5章 28. 帝家に伝わる最強の魔法

 フリー、ミリアーラとの戦闘で攻めあぐねたガンマとシーラは、遂に魔人化し応戦する。


 魔人は普段生活に不便だからという理由で人型で生活している。だがこの状態だと自身の能力が制限されているのだ。


 それを解放させるのが「魔人化」であり、これこそが彼ら魔人の真の姿である。




「遊びはここまでだ」




「さっさと終わらせますわ」




 ガンマの魔人化した姿は全長7メートル程で、全身から紅蓮のマグマを吹き出し、頭部からは悪魔のような角が2本突き出している。


 シーラは4メートル程で、背は伸びても線は細く全身から溢れ出る海水がドレスの様に身を包む。




「な……、なん……」




「どういうことなの……!?」




 先程まで同じ人間だと思っていた2人の突然の変貌ぶりに、フリーとミリアーラは愕然とし言葉を失っていた。


 彼らが驚愕している理由はガンマ達の見た目もそうだが、1番はその溢れ出る魔力量にある。


 彼ら魔法使いは相手の魔力量を感じ取ることが出来るのだ。


 先程までは自分達と同レベルか少し上くらいだと思っていたのに、突然桁外れの魔力量を溢れさせたことにフリーとミリアーラは全身が硬直している。




「くらえクズ共」




「さようなら」




 だがガンマとシーラには、彼らが恐怖で身動きも取れないことなど関係無い。


 魔人化し能力を解放させた全力の一撃が、2人目掛け一直線に襲う。




「う、うそ……」




「ちぃっ!」




 襲いくる絶望的な攻撃に、ミリアーラは現実を受け入れられないでいる。


 フリーはどうにか体が動いたが、それでももう避けるには間に合わない。


 2人の貴族はガンマとシーラによる全力の一撃で、跡形もなく消し飛んだのであった。




「これで終わりですわね」




「ああ、これで獣人族達の命令も解けた筈だ。今のうちに助け出すぞ!」




「えぇ、分かりましたわ」




 ガンマとシーラは倒した奴らのことなど気にもとめず、死亡の確認もしないまま足早にその場を後にした。




 2人が去った後、ゆっくりと人影が1つ立ち上がることになど気づきもしないまま。
























 ――
























 パーティー会場で戦闘が始まってから小一時間が経過した。


 現在俺はゼクシリア王子と共にアディマンテの配下と戦っいるのだが、状況はあまり芳しくない。




「おい起きろクウ、ライチ!」




「ダメだな、奴を倒さん限り目覚めはしないぞ」




「くそっ、厄介魔法だな……!」




 クウとライチは現在、敵の催眠魔法にかかりグーグーいびきを立てて眠っていた。


 敵の戦闘スタイルは1人が頑強な結界魔法を展開し、もう1人がその結界に守られながら強力な催眠魔法で眠らせてくるという、悪どいものである。


 普通の攻撃ならクウ達の敵ではないが、こういうサブウェポン的な戦法にはめっぽう弱いということを思い知らされた。




「くははっ!いい気味だな、貴様らにこいつらを倒す術は無いだろう!」




 アディマンテの高笑いが非常に腹立たしいが、その通りなので何も言い返せない。


 敵の催眠魔法は、影響範囲が狭いお陰で、俺や離れて戦っていたゼクシリア王子には届いていないというのが唯一の救いだ。


 だが、狭くはあるが近づけば一瞬で眠らされてしまうので、攻める手段が思いつかない。


 このままでは敵にジリジリと距離を詰められ、そのうち全員眠らされてしまう。


 そうなる前に何か手を打たなければ。




「灯、何かこの状況を打破する手はあるか?」




「……いえ、思いつかないです。うちの仲間は基本近接戦がメインで、唯一遠距離に強いライチも眠らされてますので」




 現在無事なら仲間は、メルフィナ王女とへレーナさんを守っているグラス達とアオガネ、それにギリギリで催眠を避けれたイビルだけだ。


 プルムは今外に行ってるし、イナリは地上では活動出来ない。


 俺と融合すれば多少は能力を使えるが、それでもあの結界を破るまではいかないだろう。




「そうか……、仕方ないな。あの馬鹿を倒すまでとっておきたかったが、ここで使うか」




「え?」




「灯、今から私は全力の一撃であの結界を破壊する。その隙にあの2人を仕留めてくれ」




「は、はい……!」




 万事休すかと思われたが、どうやらゼクシリア王子にはまだとっておきの一撃が残されているらしい。


 あの結界を破壊するなど相当な破壊力だが、そういうことなら俺は王子を信じて備えるだけだ。




「いくぞイナリ」




『ボアァ!(任せておけ!)』




 俺は誰にも悟られない様に小声でモンスターボックスに呼び掛け、イナリと融合する。


 ついでに会場に散乱されていたまだ栓の空いていないワイン瓶を片手に取り、これで準備は完了だ。




「ではいくぞ灯」




「はい!」




 俺と同じタイミングでゼクシリア王子も準備が完了したらしく、全身から濃醇な魔力が全身から溢れ出ていた。


 最近俺は融合することで魔力を少し探知することが出来るようになったが、これ程までに強力な魔力は魔人以外で見たことがない。


 さすがは皇帝の息子なだけあり、能力も帝国随一のようだ。




「我が帝家に伝わる最強の魔法を見せてやろう。コロナストライク!」




 ゼクシリア王子が魔法を唱えた瞬間、耳を割るような爆音と共に視界が一瞬真っ白な世界に包まれた。


 ようやく目が慣れてきた頃になると、王子の手のひらから噴射される青白い炎が、結界を直撃しているのが見えてくる。


 結界はベキベキと音をたて、今にも崩壊寸前であった。




「んぬぅ、もう少しだ灯!結界を破壊したら畳み掛けろ!」




「り、了解です!」




 ゼクシリア王子の放つ想像以上に高威力な魔法に俺は度肝を抜かれていたが、その声で冷静さを取り戻す。


 左手に持つワイン瓶を握り締め、破壊されるのを今か今かと待ち構える。




「や、やべぇ……!」




「壊れるぞ!?」




 と、その時結界に一際大きな亀裂が走りそこを境目に結界の至る所にヒビが入って勢いよく砕け散った。


 それと同時にゼクシリア王子の魔法も止まる。


 王子は肩で息をしてもう限界な様子だ。




「今だ!」




 俺は結界が砕けた瞬間イナリと融合している右腕目掛けワイン瓶を叩きつけ、勢いよく割った。


 びんの瓶の破片は飛び散りるが、俺の腕はイナリの融合しているお陰で鋼よりも硬く無傷である。




「喰らえこの野郎!」




 俺は赤ワインでぐっしょりと濡れた右腕を力の限り敵2人目掛け振るう。


 その瞬間右腕を濡らしていた赤ワインの雫が勢いよく2人向けて襲いかかる。


 イナリは海中なら液体を口から吐き出す能力があるのだが、融合している今地上でも水さえあればこうして弾丸の様に飛ばすことが出来るのだ。




「ぐはぁっ!」




「ごほっ!」




 俺が飛ばした無数の赤い弾丸はアディマンテの配下2人に次々と命中し、その凄まじい威力であっという間にノックダウンさせる。




「はぁ、はぁ、いいぞ灯……」




「大丈夫ですかゼクシリア王子?」




「ああ、少し魔力を使いすぎただけだ。まだ戦える……」




 ゼクシリア王子は息を切らして顔色も悪く足もフラフラだ。


 本人はまだやれると言っているが、後は俺達に任せてもらおう。




「ゼクシリア王子は休んでいて下さい。後は自分達がやりますから」




「し、しかし、王子としてケジメをつけなくては……」




「もう十分ですよ。それに、俺の頼もしい仲間も目が覚めた見たいですから」




「クウー?」




「ピイィー!」




 催眠魔法の奴が気絶したお陰で魔法が解けたのか、ようやくクウとライチが目を覚ます。


 クウまだ状況を理解出来ていない様子で、不思議そうな声を上げているが。


 ともかくこれで戦況は逆転した。後は敵の親玉であるアディマンテを倒すだけだ。




「覚悟しろよアディマンテ。お前は絶対にぶっ潰してやるからな」




「はっ、配下2人を倒したくらいで調子に乗るなよ若僧が。王子はもう戦力にならねぇだろうし、お前じゃ俺には勝てねぇよ!」




 アディマンテはゼクシリア王子が戦闘に参加出来なくなったとあって、余裕の笑みを浮かべる。


 だがこっちにはクウ達がいるのだ。万が一にも負けなどあるはずが無い。




「皆やるぞ!」




 気合を入れるため俺は声を張り上げ、いよいよ最後の戦いが幕を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る