5章 16. 初任務

 皇帝と謁見した後、俺達は会議室へと連れてこられた。


 その目的は、これから任務を行うにあたり一緒に行動する班分けをするためだ。


 俺達は8人いるので、4:4に分けられる訳だが、もし仮に仲間の5人のうち4人が一緒になれば、1人だけ仲間外れになる可能性がある。


 何とかしてそれだけは避けなければならないのだが、班分けはキールが行なうので運に任せるしかない。




「ではこれより貴様らの班を発表する。第1班はジード、ザリュー、灯、ドロシー。第2班はレナリア、シンリー、ガンマ、シーラだ。それぞれ1班にはカローラ、2班にはマークが班長としてつく。いいな?」




「「「はい!」」」




 班分けはうまい具合に2人と3人に分かれた。


 ジードとザリューが同じ班員と言うのは気がかりだが、まぁ一人ぼっちだった可能性に比べればだいぶマシだろう。


 面倒事は起こるだろうが、カローラもいることだし奴らも任務中にはさすがに下手な行動はしないはずだ。




「では明日より任務を開始する。今晩はささやかだが祝いの席を用意しているので、そこで英気を養うように」




「やった、ご飯!」




「はしゃがないでよドロシー、みっともない」




「へっ、だがたまには豪勢な食事もいいもんだぜ」




 はしゃぐドロシーとガンマの後をを、シンリーがやれやれと言った様子で追う。


 しかしシンリーの背中はえらく楽しそうで、その様子から彼女も満更でもないということが伝わってくる。




「ふふっ、わたくし達も行きましょうか、貴方様」




「ああ、そうだな」




 俺とシーラは、そんな3人に少し遅れながらも食事の場所へと向かう。


 辛いと思える訓練は無かったとはいえ、1ヶ月も缶詰め状態にされ強化合宿の様なものをさせられたのだから、だいぶストレスが溜まっていたらしい。


 この日は結局俺も、めいいっぱいはじけて楽しませてもらった。


 これで明日からの任務にも心置き無く挑めそうだ。もちろんそれ以上に、俺達の本来の目的の方も。






















 ――
























 訓練最終日の宴も終わった翌日、俺は第1班のメンバーと朝早くから会議室に顔を揃えていた。


 その目的は当然、今日から始まる任務の説明である。




「我々第1班の任務は、数日後に行われるパーティーに出席する第2王子と第3王女の護衛だ」




 初任務とはいえ、俺達はあの500人の入団希望者の中から選ばれた精鋭である。ともなれば受ける任務の難易度もそれに比例し高くなるのは必然だ。


 そのことはこの1ヶ月の訓練で嫌という程教えこまれたので覚悟は出来ている。




「いよいよ僕の力を振るう時が来たか」




「おい灯、お前足引っ張るんじゃねーぞ」




「はいはい、分かったよ……」




 ジードとザリューはやる気に満ち溢れているようだが、俺への風当たりは全く変わらない。


 隠してきたのは俺達だから仕方ないとはいえ、いつまでもこんな態度を取られると、さすがにムカついてはくる。




「護衛とはいえ我々は今回が初任務だからな。王子達からは1番遠い所の警護を割り振られている。あまり気負い過ぎずリラックスして挑めよ」




「何をすればいいの?」




「ここ最近は反皇帝派の動きが活発になってきている。そいつらに雇われた魔法使い共から王子らを護るのが我らの使命だ」




「分かった」




 ドロシーのこれまで訓練で何を学んできたんだ?という発言にも、カローラさんは優しく応えてくれた。


 俺ならそれだけで一悶着ありそうなものだが、カローラさんは口調が固い割には意外と優しい。




「もう質問は無いな?では1時間後に出発するから各自準備を整え次第再度ここに集合だ。1時解散する」




「「「はい!」」」




 簡単な打ち合わせが終わると、その場は解散となった。




「ご主人様、どうする?」




「反皇帝派は恐らく獣人族の奴隷を使ってくるはず。情報を集める絶好の機会だからな、これを逃す手はないよ」




 帝国は良くも悪くも実力主義の国であるため、常に下克上を狙い動くものが後を絶えない。


 さらにここ最近はより一層過激になっているらしいので、今回の任務では間違いなく戦闘が起こるだろう。


 これまではたまたま争いごとには巻き込まれずここまで来れたが、そろそろこの国にいる獣人族達と出会ってもおかしくない頃だ。気を引き締めて挑まなければ。




「王女様のことはいいの?」




「ん?なんのことだ?」




「ご主人様、王女と仲良いんでしょ?」




「いや、この前はたまたま出会っただけで仲が良いって訳じゃ……。でもまぁメルフィナ王女のことは嫌いじゃないししっかり守るさ。第2王子がどんな奴かは知らんが」




 ドロシーに突然メルティナ王女のことを振られ驚いたが、俺は正直彼女のことは嫌いではない。


 獣人族達を奴隷にした帝国は許せないが、それは戦争に関わる過激な連中である。


 ここ1ヶ月の間に、皇帝を初め帝家が獣人族を奴隷にしているという情報は、一切入ってこなかった。




 帝国に1ヶ月滞在してみて、当初の帝国は全て敵という考えは最近薄れてきている気がする。


 それでもその分獣人族を利用している奴らを見つけたら徹底的に叩くつもりではいるが。




「よし、全員揃っているな。では馬車に移動するぞ」




 そんなことを考えながら準備を済ませているといつの間にか集合時間がやって来たようで、カローラの案内の元俺達は馬車に乗り込む。


 俺は相変わらず体質のせいで馬にやたらと絡まれ、馬車に乗るのも一苦労だったが。




「はっはっは!おい灯、お前馬にまでなめられてんのかよ!」




「情けない……、こんな奴が僕と同じ班で本当に大丈夫なのか?」




「お前達、少しは静かにしろ。もう任務は始まっているのだぞ」




 俺の体質のことを知らないジードとザリューは、俺が馬に弄ばれていると勘違いし馬鹿にしてきた。


 もういちいちこいつらに構うのもだるいので、最近は無視している。


 今回は任務中ということもあり、カローラが注意することで2人も黙り込んだが。




 そんなこんなで馬車に揺られながら、俺達はパーティー会場へと目指す。


 今回の会場は帝都から西にある地を統治する貴族の家で行われる。


 そこの貴族と皇帝は昔から縁があるらしく、今回のパーティーには王子らが招待されたらしい。




「西地区までは3日以上かかる。その間何人たりとも我々一団に近づけるなよ」




「「「はい!」」」




 カローラに改めて念を押された俺達は、より一層気を引き締めて任務に臨む。




 だがそんな俺達の気合いとは裏腹に、何事も起こらないまま最初の夜がやってきた。


 この日は野営をするらしく、城暮らしの王子らには少々キツいだろうが、まぁ付き人が何人もいるのだから心配はいらないだろう。


 ちなみにシンリー達第2班は、王子らの野営地を挟んだ反対側の南を見張っている。




「敵だ!」




「敵襲―!」




 野営を初めて1時間もしないうちに、敵襲の声が上がった。


 聞こえてきたのは俺達の隣を見張っていた東側からだ。


 想定していたよりも早すぎる襲撃に、全員驚きを隠せないでいる。




「もう来たか、想定よりもかなり早いが我々も戦闘態勢に入るぞ!」




「「「はい!」」」




 カローラからの指示で全員が臨戦態勢に入ったその瞬間、俺達の見張っている北方面からも敵が姿を現した。




「うおらぁ!」




「隙ありぃ!」




「泥玉」




 茂みの中から馬と共にかけてくる魔法使い達に対し、ドロシーが先制で泥弾を放つ。


 泥弾の直撃を受けた魔法使い達は次々と馬から転げ落ちていくが、弾が外れた何人かは俺の方目掛け肉薄してくる。


 恐らく馬が俺の体質に反応したのだろう。




「早速初陣か、くらえヴァジュラ!」




 俺は迫り来る魔法使い達を雷撃で瞬殺する。


 こうして帝国での初の実戦が幕を開けたのだった。


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