクウが防ぐので攻めあぐねている。


 このままじゃお互い決め手がなく、膠着状態が続くだろう。




「ライチとイビルの攻撃力だけじゃ結界は壊せない……か。ならもっと攻め手を増やすしか方法は無いだろ」




 アディマンテの防御結界の硬さを突破するには、ライチとイビルだけじゃなくもっと多くの攻撃が必要だ。




「仕方ない、防御を捨てるしかなさそうだな。クウ、しばらく守りは任せたぞ!グラス、ホーン、ミルク、アオガネ、こっちに来てくれ!」




 俺はメルフィナ王女の護衛に付かせていたグラス達を呼び戻す。


 王女の周りが手薄になってしまうが、そこはクウを信じ残りのメンバーの総攻撃で短期決戦に出る。




「馬鹿が!この隙を俺が逃すと思うなよ!」




 アディマンテは予想通り、手薄になったメルフィナ王女目掛けミサイルを一斉に発射する。


 だがそんな分かりやすい攻撃を防げないクウでは無い。




「クウ、それ全部あの結界に叩きつけてやれ!」




「クウー!(分かった!)」




 メルフィナ王女を襲う無数のミサイルは、クウのワープによって1発も余すことなくアディマンテの結界に帰っていく。


 爆発の煙が結界全体に覆われ、アディマンテの視界はゼロになった。




「今だグラス、ホーン、ミルク!ミサイルのぶつかった所目掛け一点集中で突撃だ!」




「「「ブオオォォー!」」」




 グラス達は俺の指示を聞くやいなや、縦1列に並び全力疾走で突撃した。


 グラス達の突進はアマネを天高く吹き飛ばす程の威力がある。


 だが、そんな強力な突進を3連続で受けたにも関わらず、結界は未だ健在だ。




「まだまだ!アオガネ、グラス達が狙った所を追撃しろ!」




「シャアァー!」




 アオガネは、その鞭のようにしなやかな体から放たれる鋼鉄の一撃を結界に浴びせた。


 アオガネ一撃によって煙が全て吹き飛ばされる。そして結界には、微かに傷が付いているのが見えた。


 ほんの僅かな亀裂だが、それでもその傷はあの結界か破壊可能であることの証明だ。




「よし、畳み掛けろライチ、イビル!」




「ピイイィー!」




「ギギィー!」




 ライチは全身を金色に輝かせ、最大威力の雷の矢となり突っ込む。


 ライチの強力な一撃によって、先程まで小さかった亀裂は見るからに大きなヒビと化した。


 更にそのヒビを抉るように、イビルの鋭い鎌が削っていく。




 だが、グラス達の突進、アオガネの鞭、ライチの矢、イビルの鎌、今の俺の仲間の最大火力を全てぶつけてもなお、結界を健在であった。




「く、くははっ、惜しかったな!だがここまで削ったのはお前達が初めてだ。褒めてや――」




「まだ終わりじゃねぇよ!」




 全ての魔獣が攻撃しても結界が破壊されなかったことに安堵したのか、アディマンテは何やら安心しきった声音で言っているが、俺達の攻撃はまだ終わっちゃいない。


 ライチとイビルが突撃する中、その背後に隠れて俺も走り出していたのだ。




 俺の右腕は今イナリと融合している。イナリは地上ではあまり活動出来ないが、俺と融合すればその能力を活かすことが出来る。


 イナリの表皮はダイヤモンドのように硬いのだが、それが今俺の右腕となっているのだ。




「これで終わりだ!」




 俺はイナリと融合したことで鋼以上の硬さをもった右腕で、渾身のストレートを叩き込んだ。


 これまで仲間達が攻撃を加え続けたことでボロボロになった結界に、トドメの一撃が入る。


 アディマンテの頑丈な結界はビキビキと音をたて、粉々に砕け散った。




「ば、馬鹿な、帝国最強である俺の結界が壊れるなんて……!?」




「へっ、後はお前だけだな」




 先程の余裕そうな表情は一転し、顔色を真っ青に染めて数歩後退りする。


 俺はアディマンテを逃がすまいと飛び掛ったが、奴はまだ諦めていなかった。




「こんなところで終われるか!ホーミングバースト!」




「しまっ――」




「全く、詰めが甘い奴だな。フレイムシールド!」




 油断してミサイルの集中砲火を食らうかと思われたその時、俺の周りを囲む様に火柱が立ち昇りミサイルを全て飲み込む。


 この魔法を放った声の主は、ゼクシリア王子だ。




「なっ、王子!?もう復活したのか……!」




「貴様もまだまだだなアディマンテ。灯という男の力を見誤ったようだ」




 火柱が消えた頃には、ゼクシリア王子によってアディマンテは組み伏せられ、取り押さえられていた。


 最後に美味しいところを全部持っていかれてしまったな。




「助かりました、ゼクシリア王子」




「いや、礼を言うのは私の方だ。灯のお陰で多少は戦える程度に魔力を回復出来たよ」




 ゼクシリア王子は清々しい笑みで手を差し伸べてくる。


 王子に対してこういうのは無礼かもしれないが、彼とはこの戦闘を通して友情の様な気持ちが芽生えていた。


 だから俺は、ゼクシリア王子の差し出してきた手を迷うことなく握る。




「王子!姫君!ご無事ですか!?」




 と、そこへぞろぞろと魔法師団の面々が押し寄せてきた。


 どうやら外の戦闘も全て終わった様だ。


 俺は魔獣使いだということがバレてしまったし、獣人族に関する情報も思ったほど手に入ってはいない。


 とんだパーティーとなってしまったが、ひとまずはこれにて一件落着だろう。


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